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教員採用制度の根本的な問題を「教員の代役への研修」へと矮小化すべきではない


教員不足問題

毎日のように報道されているのが教員不足の問題です。以前も書きましたが、実際にはほとんどの自治体において正規採用教員の採用倍率は1倍を切っておらず、数字上は不足していません。

では何が不足しているかというと、病休や産休といった欠員を埋めるための代用教員ということになります。

代用教員は一般には臨時的任用職員、会計年度職員と呼ばれ単年度契約で教員をする人のことを指します。

代用教員をしている方は主に2種類が存在し、定年退職後の再雇用組と採用試験の不合格者で次年度以降の採用を目指す組に分かれています。

現在不足しているのは特に後者で、これまでは採用試験の倍率に物を言わせて、僻地の学校に勤務をさせるなど都合の良い人材として活用されてきた人材です。

ところが採用試験の倍率が低下し、行列待ちの人数が減少したために低待遇低賃金で使い潰す駒が少なくなって困っているというのが教育現場の現状です。

授業スキルの低い代用教員の存在

当然ながら、行列待ち組の教員の多くは教員経験がほとんどなく、授業スキルが低い人が少なくありません。

その問題が顕在化しているという記事がネットに上がっていました。

首都圏のある公立小では昨年から、教員不足を補う代役である臨時的任用教員(臨任教員)3人に対し、校長が放課後に算数の教え方について指導する自主研修の時間を設けている。

教育業界、学校現場を知らない人から見ればこの話は美談に見えます。

熱意のある若手の先生が、放課後に理解ある校長の下で自主研修に励む、涙が溢れそうになる場面です。

しかし現実的な問題として考えた場合、まったく異なる視点が存在します。

正規採用もしていない臨時の契約社員の弱みに付け込んで、勤務時間外に「自主的に」という名目で無給の研修を強制するブラック企業という見方です。

研修制度の不備

この問題の根本にあるのは教員社会における「研修」の軽視です。

記事内では正規採用教員に関しては研修制度があるとしています。

 採用試験を受けて合格した正規教員は1年目、「初任者研修」と呼ばれる年間プログラムを受講するが、臨任教員には経験の有無にかかわらずこうした研修はない。

ではその「初任者研修」とやらで実践的なスキルが身につくかを調べてみます。以下のnote記事に初任者研修に関して内容がまとまっていました。

リンク先の最後にもあるようにこの研修の価値を否定するつもりはありませんし、見えない部分での成長が見られるでしょう。

しかし、現状の問題は目の前の授業をこなすスキルに関するものです。どう考えてもこれが解決に繋がるとは到底思えません。

学徒動員レベルの新卒教員

そもそもこの問題の根本には、新規の採用職員を担任や教科担任として4月から生徒の前に立たせるという教員社会の異常性が起因しています。

一般的な企業において、新卒1年目の社員を客前に一人で立たせるということはそうそう考えられません。しばらくは研修所で研修したり、先輩について回って仕事を覚えるなどをするはずです。

教員の場合、基本的にそうした時間は存在せずに、いきなり即戦力として投入することになります。これは学徒動員とそう変わらない人材の使い捨て行為です。

さらに原因は余剰人員の欠如

そしてその問題のさらに根本に存在するのは教育現場における余剰人員の欠如です。

要は学校内に誰かの代理で業務をこなすことが可能な人員が存在しないために、学徒動員張りに新卒職員が立たざるを得なくなる、ということです。

したがって今回のニュース記事を読む上で気を付けなければならないのは、「だから教員の研修を増やそう」、「臨時教員にも研修をしよう」という短絡的な結論に至らないようにするということです。

そうしたところで忙しい現場にさらに混乱を招くだけで、決して良い結果を生むことはないでしょう。むしろさらに教員離れや精神疾患を増やすことになりかねません。

この問題の真の原因は文科省や教育委員会の現場感覚の無い人たちの現場の採用抑制、さらにその問題の根源にある予算の不足です。

しかしそうした雲の上の問題だけでなく、部活動など本務ではない余剰業務を嬉々として受け入れてきた現場教員の責任もまた重いことを自覚する必要はあるでしょう。
(実際、財務省はそうした余剰業務を削減せずに人件費の増加は認められないとしています)

こうした問題の解決は特効薬のようなものは存在しません。少なくとも現場の研修を増やすという安直、短絡的な解決案が意味をなさない、むしろ害悪であるという認識をする必要があるのではないでしょうか。

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