Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https:/…

Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https://faryeast.com/

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  • Off Flavor入門

    ビールのオフフレーバーについて解説するシリーズ

  • ビールと水

    ビールと水についてざっくり解説するシリーズです。

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個人的な科学読み物の方針

ビールを理解する上で、化学や生物に関する知見は絶対に必要です。理系で元々科学的な素養ある方は全く問題ないと思うのですが、私のような文系出身の人間には結構難しかったりします。論文や書籍も含めていろんな読み物を読んだり、セミナーを受けたりして、「ちんぷんかんで困った!」という経験は一度や二度ではありません。 そんな経緯から、専門書や論文の手前で一般の人と専門家の架け橋的な読み物があったらいいなあと個人的に思っていて、それが私の書くビールの科学読み物の方針になっています。 参考にし

    • Off Flavor入門〜⑫酵母の働き

      前回からの続き 前回は代謝、ATP、酵素に関する一般的な内容に触れました。熱などのエネルギーによる無駄の多い化学反応と違って、生物は代謝ネットワークと酵素を駆使して精緻に狙いの産物を作っています。今回は実際にビール酵母がどのように産物(排出物)を作っているのか見ていきたいと思います。 糖代謝解糖系とATP産生は好気呼吸とも言われ、代表的な代謝経路です。生物の教科書でも詳しく説明されます。大まかに見ると、解糖系で1つのグルコースから2つのピルビン酸に異化し、その後ピルビン酸の

      • Off Flavor入門〜⑪代謝と酵素

        前回からの続き 前回はエネルギーと反応について見てきました。今回は生物がエネルギーを駆使しながらいかにして目的の生成物(産物)を作るのかを見ていきたいと思います。 代謝とはビールはある意味廃棄物の塊 ビール酵母は材料を分解しては組み立て、いろいろなパーツを作って活動しています。主には糖から自分たちに必要なエネルギーを生成し、残渣を排出します。エネルギーはATPという形で確保し、残渣は主にエタノールと二酸化炭素です。ATPの生成以外にも細胞膜や酵素など自分たちの活動に必要な

        • Off Flavor入門〜⑩エネルギーと反応

          前回からの続き 前回は分子軌道のHOMOとLUMOに着目した反応理論であるフロンティア軌道論についてでした。今回はその反応を引き起こす要因となるエネルギーについてです。 熱力学の法則を出していますが、物理学的な専門性がある記述にはなっていません。イメージだけふわっとお借りしてる感じです。誰もそこまでは期待してないと思いますが念のため。 エネルギーと熱力学エネルギーの代表的なものは熱エネルギーです。温度が上がると液体の水は水分子(H2O)同士の水素結合を断ち切って気体になり、

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        個人的な科学読み物の方針

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        • Off Flavor入門
          14本
        • ビールと水
          23本

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          オフフレーバー入門〜⑨フロンティア軌道理論

          前回からの続き 前回は動きやすい軌道と空の電子軌道について。そして電子密度に差がある不均衡な状態が反応を促進するという内容でした。ところが実際は軌道と軌道の相互作用を考えないと説明がつかない現象があります。そこでフロンティア軌道論の登場です。 なお、フロンティア軌道理論のちゃんとした説明は私にはできませんので、あくまでもざっくりとしたイメージだけの話をさせてもらいます。誰もそこまでは期待してないとは思いますが、念のため。 フロンティア軌道論とは原子価結合法と分子軌道法 宗

          オフフレーバー入門〜⑨フロンティア軌道理論

          Off Flavor入門〜⑧動きやすい電子と空軌道

          前回からの続き 前回は化学反応の基礎の基礎として、求核剤と求電子剤の説明をしました。求核剤から求電子剤の空軌道へ電子が受け渡されることで反応が起こるということでした。今回は電子が移動する条件をもう少し詳しく見ていきたいと思います。 反応が起こる条件前回の求核剤と求電子剤の図に少し書き足したものです。求核剤から求電子剤への電子の授受はどのような条件で起こるのでしょうか。 求核剤になりうる動きやすい電子動く側の電子に着目すると動きやすいことが必要です。核としっかり相互作用して

          Off Flavor入門〜⑧動きやすい電子と空軌道

          Off Flavor入門〜⑦化学反応の基礎

          前回からの続き 前回までは2回にわたって有機化合物の概念と代表的な官能基をざっと見てきました。今回からは反応についてです。 有機化学的な狭義の化学反応とともに、発エルゴン反応と吸エルゴン反応、平衡、異化と同化といった有機化学と生化学にまたがる様々な内容を数回に分けてざっくり整理していきたいと思います。壮大ですね。書ききれるかな。まず今回は「化学反応とはなにか」から。 化学反応とは化学反応のイメージ 方丈記は無常観や儚さが底流にある文学作品です。無常とは物事が流転し永遠では

          Off Flavor入門〜⑦化学反応の基礎

          Off Flavor入門〜⑥官能基の続き

          前回からの続き 前回に続いて官能基です。3700万種類もあると言われる有機化合物を官能基ごとに「分けて」いって「分かる」に近づきたいですね。 ビールに関係する有機化合物(続き)チオール アルコールのヒドロキシ基(-OH)がチオール基(-SH)に置き換わったものです。官能基はメルカプト基とも呼ばれます。硫黄の電気陰性度は2.58とやや高いので、酸素ほどではないですが電子を引き寄せる力があります。チオールはアルコールに似た反応性を示します。 ビールで有名なチオールは、なんと

