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東京でOLをしながら小説を書いていた頃

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だいすきでだいきらいだった東京。
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2021年11月の記事一覧

サンタさんへ

ずっと、なにかをほしいと思うことが苦手だった。

どうせいつか死ぬのに大きなものを所有しても無意味だと思っていたし、学生の頃はそう長く生きる予定がなかったから貯金欲もなかった。時々委託して書いたシナリオやコンビニバイトで稼いだお金は全部、大切なひとたちと会う時間に費やしていた。死ぬときは所有物をすべて持っていけないのだとしたら、人生をあたためてくれるのは素敵な思い出だけだと思っていた。
ほしいもの

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他人だけど優しい大人

今日、スーパーのガチャガチャの前で
小さな姉妹が
小銭を床にばら撒いてしまったのを見た。

おとなたちは少し遠くから
あらあ、という顔をして見ていた。

干渉することに躊躇しているような空気に
何だかすごくかなしくなってしまった私は

散らばったお金を拾い上げ
女の子にそっと手渡した。

ありがとうございます、と言われた。
だから、はいよ、と答えて
その場を離れた。

もやもやしながら帰路につき

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期待

自分にしか期待しない、と軽やかに決めてみた。
傷つくのは期待するからで、裏切りという概念も期待しなければ存在しない。
それでも誰かに、何かに期待していたかった、期待して痛かった。でももう季節は冬だし、痛みに耐え難い気温になってきた。
期待することをやめたら虚無感で死んでしまう気がしたから、全部自分に期待することにした。自分がしたいことに目を向けて、自分が潜りたいところまで潜って、居心地の良いところ

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脱毛サロンと満員電車

寒くなってきているにもかかわらず、電車の中には脱毛サロンの広告ばかり、11月半ばの東京。吊り革に捕まり不規則に揺られている時、テンプレ通りの都会にいることを実感する。

動物たちは寒さから身を守るために体毛を厚くしてきたのに、人間は進化過程で体毛を失い続けてきた。人間以外のもので偽りの毛をつくり、纒い、ファッション化し、エゴイスティックに寒さから身を守ってきた。

YouTube広告でしきりに流れ

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思考の海の浅瀬にて

お願い致します、より
お願いいたします、の方が好きだなとか

好きです、より
すきです、の方が咄嗟に出た言葉に見えるとか

(笑) より
笑 の方がありのままな感情の気がするとか

僕、と俺、で
抱く人物像が異なるのはどうしてかとか

ジュテームという響きの
妖艶さの因数分解とか

考えても何にもならない
誰に伝わるかもわからないことを

ベッドの上でずっと考えている
ぽっかり空いた真ん中の休日

昨日見た夢、もうひとつの夕景

昨日見た夢、もうひとつの夕景

その日は「学校祭」だった。
私にとって「最後の」学校祭だった。

開催されている場所は学校ではなく、私が生まれ育った小さな街だった。登場人物は小学生から大学生まで幅広かった。

私は母親と一緒に参加していた。

町医者のある交差点を通りかかった時、突然トラックが突っ込んできて、大事故が起きた。私は無事だったが、母親が巻き込まれた。道路に倒れる母親を見て私は、「お母さん!!」と声を上げて駆け寄った。

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