Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https:/…

Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https://faryeast.com/

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  • Off Flavor入門

    ビールのオフフレーバーについて解説するシリーズ

  • ビールと水

    ビールと水についてざっくり解説するシリーズです。

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個人的な科学読み物の方針

ビールを理解する上で、化学や生物に関する知見は絶対に必要です。理系で元々科学的な素養ある方は全く問題ないと思うのですが、私のような文系出身の人間には結構難しかったりします。論文や書籍も含めていろんな読み物を読んだり、セミナーを受けたりして、「ちんぷんかんで困った!」という経験は一度や二度ではありません。 そんな経緯から、専門書や論文の手前で一般の人と専門家の架け橋的な読み物があったらいいなあと個人的に思っていて、それが私の書くビールの科学読み物の方針になっています。 参考にし

    • Off Flavor入門〜㉛メタリック

      前回からの続き 前回はコントロールについて少し誤解されている日光臭でした。光励起が生成に関わるちょっと変わったオフフレーバーでもあります。 さて、今回もちょっと変わったオフフレーバー、メタリック(金属臭)です。今までこのシリーズでは基本的に有機化合物を扱ってきましたが、金属臭の原因物質はバリバリの無機物です。そして日本では金属臭と言われることが多いですが、臭いを感じることは稀で味として感知されることが多いです。 化合物としての特徴メタリックの原因物質は様々な金属ですが、オフ

      • Off Flavor入門〜㉚日光臭

        前回からの続き 前回は誤解されているオフフレーバーT2Nでした。酸化臭と言われることが多いのですが、ビール中の溶存酸素はT2Nの生成には関係していないんです。 今回は日光臭として知られる3MBTです。こちらは日光(光)がずばり生成に関与しています。日光臭はコントロールに関して若干誤解されている部分もあるので、今回はコントロールのボリューム多めです。 化合物としての特徴日光臭の原因化合物は3-methyl-2-butene-1-thiol(3-メチル-2-ブテン-1-チオール

        • Off Flavor入門〜㉙T2N

          前回からの続き 前回は隠れたメジャーオフフレーバーとも言えるH2Sでした。H2Sは硫黄化合物なので閾値が低かったですが、今回はもっと低い閾値の化合物T2Nです。酸化臭、紙臭、カードボード臭とも呼ばれます。「酸化臭」という別名がついていますが、実はビール中の溶存酸素はT2Nの生成には関与していません。T2Nはその生成過程をけっこう誤解されているので、じっくり解説したいと思います。 化合物としての特徴T2N(Trans-2-Nonenal、トランス-2-ノネナール)は、不飽和ア

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        • Off Flavor入門
          34本
        • ビールと水
          23本

        記事

          Off Flavor入門〜㉘H2S

          前回からの続き 前回はホップ由来のオフフレーバーであるオニオン/ガーリック(O/G)でした。アメリカンスタイルのホップフォワードビールの特徴香でもあるのでオフフレーバーとしての扱いは難しいですが、複数の硫黄化合物で構成される臭気です。 今回も硫黄化合物です。H2Sは、実はダイアセチルやDMSに匹敵するメジャーな存在でもあります。 化合物としての特徴H2S(Hydrogen Sulfide、硫化硫黄)は、硫黄原子に水素原子が2つついた単純な構造をしています。炭素を含んでいない

          Off Flavor入門〜㉘H2S

          Off Flavor入門〜㉗オニオン/ガーリック

          前回からの続き 前回はホップの劣化臭として知られるイソ吉草酸でした。知ってるつもり的なトリビアとしては、ホップのフルーティアロマを強調するバックグラウンドアロマになりえることや実はブレタノマイセスの代謝でも生成されることがありました。 今回は同じくホップ由来のオフフレーバーであるオニオン/ガーリック(O/G)です。 化合物としての特徴オニオン/ガーリック(O/G)のオフフレーバーは単体の化合物からもたらされるのではなく、複数の有機硫黄化合物に由来します。代表的なものとしては

          Off Flavor入門〜㉗オニオン/ガーリック

          Off Flavor入門〜㉖イソ吉草酸

          前回からの続き 前回はとても有名なオフフレーバーであるDMSでした。今回はホップの劣化臭として知られるイソ吉草酸です。 化合物としての特徴イソ吉草酸はイソバレリアン酸(Isovaleric Acid)とも言われ、炭素数5のペンタンが異性化したものにカルボキシ基がついたカルボン酸です。IUPAC名は3-メチルブタン酸で、3位にメチル基がついたブタン酸(酪酸)という言い方もできます。アルカンや官能基については第5回や第6回を参照ください。カルボン酸なので弱い酸性を示します。pK

          Off Flavor入門〜㉖イソ吉草酸

          Off Flavor入門〜㉕DMS

          前回からの続き 前回はヴァイツェンやベルジャンスタイルでは特徴香となっているフェノーリックについてでした。今回はかなり有名なオフフレーバーであるDMSです。 化合物としての特徴DMS(Dimethyl Sulfide、ジメチルスルフィド)は、2つのメチル基の間に硫黄原子が入った形をしています。スルフィドというのは、エーテルの酸素を硫黄で置き換えた構造をしており、チオエーテルとも言われます。「⑥官能基の続き」でも取り上げました。 メルカプタンの回でも説明しましたが、硫黄は電

