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《点光源 #9》 チャゲアスとプロレスと、そのピュアな音楽人生。

ASKAファンの方々とつながると、時にとんでもないことが起きる。

界隈から”狂犬”として名の知れるシナモンユウジさんからTwitterにDMが届いたのは、ひと月ほど前のことだった。

『Pure』というバンドの真似事を始めましたので、ぜひフロントマンにインタビューをお願いさせて頂きたく…

随分ともったいぶった文面を読むにつけ、ユウジさんの日頃の暴れっぷりを知ってる私は逆に怖かった。

Pure。
ユウジさんを筆頭に、ポエやまさんまみさんという、チャゲアスを介してSNSでつながった方々で結成された、ごくごく短期間のバンドプロジェクトだという。そのフロントマン・ポエやまさんを点光源に推薦したいということなのだ。


だがユウジさんと私は因縁の関係である。

私が3月に「『はじまりはいつも雨』を語ろう。」という、最終的にはASKAさんまで参加して下さり大いに盛り上がった企画を髪振り乱して頑張っている真っ最中に、脅しだか応援だかわからない格好で乱入してきたプロレス野郎だ。

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しかも最近は、「蛍光灯」などというタイトルでこの《点光源》のパロディ企画まで始めるほど、私へのおちょくりが凄まじい。


「こんなバンド、紹介するか!」

で済む話なのだが…

困ったことに、私は点光源を始めた初期からインタビューの依頼先として、実は密かにポエやまさんに白羽の矢を立てていたのである。


ユーモア、冷静、客観視。
これが、彼のSNSから私の受ける印象であった。

インタビューを受けて下さる人を探す時には、どうしても「好き」の声が大きい人を誘いがちになってしまう。
だがそれではファン層が偏り、リアルな実態が見えてこない。
是非とも”平熱のASKAファン”の声も集めたい。それでこそ本当の企画ではないかという思いがある。

狂犬・ユウジさんの依頼を受けてしまった形で、非常に癪である。
だが今回はこの記事で、ポエやまさんのことをしっかり、そして丸裸になるよう描いていくことが、身元を明かさず覆面ヒールを貫くユウジさんに対し私ができる反撃なのかもしれない。

ASKAの音楽を愛する人たちへのインタビュー連載《点光源》、9人目はしょうもない因縁に巻き込まれた男、ポエやまさんである。


●フォーク好き少年、チャゲアスに目覚める

ーーポエさん、初めまして。というか、なんで覆面かぶってるんですか! Zoomのマイクに声入らないんで脱いで下さい(笑)。 ユウジさんもポエさんも、チャゲアスに加えてプロレスファンつながりなんですよね? 本当に日々、絡みが面倒くさいですよ(笑)。

それは失礼しました。(覆面を脱ぎながら)今日はよろしくお願いします。

ーー今日はユウジさんのことは1ミリも思い出さずにお話を進めたいと思いますよ。ポエさんって私と同じく、チャゲアスへの入り口は「SAY YES」の世代ですか?

そうですね、'77年生まれです。同世代ですよね。チャゲアスっていいかも、と気付いたきっかけは中2の時の「SAY YES」でしたが、入り口という意味では自分の場合は『SUPER BEST』なんですよ。「SAY YES」の入ってる『SUPER BEST Ⅱ』の方じゃないですよ(笑)。

ーーえっ、あのフォーク演歌期がぎっしり詰まった方ですか? なぜ?

僕はどうもひねくれたところがありまして、「SAY YES」という曲が気になるんだけど、なぜかまっすぐ手に入れる気にならず、まずはベスト盤を聴いてみようと。ベスト盤聴いたら大体全体を把握できると思うじゃないですか。あんなに音楽的変遷が激しいとは中2の僕は知らないわけですから(笑)。
でもこのアルバムをすごく気に入ったんですよ。僕はずっとそれまでアリスやオフコース、クリスタルキングなどを聴いていたので。


ーーちょっと待って下さい、同世代ですよね? B'zやTMNじゃないんですか?

違ったんですよ。新しいものはほとんど聴いたことがなかった。音楽番組も見なかったですしね。
うちは親が割と保守的というか、「自分が若い頃に愛したもの以外は認めない!」という雰囲気を家の中で醸し出しておりまして(笑)。親の影響って子供の頃は大きいじゃないですか。
自分もニューミュージック系以外は聴く機会がなかったですし、光GENJIが流行ってても親の口癖を真似して「何がいいんだ、あんなローラースケートのアイドル」なんて、学校で言って女子にひんしゅくを買ったりして。実は「いい曲だな」って思ってるんですけどね。イヤな野郎だったと思いますよ(笑)。


ーーそれでなぜ、「SAY YES」は聴いたんですか?

