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音と読む短編小説 幽霊/フラチナリズム『4431』より

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雨が降ると思い出す日がある。
数年前、雨だか涙だかわからないままひとりで過ごした1日があった。

それはきっと彼にとっては約束らしい約束ではなかったんだろう。
日常会話の一部のような。

その日を待ちわびていたわたしと
日常の一部でしか無かった彼と。
それまでなんとなく気がついていた気持ちのすれ違いがその一時ではなかったことを知ることになった。

長く時を過ごせば過ごすほど
言わなくてもわかり合っていると
「思い込んでしまう」
言葉の深さとか真意とか
望んでいることとか
望まれていることとか。

わたしはその日をきっかけに別の生き方を選ぶことにした。
なんとなくわかっていた最後をその日を理由に自ら選んだのかもしれない。
最後には 愛してる なんて。
遅い。もう遅かった。
根本的に愛されていることは知っていたのに、もう続けられなかった。

自分から続けられないという選択をしたのに、流れるものが無くなるほどに泣いた。
涙も想いも溢れて流れても、もうどこにも行き場はない。
そんな自分を見て 愛していた と認識したんだ。

無かったことには出来ないほどの時を過ごしていたのだから
日常で思い出さないはずはなかった。
一緒に出かけた場所も聴いた音楽も
形あるものも無いものも
そこかしこに溢れていた。

でもあなたの世界からわたしだけが居なくなった。

わたしはその別れから
期待も欲望も させないし、してはいけない
人の人生に深く踏み込むことを躊躇う
そんな生き方を選ぶようになっていた。

それって本当に生きているのかな。

あの日の雨のような涙みたいに
人を想って泣ける日がきたら。
その時があの日のわたしが成仏できる日なのかもしれない。

どうか忘れないで
あなたは今も生きている
どうか忘れないで
私はもうそこに居ない
あなたが思い出すなら
私はいつでもそこに居る

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2020年10月7日にリリースされた
フラチナリズム『4431』
まるで短編小説のような楽曲たちを短編小説にしてみました。

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