オンライン留学の日常 ―普段の学習のようす 【オンラインで海外大学院に行こう! マガジン #21】
こんにちは。
岸 志帆莉です。
このマガジンでは、「オンラインで海外の大学院に行く」というテーマで定期的に情報をお届けしています。
今日は「オンライン留学の日常」をテーマにお話しします。海外の大学院の授業ってどんな感じ? オンラインでどんなふうに学習を進めていくの? どんな日々が待っているの? そんなところについてお話しします。あくまで私個人の体験ですが、ご参考になれば幸いです。
大学院のプログラム構成 ―UCL(MA Education)の場合
普段の学習についてお話しする前に、まずは私が在籍していたコースの全体像を簡単にご紹介します。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教育学修士課程(MA Education)は次のようなプログラム構成になっていました。
入学してまず最初に受けたのは「教育とはなにか?(What is Education?)」という科目でした。いきなり哲学的なテーマを扱っていきます。もちろん「教育とはなにか」という問いに対する一般的な答えはありません。自分なりの考えに至る第一歩を踏み出すことがこの授業の目的です。そのために哲学や心理学、歴史や教科学などさまざまな分野からインプットを受けていきます。さらにクラスメイトとのディスカッションを通して自分の考えを深めていくような内容でした。
授業は一週間ごとに進んでいきます。毎週月曜日にタスクが公開され、グループあるいは個人で取り組んでいきます。典型的な一週間の流れは次のとおりでした。
まずは課題図書やレクチャーから事前知識をインプットします。そのあと個人で考えを整理し、グループワークに入ります。
グループワーク
グループワークは固定のメンバーで毎週取り組んでいきます。ディスカッションやグループ発表などさまざまな課題に取り組みます。さらにグループワークでの気づきを個人でレポートにまとめます。ここまでが一週間です。
グループワークを通してメンバー同士の交流は深まります。とくにUCLでは居住地が近い人同士でグループを組んでくれるなどの配慮がありました。ある授業ではイギリス人男性2名と同じグループになったのですが、居住地が日本と韓国だったので時差がありませんでした。生活時間帯も近かったこともあり、ディスカッションはいつも活況を呈していました。ログインするとだいたいすでに掲示板上で会話がはじまっていて、仲間の集まりに参加するようなフランクな雰囲気がありました。
居住地が近いことで文化的な背景を共有しやすいこともメリットでした。たとえば東アジア地域ならではの上下関係や人との付き合い方など、その土地に暮らしてみないとわからないこともあります。日本や韓国に暮らす彼らとはそれらも説明抜きで分かりあうことができ、より深い議論に発展しました。とくに東京在住の彼は日本の高校や大学で教授経験を持つ人で、私のほうが学ばせていただくことも多々ありました。
一方、オンラインでも意見のぶつかり合いを経験することはあります。とくに時間や締め切りに対する感覚の違いにはなかなか苦労しました。
たとえばある週の課題に取り組んでいたときのこと。水曜までに各自が意見を投稿し、その後グループで議論するようにとの指示が出ていました。わたしは火曜の深夜になんとかギリギリ意見を投稿しました。しかし水曜の夜になっても他の二人からなかなか意見が上がってきません。木曜の夜になり、ようやく東京のクラスメイトから投稿が上がってきました。それを彼の意見と捉え、ディスカッションを進めようとしたときのこと。
「いや、いまのは僕の『意見』じゃない。とりあえず最初に思いついたことをランダムに述べただけ」
という反論が返ってきました。
「いやでも、締め切りは水曜日だったよね。現時点で上がってるのがこれだけだったから『意見』と捉えたんだけど」
こんな言い合いはしょっちゅうのことでした。当時はいろいろ思うこともありましたが、いま振り返ればオンラインでもこれだけ血の通ったやりとりができたことはとても貴重なことでした。
それにしてもここまで地理的に近いグループは珍しかったのか、私たちのスレッドは他と比べていつも3倍以上の長さになっていました。教育に関することはもちろん、日々の他愛もないことから時に哲学的なことまで、毎日ああだこうだと議論しました。振り返ればとてもいい思い出です。毎日職場で顔を合わせる同僚とすら、当時ここまで深い話はできていなかったかもしれません。
ピアラーニング ―互いから学び合う
クラスメイト同士で学び合う機会はグループワークだけにとどまりませんでした。UCLではクラスメイト全員の発言や提出物等がすべてコースウェア上に公開されていたので、互いの学習成果から学ぶこともたくさんありました。互いに感想を送りあい、そこからさらなる議論に発展することもありました。このような学習方法を「ピアラーニング」(仲間同士で学び合う学習)といいます。
―この人は先生の質問をそんな風に捉えたのか。面白い視点だなぁ。
―この意見は日本では許容されづらいかもしれないけど、この人の暮らす社会ではありなのかな。
それぞれの意見には文化的な背景も影響していたりして、異文化について学ぶ機会にもなりました。
さらに自分の提出物が全員に公開されるという前提がよい緊張感にもつながりました。下手なものは出せないと思うと取り組む姿勢も変わります。自分自身で甘さを自覚していたところはたいてい誰かから突っ込みが入ります。悔しい思いをすることもありましたが、それらもすべて成長にとって必要なことでした。
テキストについて
オンライン授業でもさまざまな教材を使用します。おもに学術書や論文、大学院向けテキストなどが課題図書に指定されていました。講義も毎週動画で視聴します。
課題図書はほとんど電子図書館から無料で入手できるようになっていました。公開されたらすかさずダウンロードし、スマートフォンに保存して空き時間に読み進めていました。電子図書館のメリットは膨大な蔵書に24時間いつでもアクセスできることです。UCLでは膨大な数のジャーナルやデータベースを購読しており、学生はそれらを無制限で利用できたので、文献検索はほぼリモートで完結できました。ペーパーレスなら持ち運びにも便利ですし、紛失や破損のおそれもありません。そのため普段は電子図書館を限界まで使い倒し、さらに必要な資料があったときだけ日本の図書館をあたったり自費で買い足したりしていました。
次回は試験や成績評価についてお話ししていきます。
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