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【エッセイ】両手とカメラ

小学校に入ったばかりの頃だったろうか。
夏休み、家族旅行で大型のプールがあるレジャー施設で遊んでいた時。

足がつかないとは思わず、
大人用プールに入って
そのまま沈んだ記憶がある。

ぶくぶくと。

その気泡を見ながら
きょとんとした顔をしながら
沈んでいった映像を
今でも思い出す。

「子どもは、静かに沈む」

本当に、その通り。
何事かわからないままに
もがきもせずに沈んでいった。

その時、

目の前に両手がザバン!!と現れた。

父の両手だった。

私の体は父の両手によって引き上げられ、
無事生還を果たした。

怖れも何もなく、
溺れたこともよく分からず、
ずっときょとんとしていた気がする。

ただ、子ども心に、
とても悪いことをしたと思った。

父の首には、一眼レフカメラがかかっていた。

私を助けた時に、両手と一緒に水の中にーー。

「ああ、これはもうだめだな」

そんな言葉を聞いた気がする。

でも、父は
私が無事だったから良かった、みたいなことを言って
カメラは仕方ない、みたいなことを言って
笑っていた気がする。

父親って、なんか、偉大だなと、
思うエピソードだった。

ありがとう、お父さん。
そろそろ父の日の準備しよ。

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