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SHINONOME

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連作短編のSHINONOMEシリーズをまとめています。
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記事一覧

【短編】SHINONOME〈5.5〉⑤

【短編】SHINONOME〈5.5〉⑤

端的に言えば、妹を救ってもらった。

俺と東雲の間柄を決定付ける、ターニングポイントめいたものがあるとしたら、この出来事を置いて他にない。
詳細は語らない。ここで語るべきことがあるとしたら、以下三点。当時、同じ大学の先輩でありながら、その実、高校時代の同級生であった東雲を俺は頼った。およそ人知の及ぶ範囲では救いようがない事態にいた妹を、およそ人知の及ばぬ異能の力で救ってもらった。命に代えても守るべ

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【短編】SHINONOME〈5.5〉④

【短編】SHINONOME〈5.5〉④

「そうだな。YES/NOで答えられる質問を、三つまで許そう。僕にではなく、ハチに対してのね。質問の内容は問わない。ダイレクトに『あなたとシノノメの関係は◯◯ですか』と訊ねても良いし、『あなたは●●ですか』と外堀から攻めるのも可。ただし、答えはすべてYESかNOだ。どう、面白いと思わない?」

矢継ぎ早に捲し立て、東雲は飲み物に口をつける。対する影山はなお怪訝な表情で、「待ってください」と片手を上げ

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【短編】SHINONOME〈5.5〉③

【短編】SHINONOME〈5.5〉③

念のため伺いたいのですが。
そう前置きして、影山は俺を見た。

「あなた、滝沢幾馬さんあるいは一原力也さんではないですよね」
「……違うっスけど」

答えると、「良かった」とさして感慨も無さそうな顔で、影山は息を吐いた。「その二人のどちらか、あるいは両方と遭遇した場合、有無を言わずにまずは引け、と言われているもので」

誰から言われているのだろう。早蕨ミツルか。

「こいつはハチだよー。雑魚キャラ

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【短編】SHINONOME〈5.5〉②

【短編】SHINONOME〈5.5〉②

滝沢幾馬と東雲紫陽、それから喫茶【Allegro】に、一原力也の名も出てきたか。

これら固有名詞について語り始めると、それだけでまた別の物語になってしまうであろうため、ここではばっさり割愛する。というか俺も、俺が関わった案件しか具には語れない。そもそもこいつらがどうやって出会い何をしてきたか、みたいな諸々の事情は、まぁ多少なりとも聞かされているけれど、説明がややこしくて難しい。

故に割愛。ショ

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【短編】SHINONOME〈5.5〉①

【短編】SHINONOME〈5.5〉①

東雲が滝沢さんに説教されている。
俺は少し離れた場所から、椅子に座ってそれを眺めていた。

「それで? 君としてはどうしたいわけだい」

場所は、開店前の喫茶店【Allegro】。壁側にある四人がけのテーブル席に腰掛け、ノートパソコンを触りながら、滝沢さんは訊ねる。店の入り口付近、立たされたままの東雲は、不遜なことにパーカーのポケットに手を突っ込んだ態勢でそれに応じた。

