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書評:岩田温『「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義』

知性主義的な「リベラル」を求めて

今回ご紹介するのは、岩田温『「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義』という著作。

リベラルとは本来、「政治的リベラリズム」という思想的系譜から導かれる政治的立場を意味する。
それは、保守主義の立場ではカバーすることができなくなったような新たな「人権的価値」、特に社会的弱者のそれをより積極的に保護していくための政策や対策、手段の行使の重要性を訴えることを特徴とするものである。

このことからわかるように、本来保守とリベラル、就中保守に対するリベラルという立場は、対抗勢力・対立概念というよりもむしろ、保守の弱点を補完する役割を担う立場・勢力という方が正しいだろう。

他方、日本には「リベラル」を自称する、またはそう位置付けられる人達がいる。
しかし残念なことに、日本でカギ括弧「リベラル」と呼ばれる勢力は、上記の本来の意味でのリベラルとは程遠い発言・振る舞いに終始しているという悲しむべき現実がある。
それは、現実を見つめようとせず空虚な観念論に固執し、保守を攻撃ばかりしているという振る舞いだ。

こうした態度は例えば、改憲論や安全保障から、外交関係、共産主義理解、歴史認識など、幅広い政治的テーマにおいて確認される。

著者はこのような日本的「リベラル」の本質が「反知性的である」と看破する。
虚心坦懐に現実を見、それを合理的に理解しようとする姿勢・態度が、そしてそれ以上にその能力が欠如しているというのだ。

ここで、「理性」ではなく「知性」という言葉が使われていることが重要である。

「理性」とは「感性」と対をなす人間の精神作用の1つを指し示す言葉だ。
この「理性」について指摘したいのが、「理力」という言葉は一般的には使用されないという事実が意味する「理性」の特徴についてである。
これは、「理性」は訓練で磨き上げる能力ではなく、人間の本来的な精神作用であることを示唆するものとして注目すべき事実だ。

※因みにかつてドラクエ3で「理力の杖」という攻撃の際にMPを消費してダメージを与える武器があった。

対して「知性」とは。

「知性」に対しては、「知力」、すなわち「考える力」を意味する言葉が存在する。
これは、「知性」は力・能力であり、学業・学問をはじめとした各種営みを通じ、鍛え抜くことができるものであるということを示唆している。

このように考えると、著者が日本的「リベラル」を「反知性的」と糾弾する真意には、「考える力が足りない」、そしてその前提となる「知的訓練が足りない」という、政治空間において致命的な欠点を指摘しようという狙いを伺うことができるだろう。
私はこの意見に大賛成である。

知的であるとはどういうことか。
知的に世の中を理解し、今後なすべき政策・施策・手段を紡ぎ出すとはどういうことか。

こうしたことに触れてみたい、また、知的に日本の諸問題(改憲論、安全保障、経済政策、外交問題、歴史認識)と向かい合う姿の一例に触れてみたい方には、大変お勧めの著作である。

最後に、著者の今後への期待について僭越ながら。

著者は私よりも若くありながら極めて知性的な研究者だと感じられ、今後のご活躍が大変楽しみな研究者のお一人である。
ただ、本著が取り扱うテーマのような、言論界・言論空間にかかずらい過ぎてズルズルと巻き込まれることがないようにとも願っている。

社会科学という領域は、現実を捉えるためにどれだけの視座を身につけることができるかが勝負であり、その多さと組み合わせの巧みさが研究の質を左右する。

例えば、政治学から研究をスタートしたならば、その内部の様々な主張を検証し尽くすのみならず、経済学や社会学、産学(経営学)、歴史学、民俗学、教育論など、幅広い周辺科学の成果を研究に取り込んでいくことが、質の高い現実認識と将来展望を導き出すための肝要となる。
これは極めて時間のかかる研究生活となることは言うまでもない。

そういう意味では、例えば博士課程を修了して研究者としての道を歩み始めた若い段階というのは、極端に言えば1つの視座しか持ち合わせていない状態だ。
そんな状態で社会を論じれば、偏見まみれで誤りばかりの暴論しか発信できない三文コメンテーターで終わってしまうことだろう。
近年メディアで良く目にする国際政治学者を名乗る某女性コメンテーターなどがいい例だろう。
あんなポンコツを例に取らずとも、あのハイデガーやサルトルといった人文では極めて頭脳明晰な哲学者でさえ、ひとたび政治を語り出すと視座を持ち合わせないため幼稚な主張しか展開できなかっただ。

社会科学においては、自身の専門の周辺科学を学び続けなければ、力ある研究者にはなれない。
いたずらに言論界で時間を浪費することなく、著者には是非とも、研究者として大成するための研究生活を大切にしていただきたいと願ってやまない。

日本の「リベラル」理解度:★★★★★
知性主義理解度:★★★★☆
主要政治問題取り上げ度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★★

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