          Off Flavor入門〜⑥官能基の続き

          Off Flavor入門〜⑤有機化合物と官能基

          前回からの続き 前回は分子の形と極性についてでした。 今回から2回にわたって有機化合物の構造と官能基についてざっくり眺めたいと思います。数ある官能基の中で特にビールと関係が深いものに絞りました。 有機化学の教科書では官能基の説明とその反応特性をセットにして構成されることが多いですが、このシリーズでは最初に官能基を一通り見た後に反応について抽象度の高い説明をするという構成を考えています。 有機化合物とは有機化合物とは、ざっくり言うと炭素を含む分子(化合物)です。炭素骨格を持つ

          Off Flavor入門〜⑤有機化合物と官能基

          Off Flavor入門〜コラム:構造をみること

          前回は分子の形と極性について話しましたが、今回はちょっと休憩して雑談的なコラムです。 (ちなみに次回からまた本題に戻ります。次回は有機化合物の概論と官能基についての予定です。) 構造を理解すること今回のオフフレーバー入門では、オフフレーバーを構造的に理解しようという試みをしています。 ビートルズ穴ぼこ論 音楽評論家の渋谷陽一さんが提唱した「ビートルズ穴ぼこ論」という理論があります。1960年代前半までのポップミュージックはプロダクトアウト的で、プロデューサーが適当に企画

          Off Flavor入門〜コラム:構造をみること

          Off Flavor入門〜④分子の形と極性

          前回からの続き 前回は電子の性質についてでした。単体の原子で安定する貴ガス以外の原子では、電子の性質上他の原子と結合しないと安定しないです。 というわけで「化学結合は電子が安定したいから起こる」とも言えます。結合した結果できるのが分子。今回は分子の構造に関してです。 分子の形心に響くいい歌ですね。愛にも形があるように分子にも形があります。しかも愛の形と違って分子の形はある程度の正確さで計算で求められるそうですよ。 さて、化学結合により原子が分子になったときに、どの原子がどの

          Off Flavor入門〜④分子の形と極性

          Off Flavor入門〜③電子の性質と原子軌道

          前回からの続き 前回は人間が匂いや味を感じる仕組みでした。化学受容なので分子レベルの理解が必要です。そこで今回からしばらく匂いや味として受容される分子ができる仕組みについての話をします。 すべての基本は電子の振る舞いということでまずは電子の性質からです。「化学反応は電子の性質がすべて」と言ってもいいくらい大事な概念です。 電子の性質「カサブランカ」でハンフリー・ボガートが演じるリックの名台詞です。リックのこのセリフは量子化学的な観点での電子の性質に近いなと思います。気まぐれ

          Off Flavor入門〜③電子の性質と原子軌道

          Off Flavor入門〜②匂いと味を感じる仕組み

          前回からの続き 前回は導入編としてシリーズの展望を紹介しました。第2回目は嗅覚と味覚の仕組みについて。分子レベルの話に移る前に押さえておきたいポイントです。 嗅覚と味覚オフフレーバーの理解に分子レベルの理解が必要なのは、人間が匂いや味を感じる際に、感覚器官が分子レベルで判別しているからです。まずは嗅覚、味覚について基本的な仕組みをざっくり見ていきましょう。 匂いを感じる仕組み 人間の鼻の奥の上側(嗅上皮)に嗅覚受容体というタンパク質があります。空気中に漂う分子をこの嗅覚

          Off Flavor入門〜②匂いと味を感じる仕組み

          Off Flavor入門〜①イントロダクション

          有名なアンナ・カレーニナの法則は、オフフレーバーにも当てはまります。つまり異なるオフフレーバーにはそれぞれに異なる発生原因があります。 しかしながら異なるオフフレーバーの発生原因にも、共通の仕組みがあります。このシリーズでは最初にオフフレーバーの仕組みをざっくり見て、その後に個々のオフフレーバーの「不幸の理由」を論じていく構成にしたいと思います。 初回はイントロダクションとして、オフフレーバーの意義などについて。 オフフレーバーとは本来はビールにあってはならない、好ましくな

          Off Flavor入門〜①イントロダクション

          Off Flavor入門 参考文献

          (随時追加するかも) 本編はこちら 書籍 新しい高校化学の教科書―現代人のための高校理科 (ブルーバックス) 左巻 健男 著 マクマリー 有機化学概説 (第7版) J. McMurry 著、伊東 椒 訳、児玉 三明 訳 暗記しないで化学入門 新訂版 電子を見れば化学はわかる (ブルーバックス)平山 令明 著 はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み (ブルーバックス) 平山 令明 著 「香り」の科学 匂いの正体からその効能まで (ブルーバックス) 平

          Off Flavor入門 参考文献

          ビールと水〜㉓最終回

          前回からの続き 前々回、前回とIPAやピルスナーと現地の水の関係を見てきました。歴史的に見て、水質が良いから銘醸地になるというより、様々な要因が複合的に絡んで結局はその土地にあったビアスタイルができるということだと思います。 結局ビールにとって水とは何か。今回は最終回として振り返りとまとめをしていきたいと思います。 ビールにとって水とは結論は第1回で書いたことと全く変わりありません。ビールにとっての水とは、pHとイオン成分です。 pH視点での水 醸造とは酵母が健全に働く

          ビールと水〜㉓最終回