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SHINONOME

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連作短編のSHINONOMEシリーズをまとめています。
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記事一覧

【短編】IRORI ⑧

【短編】IRORI ⑧

「あの、すみません。ちょっと足を挫いてしまって……手を貸していただけませんか」

声をかけると、女性はアスファルトに座った私の手を取り、力を入れて持ち上げてくれた。私は不自然にならない範囲で、できるだけ強く長く、その手を握り続ける。

頭の中に画像が流れ込んでくる。そのひとつひとつを追い、おそらくこれ、と思われる静止画をピックアップする。

間違いない。さらさに見せられた、あの男性だ。

「あの…

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【短編】IRORI ⑦

【短編】IRORI ⑦

私は翔ける。

四本脚の動物が如く、腕を使い身体を弾かせ、前へ。もつれながらも足の裏が床につき、さらに前へ。力一杯フローリングを蹴り、サカマキの腕に掴みかかる。

服の上からじゃ駄目だ。生身の肌を。
さらさの身体を押し退けんと動く手を強引に引き寄せ、胸の前、目一杯の力を込め、握る。

頭上では、湿り気を帯びた唾液の応酬。
信じられない。
一体、どんな思いで。

駄目だ。今は集中しろ。

探れ。

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【短編】IRORI ⑥

【短編】IRORI ⑥

信じられないことに、さらさはエントランスを開錠し、サカマキをマンション内に招き入れた。

「どの道、逃げられません。応援を呼ばれ立ち行かなくなる前に、交渉します」

時間勝負です。さらさが言い切るよりも前に、今度は部屋のインターフォンが鳴った。

早い。

「ひたきさん」
「はい」
「ひとつ、お願いがあります」
「お願い?」
「ここを切り抜けられたら、後で私の依頼を聞き入れていただけませんか」

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【短編】IRORI ⑤

【短編】IRORI ⑤

二回目の共同配信は、私の部屋で行った。

前回のカラオケボックスで雑音に悩まされたこと、お互いの最寄駅が割と近いことが判明したこと、そして何より、私自身にさらさとの距離をより縮めたい、という思いが芽生えたことから、そう提案した。

都内のワンルームマンション。表札には、本名も記されている。
ほぼ初対面に近い相手に、不用心と言えるだろう。舞い上がっている自覚はあった。しかし、舞い上がる自分を許容して

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【短編】IRORI ④

【短編】IRORI ④

「と、言うわけで、さらさちゃんが相方となってくれたわけなんで、す、が。なんか慣れない感じで緊張しますね。さらさちゃん、あらためてよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

三脚に立てたスマートフォンを前に、折目正しくさらさは一礼する。画面には『クール』『美人』『真面目そう』と、粗方予想された反応が流れている。

時刻は二十二時。さらさをパートナーに迎え、初めての配信がスタートした。場所は前

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【短編】IRORI ③

【短編】IRORI ③

待ち合わせと言えば、新宿アルタ前か渋谷のハチ公。その両方を下見し、迷った挙句、私は前者を選択した。

街中に出るのは久しぶりだった。予想はしていたが、眩暈がするほど人が多く、その大半が着飾った若者だ。洒落た服など持っていなかった上、何が洒落ているのかもわからなかったため、適当に検索をして、オーバーサイズのパーカーにスキニージーンズ、スニーカーをネットで買って着用してきた。

目の前の往来を眺める。

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【短編】IRORI ②

【短編】IRORI ②

瀧本さらさ(本名)。
都内の大学に通う学生で、歳は二十一歳。
今までに配信経験は無く、また私の配信を見たのも今回が初めてだと言う。

「あの、どうして私の相方になろうと思われたんですか」

五分ほどの雑談で得た情報は、その質問を投げかけるに十分なほど謎めいていた。

こちらの困惑とは裏腹に、瀧本さらさは眉ひとつ動かさない。

『実は、以前から知人を通じ、あなたの存在は存じ上げておりました。お近づき

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【短編】IRORI ①

【短編】IRORI ①

二十二時。配信をスタートする。

「こんばんは、ひたきです。好調ですか?」

"好調です。"
"校長先生です!"
"好調でーす。"