「えーっと、できればなん

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【短編】IRORI ⑧

【短編】IRORI ⑧

「あの、すみません。ちょっと足を挫いてしまって……手を貸していただけませんか」

声をかけると、女性はアスファルトに座った私の手を取り、力を入れて持ち上げてくれた。私は不自然にならない範囲で、できるだけ強く長く、その手を握り続ける。

頭の中に画像が流れ込んでくる。そのひとつひとつを追い、おそらくこれ、と思われる静止画をピックアップする。

間違いない。さらさに見せられた、あの男性だ。

「あの…

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【短編】IRORI ⑦

【短編】IRORI ⑦

私は翔ける。

四本脚の動物が如く、腕を使い身体を弾かせ、前へ。もつれながらも足の裏が床につき、さらに前へ。力一杯フローリングを蹴り、サカマキの腕に掴みかかる。

服の上からじゃ駄目だ。生身の肌を。
さらさの身体を押し退けんと動く手を強引に引き寄せ、胸の前、目一杯の力を込め、握る。

頭上では、湿り気を帯びた唾液の応酬。
信じられない。
一体、どんな思いで。

駄目だ。今は集中しろ。

探れ。

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【短編】IRORI ⑥

【短編】IRORI ⑥

信じられないことに、さらさはエントランスを開錠し、サカマキをマンション内に招き入れた。

「どの道、逃げられません。応援を呼ばれ立ち行かなくなる前に、交渉します」

時間勝負です。さらさが言い切るよりも前に、今度は部屋のインターフォンが鳴った。

早い。

「ひたきさん」
「はい」
「ひとつ、お願いがあります」
「お願い?」
「ここを切り抜けられたら、後で私の依頼を聞き入れていただけませんか」

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【短編】IRORI ⑤

【短編】IRORI ⑤

二回目の共同配信は、私の部屋で行った。

前回のカラオケボックスで雑音に悩まされたこと、お互いの最寄駅が割と近いことが判明したこと、そして何より、私自身にさらさとの距離をより縮めたい、という思いが芽生えたことから、そう提案した。

都内のワンルームマンション。表札には、本名も記されている。
ほぼ初対面に近い相手に、不用心と言えるだろう。舞い上がっている自覚はあった。しかし、舞い上がる自分を許容して

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【短編】IRORI ④

【短編】IRORI ④

「と、言うわけで、さらさちゃんが相方となってくれたわけなんで、す、が。なんか慣れない感じで緊張しますね。さらさちゃん、あらためてよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

三脚に立てたスマートフォンを前に、折目正しくさらさは一礼する。画面には『クール』『美人』『真面目そう』と、粗方予想された反応が流れている。

時刻は二十二時。さらさをパートナーに迎え、初めての配信がスタートした。場所は前

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【短編】IRORI ③

【短編】IRORI ③

待ち合わせと言えば、新宿アルタ前か渋谷のハチ公。その両方を下見し、迷った挙句、私は前者を選択した。

街中に出るのは久しぶりだった。予想はしていたが、眩暈がするほど人が多く、その大半が着飾った若者だ。洒落た服など持っていなかった上、何が洒落ているのかもわからなかったため、適当に検索をして、オーバーサイズのパーカーにスキニージーンズ、スニーカーをネットで買って着用してきた。

目の前の往来を眺める。

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【短編】IRORI ②

【短編】IRORI ②

瀧本さらさ(本名)。
都内の大学に通う学生で、歳は二十一歳。
今までに配信経験は無く、また私の配信を見たのも今回が初めてだと言う。

「あの、どうして私の相方になろうと思われたんですか」

五分ほどの雑談で得た情報は、その質問を投げかけるに十分なほど謎めいていた。

こちらの困惑とは裏腹に、瀧本さらさは眉ひとつ動かさない。

『実は、以前から知人を通じ、あなたの存在は存じ上げておりました。お近づき

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【短編】IRORI ①

【短編】IRORI ①

二十二時。配信をスタートする。

「こんばんは、ひたきです。好調ですか?」

"好調です。"
"校長先生です!"
"好調でーす。"

開始時刻に合わせ待機していたのであろう、視聴者が続々と入室してくる。

「megさんこんばんは。サカマキさんこんばんは。あ、糸魚川さん、お久しぶりです。こんばんは」

一人一人名前を読み上げ、ひと通りの挨拶を済ます。計十二人。いつもの固定客はあらかた集まった。
手始

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【短編】HITOKAGE ⑥

【短編】HITOKAGE ⑥

「お久しぶりです、影山さん」

待ち合わせのテラス席に現れた瀧本は、前回のリクルートスーツ姿から一転して、白いシャツの上にモスグリーンのニット、黒のタイトパンツという学生然とした出立ちだった。

「お久しぶり。どうぞ」

席を勧める。円形のテーブルを挟んで向こう側、椅子を引いて瀧本は腰掛けた。

「ご足労いただき、ありがとうございます」
「いや。私もT大は初めてだったからね。採用の担当として一度見

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