見出し画像

戦略的年齢の重ね方

  だれでも歳を取っていき、いずれは死を迎える。これはみんなに訪れる仕方のないこと。ならば、その歳を取るということを積極的に楽しもうと思う。趣味で、月1回通う文章教室の仲間たちと接するうち、そう思うようになった。もう10年になる。

 文章教室では、46歳の私は1番の若輩者で、年上の魅力的な人々に接するのをいつも楽しみにしている。
 高齢ながらもパソコンを学び、健康に気を配りながら、いくつもの重要な役目を担っていらっしゃるO先生。いくつになっても、旺盛な好奇心をもち向上心にあふれるTさんやSさん。5大陸世界旅行制覇にチャレンジ中のMKさん。子どものような無邪気な心と独特な視点を持ち続けるFさんやYさん。積極的なボランティア活動で人とのつながりを大切にされるMMさんやNさん……。

 自分の子どもやその伴侶、孫たちへの接し方や昔の戦争体験の話。老化で起きるさまざまな身体の異変とその対処の仕方から、自分なりに日常生活を楽しむという考え方・・・。人生の先輩方から、文章の書き方だけでなく色々なことを楽しく教えてもらっている。

 話を聞いて自分なりに考え、実行したことがいくつかある。数年前、日本文学全集を思い切って処分した。時間に余裕ができたら読もうと思って、若いころにローンを組んで買った全集だが、ほとんど手つかずのままだった。
「歳を取ると、老眼で細かい字の本は読むのがつらくなる。」
と文章教室仲間に聞いて、読みたくなったら、大きな文字の本を買えばいいやと、本のリサイクル店に買い取ってもらった。 
 最近では電子ブックというものが登場し、画面を指でタッチすれば、文字が大きくなるというから、これからはもう電子ブックの時代になっていくのかもしれない。

 「老化で足やひざが痛かったり、腰や肩をいためたりする・・・そうなると行動が制限され日常生活にも支障が生じ、さすがの積極的思考もなえぎみになってしまう。」
という話をみなさんから聞いて、体力維持のため一昨年、バウンドテニスのサークルに入った。 
 短い柄のラケットで柔らかいボールを打ち合うテニスで、体育館内で行う日本で生まれたスポーツ。ダブルスで必ず交互に打つルールは卓球と同じ。高校の卓球部時代を思い出す。ネットが低くコートも狭いので、以前やっていた硬式テニスが、しんどくなってきた私にはピッタリだった。 

 ここでも私は若い方で、スポーツを楽しむ年配の方々との交流も広がり、骨密度が上がるという成果も得た。いずれ母の畑で農作業を手伝わねばならないから、今後もバウンドテニスを続け、体力を維持していきたいと思う。

 わが家のキッチンのガスレンジがだめになった時、IH方式も考えたが、けっきょくガスレンジにした。病気でめまい等に苦しむ経験をされたTさんが、
「IH調理器のそばにいると具合が悪くなる。」
と話され、Fさんも
「電磁波はめまいなどの症状がある人には、よくないように思う。」
と話されたからである。 
 私も先々そういう事があるかもしれないと思えたのだ。IHにするほどのお金が、わが家になかったというのが、本当の理由なのだけれど・・・。 

 「お出かけの時、どっちの服がいい? と妻から聞かれたら、はっきり言ってよく分からず、どっちでもいい気がするのだが・・・、こっちがいいよと答えを出すようにしている。」
とは、長年の仲の良い夫婦生活を保っていらっしゃるO先生の含蓄のあるお言葉。
「どっちでもいいんじゃない。」
と言うと角が立つから、どちらかに決めてあげるのも気遣いと教えていただいた。 

 80歳になっても夫婦で世界旅行に出かけるMKさんに聞いてみた。
「旅行に行くと元気になって帰ってくるとおっしゃるが、定年してから旅行を始めても、慣れないとたいへんだと思う。いつ頃からご夫婦で旅行されるようになったのですか?」
「30代から。」
「旅行中、お子さんはどうしていたのですか?」
「両親に預けて・・・。」
との返答。私の年代でさえ、親に子どもを預けて旅行に行くことには抵抗があるが、なんという周囲の理解がある環境にいらしたことかと羨ましくもある。 

 しかし、MKさんの話から私が得たものは、したい事があるなら定年してから・・・ではなく、少しずつでも若いうちからやっていけばいいのではないかという事。 
 定年後に夫婦で旅行など楽しもうと思っていたのに、どちらかの病気や死でかなわないかもしれないし、時間ができてやってみたものの、意外に体力が必要で断念した・・・というような話も聞く。 
 興味があることなら後回しにせず、今できることから始めて、いずれ十二分に楽しめるよう準備をしていくことが、充実した老後につながるのではないかと思うのだ。 

 日本は長寿国だが、できれば死ぬ直前まで、元気に活動していたいと思うのは、私だけではないだろう。そのために若いうちからの準備が大切と、文章教室の仲間たちから学ぶことができた。ありがたい事と思う。 
       都城文化誌「霧」86号掲載(2010年9月)          
■その後話・・・2022年5月記
 近年また、運動不足ぎみの私。なるべく自転車で移動するようにしている。生涯スポーツとして、とても楽しく取り組みやすいバウンドテニスだが、残念ながらクラブ〝ウエルネス都城〟が現在は動いていない。始動する事があれば、またやりたいと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?