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三郎丸の地に60年、伝統とエンタメが融合した『白馬館』(全国バー行脚③富山)

   国産ウイスキーを牽引するビッグネームのひとつに、1952年に製造を開始した富山県の三郎丸蒸留所があります。それから10年後、同じ富山の地に開業したバーが『白馬館』です。全国的にも有名なお店で、ようやく行けたのは昨年でした。

 場所は富山駅のほど近く。白馬のマークの入った看板が迎えてくれます。

道路側から見上げる看板
扉の馬はなぜか黒い

   扉をくぐると、店内にはボトルとミニボトルがびっしり。もちろん、三郎丸シリーズもたくさん並んでいます。

   座席は13席ほどのカウンターと、大きなテーブル席がひとつ。さらに店内を仕切る扉があり、その向こうには約20席の空間がありました。最大で計45席ほどになるそうです。フードメニューも豊富なのに、店主を含めスタッフ二名でこの広さに対応されていると聞き、驚嘆。「オペレーションをかなり工夫した」とのことです。実際、満員近くになっても店は平和に回っていたので、まさにプロの技。凄え。

■「チャイナブルー」発祥のバー

 この白馬館は親子三代、60年の歴史を持つバーで、現在の店主Uさんは三代目になります。年齢は二七〜八、三十でこぼこ。とてもお若く、伝統あるオーセンティックバーのイメージとはちょっと違う、良い意味で見た目も接客もカジュアルな方でした。この気さくさの加減が、これまた素晴らしいのです。

   たくさんのお酒が並んでいますが、私の印象は「カクテルの店」ですね。なかなか他では見られない工夫を凝らしたカクテルがたくさんあります。たとえばこちら。

透明なのにコーヒー

 名前は「アジアンコーヒートニック」。コーヒー×ジントニックに、こぶみかんの葉を浮かべています。コーヒーは、豆から苦味や香りを抽出し、エキスとして使用。そのため、コーヒーの香りと味がするのに透明です。見た目、香り、エスニックな味。どれをとっても、飲んで良かったの一杯です。

   その他にも多くの創作カクテルがあります。もちろんスタンダードは言うまでもありません。そうそう、有名な「チャイナブルー」は白馬館発祥のカクテルだそうです(飲まなかったな…)。

■「オーセンティック×フレア」

   また、目を引くのがUさんのカクテルを作る際の動き。例えばリキュールを少し高い位置から注いだり、シェーカーをくるっと回転させたりするパフォーマンスをちょこちょこと入れます。いわゆる、フレアバーテンダーの動きです。聞くと、

「あ、私フレアですから」

   びっくり。 伝統あるオーセンティックバーのメインバーテンダーが、フレアバーテンダー 。組み合わせが意外で声が出てしまいました。

   大会にも出ているとのこと。2019年に徳島県で「全国バーテンダー技能競技大会」と「フレア・ジャパンファイナル」が同時に開催されました。どちらもその年の日本一を決める大会ですが、そのフレアの大会に選手として登場したと聞いて二度びっくり。

「私、それ現地で見てます」

   バーテンダーの大会を見に行くのが好きで、近年は毎年のように全国大会を見に行っています(昨年の新潟大会は、ご時世によりYouTubeによるリアルタイム観戦でした)。徳島ではフレアも見ましたから、私はUさんのことを一方的に知っていたのですね。ちなみに徳島にも良きバーがたくさんあったので、いずれ書きたいです。

また現地で見られる日が来るのを楽しみに

   その後は、Uさんのカクテルをより堪能させていただきました。フレアと言っても、ここではボトルを高く放り投げたりはしません(天井ぶち破りますからね)。すべてのカクテルをフレアスタイルで作るわけでもなく、カウンター内でできる小さな技を、時々混ぜるイメージです。それでも充分に魅せます。お客さんの中には、それを楽しみにしている人もいるようでした。伝統あるオーセンティックバーにエンターテインメントを融合させた、なんとも贅沢な時間です。

   こうしたバーには、いわゆる伝統的な、クラシカルなバーテンダーが当然と考えていた自分の固定観念を、気持ち良く壊されました

   三郎丸蒸留所の話もいろいろと教えてもらいました。ブレンダーさんの“アイラ愛”が半端じゃないこと、アイラ島のラガヴーリンやボウモア蒸留所を彷彿とさせる、「SABUROMARU」と壁に大きく名前を入れた建物の佇まいなど、いつか必ず見学に行こうと思います。

   なお、富山市にはもうひとつの『白馬館』があり、こちらは先代があらためて始めた新店とのこと。基本は会員制のような仕組みを取っているようです。

■鏡の使い方に目から鱗の『リクオル』

   富山ではもう一軒、『リクオル』というバーも印象深かったです。富山市の桜木町エリアと呼ばれる、駅前からは少し離れた繁華街にあります。

   入ると、とても大きなL字型のカウンターがあります。バックバーに対面しているのは長い方の直線で、私は入店して奥の方へ案内され、L字の短い方の直線に当たるカウンターに座りました。短い方の直線は、バックバーとは反対側に折れている格好です(珍しいですね)。

   そうすると、目の前には壁しかありません。長方形の店内なので、この席からは横一列に綺麗に並んだバックバーは見えないし、バーテンダーさんに声をかけるのも難しいかなと思ったのですが、目の前の壁に鏡がいくつか掛けられていました。装飾の施された、ちょっとおしゃれな物です。

   この鏡を見ると、店の正面側にいるバーテンダーさんの動きが把握できるんですね。鏡越しに目が合って、来てほしいそぶりをすると、きちんと対応していただけます。うまくできてるなーと、感心しました。

   こちらのオーナーバーテンダーさんは、渋い中年紳士。三郎丸シリーズを飲みながら、リラックスした時間を過ごしました。ここも、じっくり腰を据えて飲みたい店です。

   帰りの新幹線のお供は、白馬館でUさんと一緒に接客していた女性バーテンダーさんに教えてもらった、三郎丸蒸留所の「富山スモーキーハイボール」。最後まで美味しい富山でした。(了)

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