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【SS】泣かないと決めている。(868文字)

「バックします。ご注意ください。」
窓の外から聞こえるごみ収集車の音で目が覚めた。

よくドラマで見る朝チュンとはほど遠いな、と思う。
まあ、何もせず夜は明けたのだけれど。

もぞもぞと動き出した私をあやすように腰に回された手の動きは赤子をいつくしむときのそれで、このひとが私を恋愛対象として見ることはたぶん一生ないのだと思い知らされる。

一大決心、だったんだけどなあ。

***

昨晩、いつものようにソファに並んでテレビを見ていると、女性同士がフレンチキスをする場面が含まれる清涼飲料水のCMが流れた。

あなたはいつもはっきり意見を言う。

「私、このCM嫌い。
このCM作った人の周りにはLGBTのひと、いないんだと思う。
多様性をアピールしたいのは分かるのよ。
だって、黒人とか、アジア人とか、白人とか、あからさまに色んな人種を登場させてるでしょう。
群像劇みたいにまぜこぜにしてさ。
でも、そこに女の子同士のキスを混ぜる必要はないと思わない?
ことさら爽やかな音楽に乗せてカモフラージュしちゃってさ。
企業の理解ありますよってアピールに利用されてるみたいで気悪きぃわるい。」

あなたがまるで当事者のように話すものだから、もしかして、という淡い期待を抱いてしまった。

「今日は一緒に寝てくれませんか?」
お酒の力を借りて、最大限の勇気を振り絞って、やっと出たのはあまりにも小さな声だった。
でも、あなたはするりと私のベッドに入り込んできて、頭をなでてくれた。
いつも無駄がなくて、迷いがない。
その姿に憧れ以上の感情を抱き始めたのはいつからだっただろう。

あなたの鼓動が普通よりちょっと早い気がして、期待した。
でも、いつまでたってもただ私の頭をポン、ポン、とやさしく叩くだけで、淡い期待はしだいに小さくなって、消えた。

***

隣にいるあなたのほうを見ないようにして言う。

「わたし、来年俊也しゅんやくんと結婚するんです。」

本当に嬉しそうにお祝いの言葉をくれるあなた。
その隣で今にも泣きだしそうな私。

※サイドストーリー「【SS】心からの祝福を。」もよければご覧ください。


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