🇨🇳#17 山東航空「SC4746」人生初のファーストクラスで泣いた話
朝6:00、ハルビン太平空港に到着した。
中国北半分の旅を終えたわたしは、今から飛行機でルーラして山東省・青島を目指すのだ。
ところが、ネットで事前にチケットを予約していたのに、席がもうないという。
いわゆるオーバーブッキングである。
そして、なんだかわからないうちに、チケット代6,000円しか払っていないのに、生まれて初めてファーストクラスに乗ることになった。
(エコノミーが満席だから)
6:50発の国内線フライトなのに、6:05搭乗開始とのことで、「急いでください」と急かされる。
そして、全くもって誇れることではないが、現在時刻と搭乗時刻が同じ「無敵の航空券」をかざし、行列のセキュリティチェックをごぼう抜きで通過するわたし。
が、搭乗ゲートを目指して歩いていると、ふと、懐かしのスタバが目に入った。
ごくり…。
スタバの、あの卵とツナのおいしいサンドイッチが食べたいな…。
でも、急げって言われたしな…。
すると、無線で連絡をしている空港スタッフが、搭乗ゲートと反対側のスタバ方向に3歩進んだわたしに声をかけてきた。
スタッフ「ゲートナンバーは?」
わたし「23です」
スタッフ「そちらではなく、あちらです」
監視のものか何かだろうか。
結局、卵ツナサンドを諦めたわたしは、ファーストクラスの食事に期待してスタバに背を向けた。
さて、いよいよわたしは今日、人生四十年間で初めてファーストクラスに乗る。
たまに出張でビジネスクラスに乗ったおじさんが、シャンパンを飲んだり、ラウンジでカレーを食べている写真をSNSにあげているのを見かけるが、ついにわたしにもその日がきたのかもしれない。
彼らを内心「いたいな」と思っていたのは、単なる嫉妬だったようだ。
わたしも今、彼らのあとにつぐ。
と思ったら、山東航空は、ファーストクラス用のサービスというのは何もないらしい…(早く移動できるマイクロバスはあるが、なんとなく遠慮して乗らなかった)。
しかし、席が良いだけでも気分は上がる。
前のトイレが使えるだけで気分は上がる。
ギリギリでチェックインしてよかった。
ダブルブッキングにありがとう。
離陸から約35分、元気にモリモリ機内食を食べている最中、事件は起こった。
緊迫した声で機内にアナウンスが入る。
「急病のお客様がおります。どなたか、医療関係者の方がいましたら、機内スタッフまでお声かけください」
ドラマでたまに見る出来事が、今、この飛行機で起こっている。
そして、エコノミークラスは騒然となり、配膳は途中で中止に。
CAさんは、緊張した面持ちで、コックピットの方と急病患者がいる座席を何度も走って往復する。
機長に対応を相談しているのかもしれない。
急病患者が出てから三十分が経過した。
フライト予定時間は二時間。
ハルビンから青島までの間に、遼寧省の瀋陽や大連空港があるはずだ。
どうして緊急着陸しないんだろう。
わたしは、CAさんのなおも曇った顔をみて考えた。
もしかすると、これは考えたくないことだが、急病人の方はもうなくなってしまったのかもしれない。
心筋梗塞なら、すぐに対応しなければ時間に比例して死亡率は上がる。
なんで自分、ガリ勉して医者にならなかったんだろう…。
医者になろうと思ったことはただの一度もないし、地頭的にも不可能な話だが、わたしは心の底からそう思った。
わたしがもし医者だったなら、きっとこのファーストクラスにも正規の金額を払って座り、アナウンスが入った際には颯爽と現れ、急病人のために何かができたかもしれない…。
この時わたしは、自分の無力さをのろった。
それから少しして、2人の青年がファーストクラスの最前列(わたしの前)に移動してきた。
青年の1人は、CAさんの聴き取りに対して「心臓が痛いと言って、それ以降は声が小さくなって何を言っているか聞こえませんでした」と答えている。
きっと、急病人の隣に座っていたのだろう、そのままの席でフライトを続けるわけにはいかないので、空き席に移動してきたのかもしれない。
青年たちはCAさんに食事を勧められるが、これを頑なに断った。
予期せぬ現場に立ち会うことになり、食欲がないのかもしれない。
しかし彼らは聴き取りが終わってすぐに席を離れ、その後少なくとも15分は戻ってこなかったのだ。
そして彼らが再び席に着くと、今度はおばさんが彼らに近づいてきて、熱心に連絡先を聞いている。
おばさんは急病人の娘らしく、青年たちに熱を込めてお礼を伝えている。
実は、この極めて素朴な風貌の青年2人は、大学の研修医だったのだ。
ドラマでみる「わたしは医者です」は、実際に起こり得る出来事だったのである。
青年たちがどんな処置をしたのか、わたしにはわからないが、酸素ボンベを使用した書類にサインを求められていたので、機内の医療設備を用いて適切な処置が施されたことに間違いはないだろう。
そして彼らは、着陸の時以外、ほとんどをその急病人のケアに尽力し、着陸と同時にベルトを外して後部座席に駆けつける姿には、思わず目頭が熱くなった。
なお、着陸後、飛行機の降機扉の反対側に専門の医療車両が到着し、急病人と思われるおばあさんが支えられて無事移動した様子が確認できた。
愚かなわたしは医者にも何者にもなれなかったけれど、代わりに、中国には責任感ある優秀な若者が医療現場を支えているようである。
山東航空「SC4746」。
わたしの人生初のファーストクラスは、生涯忘れない思い出となった。
(おまけ)
その後、興奮しきったわたしは、ファーストクラスの枕を抱えたまま飛行機を降りようとし、「お客様、枕は持って帰れませんよ」と注意され、赤っ恥をかいたのであった…。
旅はつづく
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