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「埼玉超勤訴訟二審敗訴」に見る教員の働き方の問題

教員の方、特に働き方改革に興味のある方ならばおそらく注目していたであろう裁判の控訴審が原告敗訴となりました。

内容としては、労基法上は時間外にあたる時間に勤務したものに対して手当てが出ないのは違法ということで教育委員会を相手に起こした裁判になります。

給特法と教職調整額

給特法の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」というものです。

その内容を簡単に言うと

公立学校の教員には残業という概念は存在せず、管理者は通常残業命令することはできない。しかし緊急かつ特別な事態の超勤四項目(実習、行事、職員会議、災害)に限っては残業を命じることができる。
また労働時間を管理しにくい特性上、月8時間程度の残業時間は自然発生するため給与に加えて教職調整額を給与月額4%上乗せする。

というものです。これにより、公立学校の教員は管理職からの残業命令を受けることは法律上はありません。

今回の裁判では、原告の主張としては教員の授業の準備や丸付け、提出物の管理、学級新聞などの業務で実際には調整額分を上回る残業代を支払う必要があるのでは、というものです。

今回の判決

今回の判決の大まかな内容は、超勤分は多少あるがそのほとんどは職務命令によるものではなく、自発的にしているものに過ぎないので国会賠償請求には当たらない、という一審判決を受けての棄却となりました。

正直な印象としては、こうした教員の方の努力には敬意を感じる部分もありますが、法律を読んだうえで、あるいは現状認識を踏まえると二審の控訴棄却は妥当な判決と言わざるを得ません。

自発的業務を徹底しすぎる問題

教員という職業を選ぶ人々の多くは、誰かのためになる仕事、直接誰かに貢献するのが見える仕事に就きたいという傾向が強いようです。

実際、教員の仕事は頑張った分だけ直接的に感謝されることが多く、やりがいをダイレクトに感じやすい職業と言えるでしょう。

そうした特性と残業代が出ない給特法という制度が合わさることで、「定額働かせ放題」職業となってしまったのでしょう。

さて、本控訴審においての話になると、今回の裁判資料を一審から見てきましたが、やはり不要な仕事をすべて請け負っているという印象をぬぐえません。

というよりも、真面目に毎日すべての業務を行い過ぎではないかという印象が強く残りました。

給食や掃除の指導に関しては、危険性を考慮すると小学生の場合はある程度観察をしっかりする必要があるため、事務作業の並行は困難でしょう。

しかし、それ以外にも授業中にうまく自習を作って本当に必要なものを採点、コメントするがそれ以外はある程度なあなあで誤魔化すなどの手法も可能でしょう。

小学校の先生方は十分頑張っている

この記事は小学校の先生を批判するためのものではありません。

私は労働問題に関して関心も深いですし、知人の小学校教員の方の努力も知っています。

ただ、今回のような裁判は現実に要不要を議論する場であり、不要なものや命令のない業務を行うことは残業代になるはずがないのです。

まして、「校長や周囲の圧力が」程度の強制力では命令があったかどうかを議論するのも難しい問題です。

にも関わらず今回の控訴審で残業代請求の正当性を認めた場合、日本中の学校が残業代で悲鳴を上げるのは間違いありません。

その影響力を考えれば政治の場に議論を移す問題であって、裁判所が判断をすることが難しいため、あくまでも教員側の自発的残業という体を崩すことは不可能でしょう。

法律的な争いではなく、内部的な変化が必要

私の勤務校は高校、しかも私立学校であり、給特法は無関係であり、労働基準法によって守られる立場です。

しかし、際限ないボランティアで時間を使う人間は存在します。

かつては私自身も生徒のためになるのならばすべてするべきである、と考えていました。働き始めてから何年も午後10時より早く帰った日が何日あったかどうか、そしてそれを自分も周囲も当たり前だと感じていました。

このように私立でさえも、自発的な業務を際限なく行うことは十分にあるのです。(最近はほとんどありませんが)

だからこそ、新しい法律の誕生を待つのではなく、一人ひとりが労働者である立場を自覚し、必ずしも必要ではないような労働行為を減らしていくほかないのではないでしょうか。

教育委員会や管理職が労務管理を適切に行っていないことは確かに問題です。さらには、自発的に教員が行うように誘導しているケースもあるようです。

そうしたことはもちろん個別に解決すべきですし、もし仮にそれが実際に行われているのならば裁判で一つ一つ争っていくべきでしょう。

しかし、それとは別に個人が自覚的に自分の労働時間を管理するということの重要性もまた高まっているのはないか、とも思うのです。



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