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都市計画 【自由詩】

在りし日の
ウォーターフロントは
水母なすただよい
歩くたびに
足元が溶け 進むたびに
くるぶしもとけ
半透明のマンションに
お住まいであった
都知事K(当時史上最年少)は
かねてから親交のある
建築家MT(当時史上最高のIQ )に
都市計画を丸投げした

《だが
 ツバメのように
 抜かりなく すばやく
 都市の理想をしめしたのである
 MTは》

周到な液状化対策
しなやかで丈夫な新素材
無公害エネルギー
とてもあたりまえな
そんなことよりもずっとだいじな
アメニティ
安全と安心
ソーシャル・キャピタル
MTの右腕となった木兎は
夜毎 水母なす未踏の土地を
緑色の巨眼に映しながら飛行し
かつてなき都市のかたちが
靄の中から現れる

(ようこそ
 花と緑と光の街へ
 あなたがここで手にするのは
 天上への片道切符)

一等地のワンルームに居を得たK
草原のようにさわさわしたカーペット
思わず鼻をこすりつけてしまったあと
恥ずかしさに顔を赫らめる
妙なる空調に身をふるわせながら
潜り込んだベッドは自由にかたちを変えて
どこからともなく聞こえる星のさざめき
寄せては返す波音
明日は街を散歩してみよう
そう思った瞬間に深い眠りに落ち
夢の涯まで行って神さまの助言を求めると
よみがえりの途次で
極上の珈琲の香りがする
(朝食ができましたよ ご主人さま)
少し金属質だが愛嬌のあるその声は
生きる勇気を与えてくれる

とてもよい日 太陽がいっぱい
とてもよい日 太陽がいっぱい

芳香剤を全身に染み込ませ
お散歩に出かける
中央広場では都民が体操を始めていた
(オイチ ニ サン シ)
子どもから老人まで
(オイチ ニ サン シ)
良質なコミュニティがつくられつつある
そう感じたKは
そこはかとない満足感を味わい
肩に止まったオームが
(さあ 勇気を出して)
(大丈夫かな?)
(さあ 勇気を出して 一歩前に)
ステージに上がって
(オイチ ニ サン シ)
いつになく張りのある声で
(伸ばして 曲げて 私を鏡にして動きなさい)

とてもよい日 太陽がいっぱい
とてもよい日 太陽がいっぱい

議員たちを
魔法にかけてしまえば
午後は視察の時間
公共空間は陽光にあふれ
どこにでもどこでもドアがある広場の
どこにでも通じているその先には
須弥山それとも蓬莱山
懐かしい未来か見知らない過去か
チョコレートの香りただよう湖で
遅いランチはオオハクチョウのムニエル
瑠璃のようにコロコロ鳴いている
21世紀の広大な森は
都市をあまねく浄化するマシン
生産性の向上
労働時間の短縮
ライブラリーで過ごすか
おクスリやって過ごすか
(それは教養の問題ですね 教育が大事ですね)
新交通システムに迫る
第3セクターの疑惑
(経営の効率化が必要ですね DXを進めましょう)
光よりも速い
超特急チェレンコフ
ウォーターマーケットでは
夜ごとサンゴ礁からハープが聞こえる

うら若い知事は
姉妹都市から人魚を誘致すると
支持率はウナギのぼり
天国と地獄のあわいに
水母なすただよう
アクアポリス
夢見がちなウイルスに似て
日々増殖する
桜田門外ファミリア
都市計画の新世紀
都市が私を創るのか
私が都市を創るのか
そのように問うものはもはやいない

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