'91年ですから、直前に小田和正さんの「ラブストーリーは突然に」がドラマのタイアップで大ヒットしてたんですよね。小田さんはオフコースなので、聴いてみようかと。そうしたら、すごくいい曲なわけですよ。その後にチャゲアスの「SAY YES」の評判も聞いて、もしかしたらいい曲なのかもと、ふと興味が湧いたんですよね。

ーーそこで手にしたのが『SUPER BEST』ですか…。私も中学生の頃に聴きましたが、新しさとして受け取ってましたよね。今までちゃんと聴いたことのない、未知の音楽という。
まず女性が主語で、ですます調の曲というのに馴染みがなかったところ、あのガッチリしたASKAさんがパキッと肩バッドの入ったスーツを着こなして、切ない表情と美声で歌う姿も含めて、感じたことのない色気にゾワゾワした記憶があります。

わかりますよ。それが僕にとっては全く、違和感じゃなかった。井上陽水さんや谷村新司さん、南こうせつさんとか、女性主観の曲を当たり前に聴いてましたからね。

『SUPER BEST』の中では、特に「オンリー・ロンリー」が好きでした。歌詞も含めて、あの切なさとメロディラインがとても気に入って。
僕は、今考えてもよく理由がわからないんですが、ASKAさんのメロディーラインについて、ごく初期の作品にもすごく自由な感じを受けてたんです。伴奏に縛られてないというか、メロディが強くてコードに引っ張られていない感じ…構成的にも、デビュー曲の「ひとり咲き」からしてすごいですよね。どこがサビと思ったらいいんだろう、とか。


ーーいやぁ…一つ一つそうだなと頷いてしまうんですが、それ以前にポエさんって、語彙力が豊かすぎません? あまりASKAさんの楽曲の魅力をパッとここまで語れる人っていないですよ。あと、耳の繊細さも感じますよね。切なさをキャッチできる感受性も。もしや、文学青年でした?

いやいや、文学なんて全くで、ただのプロレス好きおじさんですよ(笑)。でも繊細な音楽を聴くのは好きでしたね。歌詞も含めて全体の雰囲気が切ないものが好きで。松任谷由実さんなら「雨の街を」とか、陽水さんなら「五月の別れ」とかにグッときますね。

ーーめちゃめちゃ繊細なハートじゃないですか…。チャゲアスと相性いいですよね。その後、彼らの音楽にはどんな風にハマっていくんですか? というか、ポエさんにとってそもそもチャゲアスって特別な存在なんでしょうか? いつもクールなので、まずそこから確認しないと。

何をおっしゃいますか(笑)、特別中の特別ですよ。あんなに深く好きになった音楽はないです。こういうこと、普段は恥ずかしく言わないだけです。
中2で『SUPER BEST』をしばらく聴いてるうちに、「僕はこの瞳で嘘をつく」が出るんですよね。これを聴いた時には心臓をぶち抜かれましたね。初めてCDを買って何度も何度も聴いて。B面に入ってた「TREE Digest」も、「なんだこのつながってるのは」とザワザワして惹き込まれましたよね(笑)。

それである時、テレビの特番を見るわけですよ。ASKAさんが公園に置かれたタイヤの上でバック宙するやつですね。あれを見て「なんだこの人は!」ってなりまして、映像を見るようになりだしてからは加速度的にハマっていきました。


ーーやっぱりプロレス好きの血が騒いだというのもあるんでしょうか?

関係ありそうですよね。バック転そのものというより、作詞作曲して歌ってる歌の上手い人がバック転もできる身体能力まである、っていう。というかこの連載の登場者、プロレス好きが多くないですか?

ーーそれは私が言いたいですよ(笑)。

プロレスファンって世の中にそこまで多くないと思うので、チャゲアスファンの中の割合は確実に高いと思いますよね。
僕は一時期のプロレス、初代タイガーマスク(佐山聡さん)や三沢光晴さん、前田日明さんに熱狂した世代なんですが、プロレスラーの中でも特に「今この一瞬に己のすべてを賭けて戦う」みたいな、格闘系アスリート的な姿に惹かれてたと思うんですよね。そういうスターレスラー特有の色気というのを、ステージ上のASKAさんには感じます。これはなんでなんだろうな…なかなか言葉にするのが難しいですが。

ASKAさんの歌う姿には獅子が咆哮しているイメージがあるし、「WALK」を歌う時に正拳突きしたり、後ろ回し蹴りをかましたり、歌詞の中で殴りに行ったり(笑)。戦いを感じる歌手なんですよね。

ーーよく男性陣から出てくる「ASKAさんはリアルヒーロー」という言葉、ポエさんも同じでしょうか?

