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何もないこの町が好きだった。
「とにかくこの町が嫌だった。」
映画や小説でよくみる一節。生まれ育った街に嫌気がさして、その場所を離れていく人がよく使うセリフだ、とわたしは思っている。
わたしも、明日生まれ育ったこの場所を離れる。
生まれてから23年間、大切な家族と、大好きな友人がいるこの場所から、1人で離れる事にした。
けれど、決して
「とにかくこの町が嫌だった。」訳ではなく、むしろ
「とてもこの町が好きだった。」と言える。
そりゃあ、車がないとどこにも行けない。買い物に行く場所は限られている。
出かければ、大体知り合いに会うし、会った人と深く話せば、知り合いの知り合いだったりと地域の世間は狭い。
一年中天気が悪くて曇りが多いし、夏は暑くて冬は寒い。
台風でもないのに、家が揺れるほど風が強い。
魅力がないわけじゃないけど、これといってぱっとするものもない。
そんなこの町を退屈だと思ったことは何度もあった。
だけど、結局小学校、中学校、高校、大学、就職まで実家から通えるところに決めて生きてきた。
大学入学の時は、家を出ることも考えたことがあったけれど、経済的に少し厳しくて、家から通える大学にした。
就職も、結局は家から徒歩圏内の場所に決めた。
けれどやっぱり、心のどこかでは、この町から一度は出てみたいという気持ちがあって、ついに家を出る決断をした。
家族に話し、職場の上司にも話をして、だけど家も仕事も決められず、退職した3月。
ゆっくり体を休ませた4月。少しずつわたしなりのペースで前に進み続けて、トントンと仕事も家も決まった。
それまでは、未来を「決めなきゃ」という思いがたくさんあったけれど、全てが決まった今は、とにかく「寂しい」という思いが正直たくさんだ。
新しい場所には、彼もいるし、小さい頃からお世話になっている母の友人だっている。
だけど、どうしても「寂しい」気持ちを抑えきれなくて、家族と引越しの話になると目から涙がこぼれないように必死になるわたしがいる。
車がないとどこにも行けないけれど、少し走れば海も山も川もある。
近所の人からは「おかえり」と声をかけてもらえる。
曇りが多くて雨も多いけれど、虹を見れることも多い。
大好きなバンドの歌詞のように、よく晴れた空に雪が降ることだって毎年のようにある。
そんな大好きな景色をもう簡単にみることが出来ない。
保育園の1歳児の頃から、たくさん遊んでふざけてきた親友とも、
高校で出会って、会っても全く気を遣わずに甘えられる親友とも、
女手一つで、わたしをここまで産んで育ててくれた母とも、
母には話せないこと、そして誰よりもわたしの見方でいてくれた温かい祖母とも、
大好きで大切で大事な人たちと、簡単に会うことができなくなってしまうこと
それらがなんだかとてつもなく寂しい。
特に祖母と離れてしまうことがとても寂しくて心配。
最近は地震や天気災害も多いから、そういった面でも。
そして、母との関係で悩んだ時も、いつも見方でいてくれて、優しいおっとりとしたその温かさがとてもとても恋しい。
母も引っ越す予定で、この家には祖母だけになってしまう。
自転車を乗るくらいには元気だけれど、歳も歳だから。
「おかえり」と迎えてくれるその声も、時々作ってくれる郷土料理も、全てが本当に恋しい。
けれど、わたしは明日、この町を離れる。
だけど、どうかわたしの大好きな人たち、そして大好きな景色たちは、どうかどうか幸せにそのままで、元気でいてほしいと願っている。
またすぐに帰ってくるから、その時はまた、温かい声で「おかえり」と出迎えてね。
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