【SS】もう思い出せない(867文字)
朝。
駅のホームで電車を待っていると、ふいに後ろから懐かしい香りがした。
振り向いたが、とつぜん後ろを見た私に驚いた様子のサラリーマンと、スマホに目を落とす人たちの列が続いているだけだった。
あの香りは、古川先輩の香水だ。
2か月前、急に会社を辞めてしまって以来、先輩とは会っていない。
日々の忙しさに奔走しているうちに、彼の存在自体を忘れてしまっていた自分に驚いた。
(あんなに気になってた人だったのに。)
手に持っていたスマホをポケットにしまい、古川先輩のことを思い