まさにそうですね。当時中学生だった自分が欲しかったものを、全て持っていましたよ。ハンサムな外見で、作る曲は本当に素晴らしく、歌声は圧倒的で唯一無二。剣道ではインターハイ、パンチングマシーンをさせればK1ファイターに勝ち、ステージでは華麗にバック宙や転回をきめ、普段は温厚で優しそうなのに曲がったことは大嫌いという。もうこれ完全にヒーローじゃないですか(笑)。誇張じゃなく、一挙手一投足に憧れてましたよ。

思春期の僕にとって、ASKAさんはかっこいい大人のロールモデルだった。冗談でなく、本気でASKAさんになりたかったんです。ちょっと言ってて恥ずかしくなってくるので、これくらいにしておきましょうか(笑)。


●作曲することで音楽との距離が近づいた

リアルヒーロー・ASKAになりたいと本気で思っていたポエやまさん。初めてご両親の影響下から飛び出し、求める音楽を浴びるように聴く。
この小さな反抗で、自分の世界を作るためのスタートを切っていったのだろう。

自分自身を振り返ってみれば、本当に頑張りがきかないというか、どれも中途半端にしちゃうんですよね。コンプレックスだなと感じることもありますが、こういう星の元に生まれたんだと、今では自分を納得させてますけどね。

高校まで地元の長野県で過ごしてましたが、スポーツに熱心に打ち込んだわけでもなし、友達とフラフラ遊ぶのが楽しくて。せっかく陸上部に入ったのに、学校から離れたグラウンドまでランニングしていく途中でスッと離れて友達とサボり、怒られる、みたいなことばっかしてましたから。人に語れるような大層なことが無いんですよ。

それで、大学で東京に出るんですが、ふいに音楽をやってみようかと思ったんですよね。高校でバンドを始める奴って出てくるじゃないですか。ふーん、とそれまでは横目で眺めてたんですが、大学で時間を持て余すうち、よし、自分で作ってみようとギターを持ち始めたんです。


ーーポエさんが大学に入ったのは'96年ですか。当時はビジュアル系が台頭してきて、ミスチルの人気も根強くて。そんな中で、ポエさんはどんな音楽をやろうとされたんですか?

やっぱり「オンリー・ロンリー」みたいな曲ですよね。こういうキュンとなる曲や、チャゲアスみたいな曲を作ってみたいなと思って。
軽音サークルに入って仲間でコピーバンドもやってたんですが、どちらかといえば気の合う友人と二人、お互いコツコツ曲作って、出来たら互いの曲にハモリを乗せて…という方に打ち込んでましたね。


ーーそれはまさにチャゲアススタイルじゃないですか!

確かにある部分そうですね(笑)。やっぱり声を重ねることに対する憧れがありますよ。チャゲアスってハモリはもちろん、ユニゾンもハーモニー的に聴こえる時がありますよね。
何かで読んだことあるんですが、ChageさんとASKAさんそれぞれの声を鉄筋とコンクリートに喩えてたんですよね。お互い、違った種類の倍音を含む声だとはよく言われているけれど、それが重なると強固な建造物というか、表現できないような美しさがあって、そこに昔から自分も惚れ惚れしていたので。


ーーあのハーモニーの魅力には、一度虜になると離れられなくなりますよね。曲作り、すぐに出来ました?

いや、納得いくものはなかなか(笑)。それは未だにそうで、ずっと試行錯誤ですよ。松任谷由実さんとかを聴きだしたのもこの頃で、こういうコード展開にすればお洒落に聴こえるのか…なんて、今まで自分が受け取ってきたものに対して納得することばかりで。

僕が音楽を作りたくなった動機って、自分がグッとくるメロディーやコードの流れがどうなっているのか、自分の中で納得したい、それを自分なりに咀嚼したいという気持ちが一番だったので、研究して曲を作ってる時間がすごく面白かったんです。

そうやって聴いていく中ではやっぱり、ビートルズの衝撃が一番でしたね。色んなミュージシャンが影響受けたと公言してるじゃないですか。もうほとんどの楽曲がビートルズのコードを使えば作れるんじゃないかと思えるくらい、ものすごい創造力が詰め込まれてると驚きましたよ。
それでもカッコいいコードを使えば良い曲になるわけでは全くなくて、それ以外の要素も必要になるので、良い曲を作るのって大変なんだなというのは、自分が曲を作るようになってひしひしと感じました。


ーーご自身でそこまで行き着けるというのは、音楽の資質が豊かなんじゃないかと感じます。いずれプロになろうとは思わなかったんですか?

