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ゆでたまご 【幻想詩】

春うららかな一日
街じゅうの頭の中が
ビー玉のように鳴っている
おかしなすり鉢の中に入れて
かき混ぜているみたいな音

春が煮え立つような一日
街じゅうの頭の中が
あぶらでいっぱいになる
ゆれている舟は
うえへしたへと波打って
太陽の膨らんだところから
とぷん とぷんと
あの子のスカートに忍び込んでいく
油虫が一匹

それからはもうずっと
奇妙な音が聞こえている
ベッドにころがった君のお腹の中で
ハモニカが息をしている
とても切なげに
上下に揺れながら
あたたかなものが滲みだしている

少年は息を止めて見つめている
裏返ったワニになって
天井裏からのぞいている
布団がもぞもぞと動き
白い蛇が這い出し
そのとき
教会の鐘が鳴る
じんわりとした響きが
街じゅうに染み込んでいく

あの子の頭の中が糸を吐いている
ポンポンと叩いてみると
不思議な織物を紡ぎ出している
下腹の方から生まれたゆでたまごを
少年はキュッと握りしめたまま
胸がじゅんじゅんしている

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