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2023/3/6週|経営者がCMOを採用する時に考慮するべきポイント

OpenTableの元CEOで、ベンチャーキャピタル大手Andreessen HorowitzのゼネラルパートナーであるJeff Jordonが、過去書いた「Hire a CMO(CMOを雇う)」というブログを読んだので、その要旨をまとめつつ、感じたことを言葉にしておきたいと思います。

CMOに求める役割の違いは何から生じるか

まずこのブログの中で指摘されているポイントをまとめると以下のようなことです。
やや長いのでいくつかに割りながら。

まずCMOの役割について。

・CMO(Chief Marketing Officer)は、通常、営業責任者と並んで、成長を推進する2つの重要なポジションのうちの1つです。
・CMOは、会社のユーザーや顧客のベースを拡大することに責任を持ち、その指標について責任を負います。また、収益と利益の増加、エンゲージメントとリテンションの促進、クリエイティブ、ブランド、コミュニケーション戦略の指導にも責任を負います。
・CMOの役割は、企業によって大きく異なることがあります。CMOの役割が大きく異なるのは、消費者(toC)向け企業と企業(toB)向け企業でよく起こることです。消費者向けビジネスでは、CMOは広告やオーガニック商品などの手段による直接的なユーザー獲得に責任を持つことが多いです。消費者向けビジネスでは、CMOは広告やオーガニック・アクイジションなどの手段による直接的なユーザー獲得に責任を持つことが多い。企業向けビジネスでは、CMOはリードジェネレーションやセールスイネーブルメントに直接責任を持ち、営業責任者と緊密に連携して複雑で長いGo to Marketのマシンに供給する必要がある。
・そのため、toC向けとtoB向けのCMOは、異なるタイプの役割となる両者を行き来できる幅広いスキルと経験を持つCMOもいるかもしれませんが、私の経験では、両者で世界トップクラスの能力を持つ人はかなりまれです。

上記のようにtoC向けのサービス・製品を提供しているか、toB向けのサービス・製品を提供しているかでもCMOの役割は変わりますが、そうしたドメイン以外にも企業が必要とする "マーケティングのタイプ" によっても求めるCMOが変わると指摘しています。

・Intuitの創業者であるスコット・クックは、何年も前に私に「世の中には2種類のマーケターがいる」と話した
・一つ目の「アーティストCMO」は、ブランドのポジショニング、そのポジショニングに沿ったマーケティング資料やストーリーテリングの開発、メディアキャンペーンの実行など、マーケティングにおける多くの定性的なタスクに精通したエキスパートです。このようなCMOは、メディア、特にオフラインメディアに多額の費用を費やす企業で活躍することが多い。
・二つ目の「サイエンティストCMO」は、マーケティングにおける定量的な作業の多くに精通し、特にユーザー獲得戦略や経済学など、グロースハック(これは別の名前のマーケティングだが、ネットワーク効果ビジネスの文脈では独特の意味合いを持つ)に関連する最適化を行う。多くの科学者CMOは、エンジニアリングの分野から、あるいはダイレクトマーケティングの世界から発展してきた。

CMOを採用する上で考慮するべきポイント

経営者(CEO)として、CMOを採用する上での大事なポイントとして以下を指摘しています。

・まず、CMOを採用する前に、自社のビジネスがどのようなタイプのCMOを必要としているのかについて、十分な情報を得ることが重要です。あるタイプのCMOを採用した後に、別の役割で成功することを期待すると、リスクが大きすぎます。ベテランマーケターの多くは、自分の「スイムレーン」に留まる傾向があります。履歴書に書かれた過去の経験は、キャリアを通じて一貫しているのが普通です。
・アーリーステージのスタートアップの現実は、CMOをターゲットにする前に、他のマーケティング担当者を何人も採用することになります。
・アーリーステージの企業が有能なCMOを惹きつけるのは難しい。なぜなら、最も成功しているCMOは、非常に高い報酬を得ているためだ。
・toB向け企業でCMOを採用する場合、営業責任者と密接に仕事をすることになり、同じ考えでなければならないことを知っておいてください。toC向け企業で採用する場合は、製品責任者と重要なやり取りをする可能性が高いでしょう。このポジションの幹部は、自社に適したCMOを見極めるのに役立ちますし、そうすべきです。
有能なCMOは、適切な役割を果たすことで、会社を発展させる可能性を秘めています。CMOのキャスティングを誤ると、通常、成長を犠牲にすることになるため、非常にコストがかかり、会社を大きく後退させることになるからです。すべてのスタートアップのCEO、特にCMOの役割に精通していない技術系の創業者は、この重要な採用を正しく行うために時間と注意を払うべきです。

参考までに、過去の経験からマーケティング組織に必要な機能を追加する順番にリストアップもしています。(以下では引用していないが、原文ではその他のコアな機能としてプロダクトマーケティングも指摘しています)

