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今ここにしかない景色に会いに行く

2022年9月19日(月)くもり時々雨

テントを揺らす強風で目が覚めた。台風14号は、滋賀からはまだ離れているものの、2時間後から風がさらに強まる予報になっていたので早朝6時に撤収を開始する。

日記を書く暇もない、慌ただしい三連休だった。金曜深夜、つまり土曜の午前1時に車で東京を出発し、夫と愛犬と九州を目指した。先週は一人旅に夢中でニュースもTwitterのトレンドもほぼ見ていなかったので、台風14号のことなどつゆ知らず、車を走らせながら「淡路島で一泊、高知で一泊キャンプしてから、月曜の夜に福岡に入ろうか。後半の三連休で阿蘇まで行こう」などと話し合っていた。福岡で月〜木までの宿を予約した以外は、特に何の予定も立てていないキャンプ旅だったのだ。

ところが、どうやら過去に例を見ない相当強大な台風が来るらしい、そうすると交通機関もストップしてしまうらしい、ということが道中で判明。避難も始まっているような状況で九州や四国に行けるわけがない、ということで急遽プランを変更することにした。(といっても、元々大したプランはないが)

1日目は兵庫まで進んで、瀬戸内海が望める赤穂の無料キャンプ場「丸山県民サンビーチ」で1泊。翌日は淡路島、京都、比叡山延暦寺に立ち寄りながら滋賀県に入って「マキノ高原キャンプ場」に1泊する、という道程になった。

マキノ高原キャンプ場は、予約サイトを見たところ150組ほどの予約が入っているように見えたが、行ってみると6組ぐらいしか見当たらなかった。風は、稚内森林公園キャンプ場やきじひき高原キャンプ場に行った時ほどは強くないものの、車を風除けにし、ヒルバーグのKeron4GTだけを張って備えることにした。

そんなこんなで、3連休の3日目を迎えたのである。このぐらいミニマムな設営だと、撤収も30分程度で済む。広大なキャンプ場に、ほぼ人がいないという状況だったので、撤収後は運転の練習をさせてもらった。免許を取ってから10年ぐらい運転していないピカピカのペーパードライバーだが、ついに自分も車を走らせてみたくなったのだ。ハンドル操作はほぼ問題ないが、車幅の感覚が掴めず、だいぶ右に寄ってしまう。「ブレーキは左足では踏まない! 使うのは右足だけ!」と怒られる。挙句の果てには、危うく死にかけた。キャンプ場の入り口にある駐車場で車庫入れの練習をしていたところ、前に進もうとアクセルを踏んだのにギアが「R」に入ったままで、夫が「ブレーキ!!!!!」と叫ばなければ、後ろから川に落ちていたところだった。再び運転する自信を完全に失ったが、上田のはずれに住んでいると車なしではどこにも行けないので、誰もいないところで慎重に少しずつ練習する。

そのあとは、台風から逃げるように福井、石川、富山に立ち寄って、ラーメンを食べたり食材を買ったりしながら上田に帰ってきた。上田に家を借りて、上田と東京の2拠点生活を始めてから1年しか経っていないが、長野県に入った時に「あー! 帰ってきた」という実感が持ててなんだか嬉しい。そして、単に自宅に帰る喜びだけではなく、どこかへ旅行する時のワクワク感も同時に抱けるのが、2拠点生活の面白く幸せな部分だと思う。

3日間の走行距離は1,500km。私のような運転音痴からすると、これだけ長い距離を事故なく違反なく運転できる夫は驚異でしかない。深く感謝。

6県に立ち寄った3日間、どこが一番印象に残っているか夫に聞いたところ、「比叡山延暦寺」とのこと。元々延暦寺には行く予定もなく、「京都から滋賀に移動するなら、車じゃないと行きにくいところを回ろうよ」と比叡山ドライブウェイを通ってもらっていた時に、まだ少し時間があるからと立ち寄った場所だった。30分も滞在できなかったが、ひんやりと霧煙る比叡山延暦寺は、水墨画のようで美しかった。

今ここでしか出会えない景色、を求めて旅をしているような気がする。比叡山延暦寺は、建造物の美しさはもちろんのこと、霧のたちこめる夕刻だからこその厳かな美があって、目を奪われた。

丸山県民サンビーチの夕暮れも心に残っている。穏やかな瀬戸内海。水平線上に見える島々と、ちらちらと光るいくつかの明かり。潮の匂いを含んだ、あたたかくやわらかい風が頬をなでる。

朝焼けの美しさも、言葉にしがたい。太陽が昇ったり沈んだり、そんな一日の区切りで繰り広げられる自然のショーに、いつだって心が動かされる。日の出を眺めながら活動を始めて、日の入りとともにゆっくり休みたい。それが人間のあるべきリズムなんじゃないか、と近頃強く思っている。夜を意のままに操れるようになった私たちは、こんなにも近くにある感動を見逃してしまう。

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