          Off Flavor入門〜㉕DMS

          Off Flavor入門〜㉔フェノーリック

          前回からの続き 前回はサワーエールや自然派志向のビール造りの復権に伴って注目されてきているTHPを紹介しました。トリッキーなオフフレーバーと言えます。 今回もトリッキーと言えばトリッキー、フェノーリックです。 化合物としての特徴「⑤有機化合物と官能基」の回でアレーン(芳香環)にヒドロキシ基がついたものをフェノールということを紹介しました。狭義のフェノールはアレーンとヒドロキシ基だけで構成されるC6H5OHの分子を指しますが、広義にはフェノール類としてバリエーションも含めたも

          Off Flavor入門〜㉔フェノーリック

          Off Flavor入門〜㉓THP

          前回からの続き 前回はチオールであるメルカプタンを紹介しました。今回はオフフレーバーとしてはちょっと異質な存在であるTHPです。このシリーズでは通常SiebelとBrewers Associationの「Off Flavor Management」シリーズを参考に書いてますが、THPはSiebelにはないので、今回はMilk The Funkの記事も参考にしました。 化合物としての特徴THP(テトラヒドロピリジン、Tetrahydropyridine)は、環状(6員環)の構

          Off Flavor入門〜㉓THP

          Off Flavor入門〜㉒メルカプタン

          前回からの続き 前回まではオフフレーバー界のラスボスともいうべきダイアセチルを2回にわけて紹介しました。今回はメルカプタンです。ダイアセチルに比べたらマイナーですが、しっかり抑えていきましょう。 化合物としての特徴 メルカプタン(mercaptans)という用語は正式にはチオール類を表し、水素化された硫黄であるメルカプト基(-SH)を末端に持つ有機化合物の一群です。ビール業界または醸造業界でメルカプタンという時はメタンチオール(Methanethiol)、別名メチルメルカプ

          Off Flavor入門〜㉒メルカプタン

          Off Flavor入門〜㉑ダイアセチル後編

          前回からの続き 前回はダイアセチル前編として、化合物としての特徴、VDKsについて、閾値、分析方法などを紹介しました。今回は後編として生成とコントロールについてです。 生成とコントロール生成 ダイアセチルはその前駆体であるαアセト乳酸が非酵素的で酸化的脱炭酸をすることで生成されます。その背景を含めて説明したいと思います。 酵母が増殖するときには細胞内のリボソームでせっせとタンパク質を作りますが、その材料となるアミノ酸も作らねばいけません。つまりアミノ酸代謝をするわけです。

          Off Flavor入門〜㉑ダイアセチル後編

          Off Flavor入門〜⑳ダイアセチル前編

          前回からの続き 前回まで3回続けてカルボン酸を紹介しましたが、今回はダイアセチルです。おそらく最も有名なオフフレーバーではないかと思います。有名なだけあってダイアセチルに関する文献はたくさんあり、この投稿では網羅性のある情報提供はできません。あくまでも入門編として書きたいと思います。 しかしながら、なるべくポイントを絞って書こうとしてもやはりダイアセチルに関して巷に流通している情報は多く、1回の投稿では収まりきらなかったので前後編に分けています。 化合物としての特徴ダイアセ

          Off Flavor入門〜⑳ダイアセチル前編

          Off Flavor入門〜⑲カプリル酸

          前回からの続き 酢酸、酪酸と続いて今回はカプリル酸です。化学や生物を忘れてしまった大人の皆さんはこのシリーズの②〜⑮の前提知識編を事前にお読みいただくと良いかもしれません。 化合物としての特徴 カプリル酸(Caprylic Acid)は炭素数8の直鎖状の脂肪酸です。脂肪酸ということは当然、有機酸でもありカルボン酸でもあります。IUPAC命名法ではオクタン酸といいます。脂肪酸は炭素数が多いほど疎水性が強くなるので、カプリル酸は酢酸や酪酸に比べて水に馴染みにくい性質があります。

          Off Flavor入門〜⑲カプリル酸

          Off Flavor入門〜⑱酪酸

          前回からの続き 前回の酢酸と同じくカルボン酸の酪酸です。カルボン酸としての有機化学的な特徴は同じなのでぜひ前提知識編や前回投稿と合わせてお読みください。 化合物としての特徴酪酸(Butyric Acid)は炭素数4のアルカンであるブタンにカルボキシ基がついたカルボン酸です。アルカンや官能基については第5回や第6回を参照ください。直鎖アルカンとの対応表を下の図にまとめてみました。 アルカンから水素原子1個を除いた官能基をアルキル基と呼び、カルボン酸からヒドロキシ基(-OH)

          Off Flavor入門〜⑱酪酸

          Off Flavor入門〜⑰酢酸

          前回からの続き 前回はアセトアルデヒドでしたが、今回はアセトアルデヒドが酸化されることで生成する酢酸についてです。前回と合わせて読まれることをお勧めします。 化合物としての特徴酢酸(Acetic Acid)はビールに含まれる有機酸の中でも代表的なものの一つです。一般にはお酢の主成分として、むせるような酸味があるフレーバーとして知られています。 酸性を示す有機化合物の総称を有機酸といい、有機酸の多くはカルボン酸です。カルボン酸の中でも炭化水素鎖にカルボキシ基が一つついたものを

          Off Flavor入門〜⑰酢酸