開始時刻に合わせ待機していたのであろう、視聴者が続々と入室してくる。

「megさんこんばんは。サカマキさんこんばんは。あ、糸魚川さん、お久しぶりです。こんばんは」

一人一人名前を読み上げ、ひと通りの挨拶を済ます。計十二人。いつもの固定客はあらかた集まった。
手始

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【短編】HITOKAGE ⑥

【短編】HITOKAGE ⑥

「お久しぶりです、影山さん」

待ち合わせのテラス席に現れた瀧本は、前回のリクルートスーツ姿から一転して、白いシャツの上にモスグリーンのニット、黒のタイトパンツという学生然とした出立ちだった。

「お久しぶり。どうぞ」

席を勧める。円形のテーブルを挟んで向こう側、椅子を引いて瀧本は腰掛けた。

「ご足労いただき、ありがとうございます」
「いや。私もT大は初めてだったからね。採用の担当として一度見

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【短編】HITOKAGE ⑤

【短編】HITOKAGE ⑤

「飲みに行きましょう」と予約した店は、会社から歩いて二十分近くを要する個室居酒屋だった。よく利用される社屋近辺の店ではなく、しかも個室。加えて繁忙真っ只中での誘いともあり、南原部長も比嘉もどこか訝しげな様子であった。

「この三人で飲むだなんて、初めてのことじゃないか」
上着を脱ぎながら、部長が言う。
「しかも影山さんから声がかかるなんて、めずらしいですよね」
その上着を受け取り、ハンガーに掛けな

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【短編】HITOKAGE ④

【短編】HITOKAGE ④

突然ながら赤裸々な告白をさせていただくと、この能力を持つことで、殊更に困るタイミングがある。

女性を抱くときだ。

先述のとおり、私の持つ"異能"は単に「指の力が強い」というもの。それ以上でも以下でもない。
指。銃やナイフとは違い、この身と不可分であるところに問題がある。角砂糖を摘むのも、鉄棒をへし折るのも、意識的に力を加減しなくてはならない。
当然ながら、不本意に人や物を傷つけ、壊してしまうこ

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【短編】HITOKAGE ③

【短編】HITOKAGE ③

『比嘉繭子さんのストーカーは、そちらにいらっしゃる南原部長です』

瀧本さらさからその連絡が来たのは、一度彼女と会ったあの日から、およそニ週間が経過した頃だった。

あれからと言うもの、予想通り業務は輻輳し、終電を逃しタクシーで帰る日もあるほどだった。瀧本の存在など記憶から抜け落ちるほどの忙しさ。「影山さん、お電話です」。そう呼ばれ、受話器を耳に当ててようやく、そう言えばT大の学生と話をしたな、と

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【短編】HITOKAGE ②

【短編】HITOKAGE ②

一人の学生相手に会議室ひとつ貸し切っての対応は異例だが、瀧本さらさにはそのように手配した。手頃な部屋が空いてなかったこと、説明用のVTRを試聴する設備を要すること、などそれらしい理由を書き連ねて申請したが、彼女が属する大学のネームバリューに寄るところが大きいのは、暗黙の了解であった。

瀧本一人のために、壁際のスクリーンを下ろし、採用説明用のDVDを流す。ロの字型にセットされた机の一角から、瀧本は

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【短編】HITOKAGE ①

【短編】HITOKAGE ①

「実は、ストーカー被害に遭っているんです」

比嘉繭子がそう口にしたとき、私は個室ブースの戸締りをあらためて確認した。システムで管理されたドアは問題なく施錠されており、パスを持つ限られた者しか入室できない。

「ストーカー?」
訊ね返すと、比嘉は呟くように続けた。

「先月の合同説明会に登壇した後、しばらくしてアパートの郵便受けに封筒が届いていたんです」
「何が入っていたんですか」
「写真です。ス

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