いやいや、なりたいとは思いましたけどそこまで粘れなかったですね。やっぱり満足の水準が低いんですよ。こう作りたい、というのが作れた時点で満足しちゃうので。プロになる人ってそこから人に批評されながら世の中に出していくんだから、本当にすごいなと改めて思いますよ。
あと、これが大きかったかなと思うのが、自分は音楽を作る上でのフィジカルが圧倒的に足りないんですよね。


ーー声とか演奏技術とか?

そう、どちらも一応できるというくらいで、プロのエンターテイメントになるにはレベルが足りないと自分で感じますし。やっぱりASKAさんがすごいのは、作れるし歌えて、その両方がとんでもなく高いレベルってとこですよね。

ーー先日(12/2)のオンラインライブを観ていても、ひしひしと感じましたもんね。素晴らしい楽曲の数々を、生み出した本人が唯一無二の歌声で完成させているという、驚きに近い喜び。神々しく見えましたよね。


●フィジカルに感服する瞬間

大学を卒業し就職したポエやまさん。公に活動することは無いにしろ、音楽だけは社会人になっても父親になっても、気が向けば作り続けてきたという。

今まで何も続いたことないと思ってたんですけど、音楽だけはそういえば地味に続いてますね。

ーーいい経験を積んでらっしゃいますよね。ポエさんって、人前で目立つよりも「わかりたい」という欲求の方が強いタイプじゃないですか?

そうですね。表現の欲よりもその方が強いと自分でも思います。伝えたいメッセージみたいなことって自分の中に無いんですよ。
僕の興味は、自分の好きな音楽をどれだけ咀嚼して自分というフィルターを通してアウトプットできるかということに向いてますね。それって結局ゼロからの行為ではなくて、先に憧れみたいなものがあるわけですよ。それをどれだけ自分の中に取り込めるか。
憧れてるものを咀嚼して表現することで、こう言ったら気持ち悪いんだけど一体化する感覚みたいなものがあって、それが幸せなんです。それができたところでかなり満足しちゃう。


ーーご自身をそこまで客観視できるのが、やっぱりすごいなぁ。それに、仰ることが私も似たところがあるのですごくよくわかります。

s.e.i.k.oさんが似てるっていうのは、意外ですね。

ーーいや、それが全くその通りなんですよ。この間、シンガーソングライターをされてるaimoさんという方から作詞を頼まれまして、やってみたんです。でもゼロから何か捻り出そうとしても、全然ダメで。どこか客観視してしまうから、自分の中の感情もすぐ処理しちゃって、言うことなくなっちゃうんですよね。

それわかるなぁ(笑)。僕も歌詞を書くのが苦手なんですよ。

ーーそうですか? 私の場合は悩んじゃったので、aimoさんのことを描いてみようと方向性を変えたらスラスラと進んだのですが…。
こういう自分に結構うんざりするんですよ(笑)。ゼロから生み出せる人ってすごいし、そういうものを聴く側も受け取りたいじゃないですか。

いや、逆に僕はそういう人の方が職業的には向いてると思いますよ。だって、人のものなら時間かけずスラスラ進むわけじゃないですか(笑)。いちいち人生刻み込んだりしてたら、大変ですよ。

ーーそうも考えられるのか…。曲がりなりにもASKAさんの歌詞のファンを公言していて、自分は人生刻めないってわかって恥ずかしくなりましたよ。ASKAさんは完全に人生を刻まれるタイプの表現者だと思うので。

うーん、だからこそ惚れてるとも言えますよね。自分が真似できそうな人には興味湧かないじゃないですか。

ーー本当にその通り。ポエさんも、こういう言い方で失礼かもしれないけど、多分すごく器用なタイプなんですよね。客観視できるし、すぐにコツがわかって大体形になってしまうという。私もそうだから言えるんですが、だからこそ自分の中に表現したいものがある人、ゼロから生み出せる人への強烈な憧れが生じるんだと思うんです。