①ユーザー獲得/リードジェネレーション:
実際の顧客や潜在顧客を直接獲得することで、企業の成長を支援します。リードジェネレーションには、検索エンジンマーケティング(SEM/有料)、検索エンジン最適化(SEO/有料)、ソーシャル(有料・無料)、コンテンツ広告など、複数のチャネルが含まれます。
②マーケティング・コミュニケーション:
企業や経営者の物語を定義し、メディアや会議などを通じて、認知度や理解度を高める活動を行います。また、オフライン広告やネイティブ広告のバイイングもここに置かれることが多い。
③リテンション/エンゲージメント:
すでに獲得したユーザーのエンゲージメントを維持させることに焦点を当てます。ここでの主な取り組みには、ユーザーをフォローアップし、インセンティブを与えるメッセージング(Eメール、アプリ内)や、リターゲティングキャンペーンが含まれるのが一般的です。
④ビジネスデベロップメント:
ユーザーの成長、認知度、収益化を促進するために他社と協働します。戦略的なパートナーシップを通じてビジネスを成長させることを目指す、「ディール」チームなのです。
⑤ブランド・ポジショニング:
ブランドが何であるか(そして何でないか)を明確に定義するものであり、これには、ブランドを競合他社と相対的に位置づけることも含まれます。創業者は通常、会社の初期段階でこれを定義しますが、マーケティング部門は、市場の牽引力、顧客からのフィードバック、望ましい差別化などに基づいてこれを更新し、最終的に洗練させていくことがよくあります。
⑥クリエイティブ:
ブランドのポジショニングを、広告や販促物、ウェブデザイン、さらには製品のユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンスなどを通じて、現実のものに変換していきます。
⑦イベント:
顧客だけでなく、開発者や特定のプラットフォーム上のプロバイダーなど、他のステークホルダーとの関わりを深め、成長を促進するのに役立ちます。Oracle World、Dreamforce by Salesforce、Airbnb Openなどがその代表的な例です。
⑧リサーチ/アナリティクス:
ブランド認知度、ターゲットユーザー、競合のポジショニングなど、財務的なものではないが重要な業績指標について、情報に基づいた視点を開発します。ここでのベストプラクティスは、一次および二次調査ソースの両方を活用することです。

実務として役割を担う中で感じること

さて、上記も踏まえ2023年現在CMOという役割を担わせてもらっている中で感じたことを以下でメモしてみます。

企業向けか消費者向けかの違い

現職のタイミーは Two-sided platform(両面性市場) という構造であり、1社にいながらtoB領域もtoC領域もある点が特徴です。
ゆえに、ここの違いをダイレクトに感じている部分があり、求められる役割を十二分に果たせているかはさておき、Jeffさんの指摘通り、提供しているサービスや製品によって、(重なる部分も一部ありますが)求められる役割の多くは異なるというのが自分の実感です。

この辺はマーケティング関連職の経験がない方の場合は中々実感が湧きづらいところかもしれません。例えば上記のような「マーケティング組織に追加される機能」というレベルで見ると共通項も多いように見えるとは思うのですが、他方で、toBとtoCで顧客の意思決定プロセスや接点、社内で関わる部署、クリエイティブの作り方も異なるので、特にタイミーに入った初期の頃は並行学習をしている感覚でした。

アートが得意なCMOとサイエンスが得意なCMO:

広告代理店時代に長くお世話になった部署のコンセプトが一時期「アート × サイエンス」だったことを思い出しました。このコンセプトが示すこととしては、同じ部署の中にデータアナリストやプランナーのような定量的なアプローチを得意とするメンバーと、クリエイティブディレクターやアートディレクターのような感性的なアプローチを得意とするメンバーを取り揃え、チーム化し、クライアントに価値提供をしていこうという志向です。

自分は定量的にリサーチやデータを使いながらコミュニケーションをプランニングをする役割として働いていましたが、時々サブワークのような形でクリエイターの方達のブレストに混ぜてもらって提案したりしていました(この辺の役割の柔軟性を認めてくれるところが愛すべきところでした)

時が経ち2023年。
CMOという役割を担う中で、図らずもアートとサイエンスの両面が求められる(例えばブランディングとパフォーマンスマーケティング)環境にいながら自分も同じような組織を構築しつつあるのが、経験を積み重ねた意義も感じられて少々エモいです。
ポイントとしては、代理店の時も現在もアートとサイエンスを1人の人間で体現できるのは稀なので、チーム作りで担保することが重要ということです。

CMOとしてフィットするための心構えについて:

上記のJeffさんの文章から、一口に "CMO" といっても、サービス展開領域(toB/toC)やフェーズ、求められるマーケティング等によってフィットする人物像や経験が異なってくることは理解できるのではないかと思います。

例えば特定業界のベテランマーケターになると同業界の知見が深くなるが、それがそのまま別の環境で活かせるかというとだいぶ新たな学習が必要、というのが自分の経験からの意見です。(特に学習が必要なものの例が、toCとtoBの違い、ドメイン知識、時と共に変わりゆくハードスキルあたり)

そんな中で、なるべくどんな環境でもフィットして価値を出すために必要なことは何かというのを考えた時に浮かんだのは以下のことでした。
==
CMOという役割を柔軟に担う上で求められるのは、時に相反するもの(アートとサイエンス・全体と部分・傾聴と自己主張 etc.)への受容性を持ちながらさらに能動的に学ぶことができること
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得意を伸ばす、だけに偏ってしまうとこの点から離れてしまうことになりかねないのでたまに内省しながら考え続けたいところです。

📓この記事について

株式会社タイミーで執行役員CMOを務めている中川が、マーケティング関連の仕事をしている中で感じたことを綴り、コツコツと学びを積み重ねる『CMO ESSAY』というマガジンの記事の一つです。お時間あるときにご覧いただければ幸いです。オードリーのオールナイトニッポン 📻 で毎週フリートークしているのをリスペクトしている節があり、自分も週次更新をしています。
タイミーは、すぐに働けてすぐにお金がもらえるスキマバイトアプリです。

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