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軽骨堂書店

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掌編たち。一律100円也。
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#百合

短編小説『繭糸と梔子』

短編小説『繭糸と梔子』

 天国に咲く花と言われているそうですよ。
 庭先に繁茂する梔子を一輪手折って匂いを嗅ぎながら彼女はそう言った。
「葬式の花とも言うそうで。嫁の口無し、ということで、貰い手が無くなるようで縁起が悪いらしいのです。けれど私の場合はどうなるのでしょう。あちらから来るのに、口無し、とは、これはむつかしいですわね」
 そうして、ふふ、と笑う。私はせっかく綺麗な花だと愛でていたのにそんなことを言われてあまりよ

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短編小説『レトロニムに惑う』

短編小説『レトロニムに惑う』

 黒沢楓が好きだ。長く艶やかな黒髪が、少し見上げる形でなければ目を合わせられないほどの背の高さが、いつも私と一緒に帰ってくれることが、低めながら甘い響きを持つ声が、好きだ。もうこれは、ここまで育ってしまった思いは、隠してなどおけない。だから告白することに決めた。放っておいたらダラダラと最悪な形で漏れ出してしまいそうだから、そうなる前に自分で伝えたい。
「ツナ缶よりは絶対まぐろフレークのほうが美味し

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