エレガンスお祖母様の晩酌メニュー
失恋直後の私は、あまり家に居る気になれずに、今日も今日とてファミレスに来ているのだけれど(ちなみに昼にはカフェへも行った)。
先程、ライティングの仕事をしていた時、隣のテーブルへやってきたお祖母様が印象的だったので、その話をしようかと。
そのお祖母様は、ポケモンのゲームでお屋敷の前に立っているご婦人のように豊かな白髪をなびかせて、私のテーブルの前を通り過ぎた。PCからふっと視線をあげると、グレーの花柄ワンピースがひらめいていた。
お祖母様は、半透明のプラ版で仕切られた、私の隣のテーブルへ腰をおろした。
しばらくして、ピンポンとチャイムの鳴る音がして、女性の店員が隣のテーブルにやってきて、隣からほがらかな声がした。
「ごめんなさい、これ使い方がわからなくて。」
ファミレスの注文はタブレットだったが、おそらくそのタブレットの使い方の話をしていたのだと思う。私の席からは、お祖母様にタブレットの使い方を教える女性店員の黒い頭髪だけが僅かに見える。
「ガーリックチキンステーキですね。ライスはおつけします?」
女性店員のぴちぴちとした声。
「ううん、ライスはいらないの。だってポテトがあるから」
くすくす、と愉快そうにお祖母様は笑った。
「ライスはいらないんですね」
淡々と、女性店員が応える。
私は一応、仕事をしながら聞いていたので、その時はその程度のことしか聞き取れなかったのだけれど、それから女性店員が注文を取り終えた後、再度お祖母様のもとに現れた時、その手には大きなビールジョッキがあった。
それからまた暫くして、お祖母様のもとにトレーを持った女性店員が現れた。その時ライティングに行き詰まっていた私は、手を止めたまま、隣のテーブルに耳を傾けた。
「フライの盛り合わせと、山盛りポテト、ガーリックチキンステーキですね〜」
フライの盛り合わせと山盛りポテトとガーリックチキンステーキ?!
思わず心の中で叫んだ。
私が見た感じでは、そのお祖母様の年齢は70代以降に見えた。私は自分がいつフライで胃もたれするようになるか、と今からヒヤヒヤしているというのに、そのお祖母様のもとへ運ばれたそのメニューを聞いて、驚いた。
ビールを片手に、たくさんのフライに囲まれ、ひとりナイフとフォークでチキンを起用に切って頬張る。そんなお祖母様の様子を、ライティングに頭を悩ませながら、私は想像していた。
〜〜〜〜〜〜〜
ライティングのあと、私もビールをジョッキで注文した。それから思った。
「なんだかんだ、ちょっとは彼と別れたことを寂しく思っているんだ」
と。別れてからちっとも泣いていない。彼に対してまったく強い執着はなくて、それは自分でも寂しいくらい。「あの人のこと、好きではなかったのかな」と考えてしまったりしていた。
けれど、実際に私は、屋外でいろいろな人に囲まれていたいと思うようになっているし、外でゆっくりお酒を飲んだりする頻度が増えたし、やはりちょっとは寂しいのかもしれない。
きっとこれからジムに通い始めたり、就職が決まったりすれば、自然と彼のことは忘れる。それはわかっている。でも今は、まだ、やっぱりちょっと寂しいんだ。
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