メルマガ
印象に残っているラーメン屋がある。
それは各駅停車でしか停まらない駅でのこと。
たまたまその駅での用事が巻きで終わり、二度と来ることはない駅だろうしせっかくだからチェーン店じゃないところで何か食べようと思った。
各駅特有の閑散とした駅のロータリーは、それでも緑の並木が彩り殺風景ではなく、むしろ趣があった。
駅からほど近い場所につけ麺屋はあった。
外装はどうということはない。
黒い建物にのぼりが立っていて、ガラス戸をあけると券売機があってそこで食券を買う。(どうしてラーメン屋の外観は黒ばかりなのだろう。謎だ。)
あいさつは真正面に受けることが大事だから、その日もその店のスタンダードで「オススメ!」と手書きで書かれたポップに導かれ「濃厚つけ麺大盛り」を頼んだ。
食券を渡して席に着くと、そこで気づいたことがあった。
テーブルに
「メルマガに登録していただくと杏仁豆腐サービス」
と書かれていた。
なるほど、これは嬉しい。
今日日会員カードを作るとトッピングサービスというのはよく見るが
メールアドレスを登録するだけで甘味をいただけるなんて実に珍しいし、そんなありがたいことはない。
一応確認してみることにした。
「これ、食券買っちゃいましたけど、だいじょうぶですか?」
店員であるおそらく店のお母さんであろう方は少し驚きつつも
「は、はい!そうです!メアド登録していただけたらサービスさせていただ
きます!」
この時点で食券を受け取るテンションからギアが二つぐらいあがったようなボリュームの返答だった。
そんなにメルマガがうれしいのかな?
しかしそれが少し心苦しい。
もうしわけないけど、各停を乗り継いでここに来ることは二度ないだろうから。
それから食べたつけ麺は醤油味で、杏仁豆腐は杏仁豆腐味だったと思う。
実質タダで杏仁豆腐が食べられてすごくいい思いをしながら電車に乗ってその日は帰った。
それから数日後。
こんなタイトルのメールが届いた。
「こんにちは、◯◯屋です」
メルマガである。
そうだ、登録したんだった。
文章はこう続く。
「芝さんこんにちは!○○屋です。今日は暑いですね!!
私は先日から夏に向けて衣替えを始めました!!
量が多く忙しい中なのでなかなか捗りませんね(笑)」
あ、あれ?メルマガってこういうのだったっけ?
内容は5行程度だが、ラーメンのメニューの情報についてはあまり書かれていない。
大体がお母さんの世間話が挟まれており、お母さんの情報が親身に感じられるようになっていた。
ラーメンの話は新メニューができたとか割引をするとかは一切なく、とにかくお母さんの世間話がメルマガとなって定期的に送られていた。
だからこそ明らかにわかる。
これはあのお母さんがPCかスマホかガラケーで打ち込んでいる。
本文コピペ一切なしの手打ちだ。熱意が違う。
それから1週間〜2週間ごとに定期的にメルマガが送られてくるようになった。
その全てがこういった調子の文章で、季節折々のお母さんを感じることができた。
今日日、ブログやTwitterやInstagramなどSNSがあるのに、どうしてこういった内容を…。
だからこそお母さんが愛おしく思えてくるような感覚を覚える
かというとそんなことはない。
なんだか行くことをしない自分への罪悪感として胸が痛くなってきてしまい、悩んだ結果お母さんメールを迷惑メールとして登録することにした。
それから数年後。
MVの俳優さん一人を間違って迷惑メールフォルダに入れてしまい開いたフォルダのトップにでてきた。
「こんにちは、◯◯屋です」
お母さんメールだった。
タイトルはあの日から変わらないこの定型分から入る。
この数年間お母さんはスタイルを変えていなかった。
↓以下本文↓
なんか涼しい!
朝、晩は気持ちがいいくらいですね。
今朝、実家の庭に、
大葉が青々とたっくさんなってるのを
発見しまして
わたし「これ、大葉?こんなになるの?」
って親父さんに聞くと
親父「最初植えたら、放っておいても毎年
ここにたくさんなるんだよ。」
「刈っても、どんどん増えるから
持ってくか?無農薬だし」
「ラーメン屋さんじゃ、使わないか」
ですって。
わたし「メッチャ、使うし!頂戴、頂戴!」
↑以上本文↑
メルマガ内で会話を展開している。
そしてテンションが高い。
お母さんの暖かい文体はメルマガの中で進化していた。
この人にブログを書いて欲しい。
こんな素晴らしくイキイキとした文体は多分義務感ではたどりつけない。
メルマガという固定概念に囚われない楽しんでいるという姿勢も。
物事をやり続けることの大切さを再確認した。
オレもラーメン屋のお母さんのように願わくば楽しく物事を続けていこう。
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