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視力 【詩/現代詩】

僕の視力は
標準視力なので だいたい
1.5はあります

(ほんとをいえば
 平均よりはだいぶ高い)

…はい もっと離れて
…はい もっと近づいて
…デタラメをいうのはやめなさい

夕方の視力は
ちょっとしたお化けになるので
目薬を差してみる

(この頃、眼が霞んで仕方ない。
 そんな歳なんでしょうか)

(どうなんでしょう、
 本の読みすぎではないですか)

(僕はボルヘスに憧れているのです)

〈やがて
 この世の外が見えるようになるでしょう
 そうなれば、詩人としては成功です
 死後に名前を残せます〉

〈ああ
 生きている間に、
 エスカルゴの詩を書いて、
 世間から賞賛を浴びたかった〉

眼医者の大きな睫毛が
眼医者の玄関に貼りついている
とびきりに美しい街の夕暮れを
衰えた視力で歩く
瓶底の眼鏡をしている
眼鏡屋の前で立ち止まり
思案すること半刻
眼鏡屋と眼が合った
乱歩のような眼だ
乱視が乱舞している
怖くなって 眼鏡屋から離れる
僕の目は 夢幻の街を歩く
目の前がグルグルまわり出して
あの世にいるような気分になる

(盲目の詩人になれるだろうか)

死後の目が歩いている

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