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スピンオフ:殺戮忍者【一ノ巻 魔女狩り】

 午前1時。妖しい光を放つ自動販売機の前。
 紫色のコートを着、フードを被った5人の女が濃いカルピスを飲んでいた。


 年中湿度の高いこの街には、魔女がいる。「湿気の魔女」と呼ばれる、魔法を使えない魔女達が。


 今は湿気の魔女達による、「湿気の魔女集会」が行われているのだ。
 今日の議題は、「遊ぶだけの男」と「将来を約束すべき男」の違いについて。


 魔女達は自分達の周りにいる男を例に挙げ、激しい議論を交わせていた。
「将来を約束? って、簡単に言えば結婚のことでしょ? まぁ、顔も性格も大事だけどさ、私、その人の癖? みたいなの見ちゃうかも」
「えー顔が1番でしょー」
「中身よ」
「……癖?」
「ほら、私、結構耳いいから咀嚼音とか駄目なわけ。ちゃんと口閉じてご飯食べてるかな、とか」
「私、飲み物飲む時の、ずずずっ、って音とか、無理ですよ」
「そそ、そういうとこ。結婚するってなるとね、気にしちゃうかも」


 正直、この集会の必要性が僕には分からない。殆どがこういった結婚観や恋愛観、色恋沙汰、男への不平不満の話だ。ただの女子会じゃないか? 何故、わざわざ集会を開くのだろう。


「私は優しくしてもらえれば気にしないわね」
「あーリーダーそういうところあるよねー」
「私、周りからしっかりしてるって見らるの。だから、そう……優しく、女として扱われるとね……弱いかも」
「リーダー、可愛いところあるよねー」
「うるさいわね」
「可愛いですね」
「あんたまで」


 ……とか思いつつ、集会が開かれていると、こうして足を止めて聴き入ってしまう。
 割と気になる。異性のこうした話題は。女子会に参加してみたい男は、割といると思う。


 だから、魔女達が作っている円の中心に、誰かがいることに気が付くのには数秒かかった。
 いつの間にか、鬣犬のお面を被ったポニーテールの女が立っていた。
 円の中に入ってきたと言うより、何もない空間から突然姿を現したと言った方が正確かもしれない。
 それはまるで……。


「誰だ!?」
 そう魔女の長が誰何した同時に、魔女全員が釘バットを構えた。


 5本の釘バットを向けられても動じない、鬣犬のお面の女。両手は真っ黒なプルパーカーのポケットに突っ込んだまま。
 鬣犬のお面の女が首を傾け、ポニーテールが揺れた。


「ぐぎぃっ」
 魔女の1人が突然、首元を押さえて蹲った。
「大丈夫!?」
 他の4人の魔女は釘バットを構えたまま、蹲った魔女に視線を向けた。
 4本の刃が4方向に向いた刃物。そのうちの1本が、蹲った魔女の首元にコートの上から刺さっていた。


 登場の仕方と言い、突然魔女を襲った武器と言い、まるで……。


「だ、大丈ぶぶぶぶぶ……」
 蹲っていた魔女が痙攣を始めた。泥濘んだ地面の上を転げ回り、泡を吹き出した。
「あばばばばばばばば……」


 その姿を鬣犬のお面の女が首を傾けたまま眺めていた。


 痙攣をしていた魔女は動かなくなった。
「よくも……」
 長の身体が怒りで震えていた。
「……殺る?」
 左隣の魔女が冷たい声で尋ねた。
 他の2人も長の方を見た。分かり切った答えを求めるかのように。
「えぇ……『非魔女狩り』、開始よ」


 こんな光景を見たのは初めてだった。


 4人の魔女達は雄叫びを上げながら、釘バットを振り上げた。標的は勿論、首を傾けるだけの鬣犬のお面の女。


 最初に倒れたのは、長の左隣にいた魔女だった。続いて、右隣にいた魔女とその右隣にいた魔女はほぼ同時に。泡を吹いて、地面で痙攣し始めた。


 長が振り下ろした釘バットは難なく躱されてしまった。そして、最悪なことに、鬣犬のお面の女に背後に立たれてた。長は振り返ったと同時に、鬣犬のお面の女がプルパーカーのポケットから取り出した右手で殴られた。重たい一撃だった。長の口から数本の歯が飛んでいく。よく見ると、鬣犬のお面の女の右手にはメリケンサックのような物が付けてあった。


 勢いよく地面に倒れる長。手を離れ、自動販売機に当たる釘バット。
 長の左頬からは、じゅくじゅくと赤黒い血液が流れていた。


「うがあぁぁぁああぁぁぁああぁあぁぁっ!」
 人間のものとは思えない叫び声を上げ、立ち上がった長は左拳を鬣犬のお面の女へ……。


 一瞬だった。
 鬣犬のお面の女の華麗な蹴りが長の左顳顬に直撃した。長は吹っ飛び、動かなくなった。


 地面に転がる5人の魔女の死体に囲まれ、鬣犬のお面の女は再び首を傾けた。


 その夜、魔女が忍者に虐殺された。



【登場した湿気の街の住人】

・湿度文学。
・紫派魔女


【?】

・鬣犬のお面の女

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