そういう独特のコンプレックスってありますよね。僕は、結局ASKAさんみたいな曲を作りたいって思って始めてみたけど、他のアーティストをイメージしたものは何となく納得できる形になっても、これだけは全然作れないんですよ。s.e.i.k.oさんが対談されてた記事で音楽家の野井洋児さんが仰ってたけど、素人ながら本当にそう思った。あれは真似できないです。

あの声だって、あんなに癖がはっきりしてるのにモノマネされてるのをほとんど見かけないですよね。技術的に真似できないからだと思うんですよ。きっとASKAさんご自身が、身体を使って繰り返した経験から体得されてるんですよね。やっぱりフィジカルの部分だと思うな。


ーー私、密かに思ってるんですが、「モーニングムーン」でガラッと歌唱法を変えるじゃないですか。あれを初めてASKAさんが披露した時、周りで聴いてる人はひっくり返ったんじゃないかなって(笑)。
それまで、若干鼻にかける歌い方はされてたと思うんですが、一語一語をきれいに音符に乗せてたじゃないですか。直前のシングルだって、それこそ「オンリー・ロンリー」ですよね。あんな綺麗な歌い方をしていたのが急に跳ねるようになって、「あんあ〜」って歌い出した時、周りの人は「おいおい、それで行くのか?!」ってなったと思ってるんです(笑)。

それは想像したことなかったな(笑)。それだって、身体性を突き詰めた末に体得した歌い方ですよね。だからこそ音楽性の振り幅も広いんだろうし、こういう経験や試行錯誤を経ながら自身のフィジカル特性を活かして得た技術は、真似するのがものすごく難しい気がしますよ。
「オンリー・ロンリー」に似たものは作れても、チャゲアスっぽく、ASKAさんっぽくというのは未だにできないです。


ーーなんだかポエさんの話を伺ってると、ゼロから生み出さない、つまり自己が表現できない表現者って、惚れ込む力が人より大きく、それが原動力になってるんじゃないかと思えてきます。そこまで粘れないですよ。自分で作ろうと思えないですし。

うん、それはあるかもしれない。一回すごく好きになると、自分で再現したくなっちゃうんですよね。鬱陶しい男あるあるで、こじらせた男は必ずカレーにハマるというのがあるじゃないですか。僕、見事にスパイスから調合して作れますからね(笑)。

ーーうわー、これは鬱陶しい(笑)。


●大人の本気に、もう一度立ち返ったら

音楽とちょうどいい距離感を取りつつも、自分の中の創作意欲とどう向き合ったらいいのかわからなかったポエやまさん。
そんなところに、プロレス仲間から声がかかったという。

ーーポエさん、一応Pureの話も聞かせて下さいよ。12/18に『Pure違反』という「ファースト・ラスト・ベストアルバム」を公開されたそうですが、なぜ急にバンド活動をやろうと思ったんですか?

これはね、実を言うとs.e.i.k.oさんがキーパーソンなんですよ。さっきお話されてたaimoさんとのコラボレーションがあったじゃないですか。あの曲をユウジが聴きまして、いたく気にしてたんですよね。「俺たちも負けてらんねえよな」と、急にエンジンかかっちゃって。それで誘われたんですよ。

ーーえっ、怖い! 勝手に敵対視しないで下さい(笑)。

まあ、刺激を受けたってことでしょうね(笑)。それで、自分も趣味で音楽を続けてましたから、やってみようかという気持ちになりまして。
思い返せばこれまで、人と曲を作るってことが無かったんですよ。大学時代もコンビ組んでましたけど、基本は互いに自己完結したものにハーモニーを乗せ合うくらいでしたから。

僕は、歌詞に時間がかかるんですよ。言いたいことがないですからね(笑)。それで、もう少しスピードアップできないかなと思っていたところに、ユウジが歌詞を書いてくれると。それならちょうどいいと任せてみたんですが、返事した10分後にもう送られてきたんですよ。早すぎて腹立ちますよね。こっちはそこから曲作ってアレンジして歌うわけですから、かける労力が奴と全く違うんですよ。


ーーまみさんというピアニストもメンバーにいらっしゃいますが、どうやって3人組になっていったんですか?

