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本棚は段ボール Vol.11 『いい子のあくび』/高瀬隼子

 仕事の昼休み。機嫌の悪い先輩に当たられ、腹が立って、「なんか大人だよね」と、大人に大人の私が笑われたことを思い出して、いろんなことが許せなくて、たぶん私が許せないことたちの殆どに、他の人は気づきさえしなくて、それなのに私はつまずいて止まって、怒って。
 むしゃくしゃして本屋へ行くと、「ぶつかったるって思ってぶつかった。だけど、ぶつかられたのはわたしだ。よけてあげなかったから、結果としてぶつかった。よけてあげる。スマートフォンに顔面から吸い込まれていたあの中学生に、わたしが何かしてあげるのは、なんか、おかしい。」という帯の言葉に、ああ、そう、こういう、他人の気付かない部分につまずいてしまう私達は、社会にむいていない、と思って、それから、ずっと気になっていたのでとうとう読むことにした。

 人に求められている自分を演じてしまうのも、割に合わないと思うのも、どうしても譲れなくて、でも人に理解してもらえない"嫌"があることも、全部覚えがあった。

 いつも損している気がする。損というのは、頑張った人や真面目な人、よく考えている人がするものであるような気がする。怒りも憤りも、そう。なにも考えない人は、だから、なんでも許して結果的に優しい人。私には許せないことがたくさんある。ずっと怒りを忘れないし、損をしているし、でも頑張ることも真面目であることも、考えることも結局やめられない。やめられないというか、やめたくない。やめるのはあまりに恐ろしい。
 自分が好かれるために、自分の得のために勝手に、頼まれてもいないのに真面目に頑張って、たくさん考えて、それで私は損をしている!こんなに頑張っているのに、という怒りを持つことは、間違っていると思う。間違ってる。自分が自分のためにやっているだけなのに、何故頑張らなきゃいけないんだ、何故私ばっかり、なんて、勝手にやっているのにおかしな話だ。それでも思ってしまうし、頑張ってしまう。

 嫌なことを嫌というと相手を傷つけることになる。私だったらたぶん傷つく。頭の中でどういうふうに自分が断られたら傷付かないか考える。思いつく限りのパターンで私は傷つく。
 私はきっと結婚式を断れない。私も嫌、なことはいくつかある。だけど、たぶん、断れない。この本を読んで、断ろうと思った。また考えて考えて、どのパターンでもやっぱり私は傷ついた。そういうちっぽけな不一致が、一生残って、それで疎遠になるって多分沢山あると思う。疎遠になるところまでの想像が容易について、恐ろしくてやっぱり断れる気がしなくなる。

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