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私のための食堂

果てのない憂鬱なあなたの感情を無名な私が綴る言の葉 
 
 という短歌を残して消えた私は、絶望のあまり汽車に揺られて函館まで来た。昼ご飯にと思っていた店が案外繁盛しており、席が空くまで「30分待ちです」と、空腹に追い討ちをかける。まあ目的のない旅だから、急ぐほどでもないから、30分待つことにした。店は活気づいていて、老夫婦が経営している、ごく普通の海鮮のうまそうな店である。
 活気のある声が、僕のもとへ来た時はゆうに1時間は過ぎていた。まあ、美味しいものを食べられるなら、それぐらいは我慢出来る。と、ふと何気なくメニューを見たら、この店には到底似つかわしくない文字を発見した。「生首が必要な方はお申し出ください」壁には、普通ののメニューのような顔をして、平然と並んでるではないか。よく目を凝らしてみると目を疑うメニューだらけだ【イカの30枚おろし】【ブリのブリっ子によるブリのための照り焼き】【刺身盛りいわくつきオムライス】等など、上げたらきりがない。
 私は急に怖くなって店を出たくなった。身支度をして、足早に「ちょっと急用ができたので帰ります」すると女将が「ちょっと待って。」「今日とれたての生首持っていって」僕は震える体をなんとか支えながら、結構ですと、千円札をテーブルにおいて、私はその日のうちにもと居た場所に戻った。
 それから20年。
 ある日小屋の整理をしていると、見覚えのあるカバンをみつけた。それを見た瞬間、あの食堂の変わったメニューを思い出した。それは精神の崩壊だったのか、リアルだったのか、いまだ分からずにいる。そして恐る恐るカバンを開けると1枚の紙切れが出てきた。血の気が引いた。そこにはこう書いてあった。
【20XX年7月12死亡。死因は窒息死。理由はまだ解明されていない】
今日だ.....。


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