これもユウジが誘ったんですよね。最初はaimo & s.e.i.k.oに対抗してポエ&ユジで2、3曲作るくらいのことだったんですが、急にインスピレーションが湧いたらしく、まみさんを入れたいと。
彼女は本当に人間ができた方で、僕らが揉めたり不穏な空気になってるところをガス抜きしてくれたり、作った曲を褒めてくれたり、本当に彼女がいないとPureは成り立たないですよ(笑)。


ーーこの癖の強い二人の間で、まみさんの大変さを思うと涙が出ますよ(笑)。ユウジさんはそう思うと、トリックスター的な役割なんでしょうかね。

奴は楽曲製作に労力を割かない分、企画とかブッキングとか演出とかそういうところを旺盛にやるんですよ。その意味では表現したいことがゼロから湧き出てくるタイプですよね。s.e.i.k.oさんのことも散々ディスってた挙句、図々しくもインタビューをオファーしたのは彼でしょう? そういうことを平気でやってのけますよね。嫌な思いしてません?(笑)

ーーいや、私の心の広さを世に示す絶好の機会に使わせてもらってますよ(笑)。実際にメンバー同士、お会いしたりはしてるんですか? 創作はどんな風に進めているのかなと気になりまして。

Pureは完全に現代的な関係ですよ。お互いに顔を見たことないですし、実際に話したこともない。曲ができたらデータをGoogleドライブで共有して、LINEで意見交換して、という感じです。

ーーそれで成立してるのがすごいですよね。私はやっぱり、創作は顔を見ないとできないので。そういう創作環境でも、一緒に作ることってポエさんにとっては新鮮なものでした?

だいぶ今までと違いますよね。僕の場合は一人で作ってきて、それをYouTubeにアップしたとしても最終的には己で満足という感覚が消えなかったんですよ。それが、曲の原型ができて送るたびに「いいね」という言葉をもらうだけでも、ずいぶん違いますよね。聴いてくれる相手がいるというのはいいものですよ。

全然音楽と関係ない仕事を日々してますし、思えば行き場のない創作意欲をずっと抱えてきたと思うんですよね。それがPureという活動になったことで、おそらく一人の時よりは聴いてくれる人数も増えそうじゃないですか。これまでとは違う気持ちで、楽しんでやってますよ。


ーー大人になって新しいことを始め、自分の中に新しい気持ちを見つけられるって、すごく貴重なことですよね。

本当にそうですね。Twitterでチャゲアスファンとつながっていなければ、こんな機会なかったですから。
『Pure違反』はトータルで13曲あるんですが、こんなに出来ると思わなかったですよ。13曲のうち12曲をまみさんと僕で作曲してますが、僕としては、これまでお話ししてきたような、自分が「いいメロディだな」と感じてきたものを咀嚼して色々な形で散りばめて盛り込んでるつもりです。

ASKAさんへのリスペクトもしっかり込めてますよ。わかりやすくトレースはしてないですが、自分なりに咀嚼した「LOVE SONG」と「DO YA DO」が、楽曲のどこかに隠れてますので探してみて欲しいですね。
アルバム『Pure違反』の全曲はPure公式サイトでお聴きになれます。

ーーファーストにしてラストアルバムのPure、年末に解散されるのが惜しいですが、ポエさんという人の軌跡の一つとして、じっくり聴かせていただきます。

あと、宣伝ついでにもうひとつ。私が熱心に布教したわけではないんですが、小6の息子も最近チャゲアスが大々々好きで、耳コピしてピアノで弾いてYouTubeに色々アップしてるんで、良かったらこっちも聴いてみて下さい。

ーーカルビくんですね! 先日ASKAさんご本人からも「演奏はもちろんリズムが素晴らしい」とお墨付きをもらってましたよね! 耳コピだということがまず信じられないですし、しかもお父さんから布教もされていないのにチャゲアスが好きだなんて…将来大物になりそうな予感ですね。
親子共々の、ますますのご活躍を期待しておりますよ!


ポエやまさんと話せて、本当に良かった。Zoomを切った後の私の気持ちだ。
なぜならきっと、彼の半生を知らなければ、私はPureのアルバムを聴かなかっただろうから。

「自分は結構、マインドが硬派なんですよ」と照れつつ話して下さったポエやまさん。
プロレスしなければ出会えなかった仲間たちと、本気で作った音楽。
それを、やっぱりプロレススタイルでしか世の中に伝えられないところに、ちょっと吹き出しもしてしまうけれど。

大人だってまだまだ変われる。そんな気持ちにさせてくれた、シャイなプロレス野郎達との出会いだった。

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ASKAの音楽を愛する人たちへのインタビュー連載《点光源》。
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