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マーゲート新道場オープン


   2週間後、マーゲートの新道場へ僕は1人で行き、早めに空手着に着替え、道場生が来るのを心待ちにしていた。オープンに先立って、道場オープンのチラシも僕とジョージで分け合い、それぞれが分担して近所の小学校に行ってチラシを配ってくれるよう受付の事務員にお願いしていた。ところが、サンドイッチ道場と違って、開始10分間になっても誰も現れなかった。確かに、夏休み期間ではあったものの夏休みもようやく終わりに近づき、子供たちも地元に戻って来ているはずなのであったが。

   開始時間5分前になろうとしていたその時だった。2人の男が、ここが空手の道場か、というような不思議そうな表情をしてそのちょっと古びた体育館に入ってきた。一人は作業着のようなユニフォームを着た、一見肉体労働者風の中年の男性で、やや頭が薄くなっていて身長は165センチくらいだが体はガッチリしている。もう一人は学生風の若い男性で、身長は180センチくらいで長髪の細身体型だった。一見、高校生のようにも見える。彼らは体育館の側面から直接入って来たので少し驚いたが、僕は嬉しかった。ここはサンドイッチとは違い、体育館へは外からも直接入れるようになっていた。そういう所もサンドイッチの施設と比べると大違いなのだった。他には、更衣室が無く、体育館の隅に卓球台などの用具類が置かれてある場所があり、それらを盾にして裏で空手着に着替えるしかなかった。また、体育館の板の間を歩くと、足に細かい砂利のようなものがまとわりついてきて気持ち悪かった。掃除も行き届いていないのだった。でも、贅沢なことは言っていられなかった。

「ハロー!」と僕は笑顔で挨拶した。

「ハロー!」と二人はほぼ同時に笑顔で返答した。すると中年の男性が、

「今日は護身術を習いたいんだが、教えてくれるかい?」とややぶっきらぼ
 うに尋ねてきた。

「普段は準備運動、基本稽古、そしてスパーリング、っていう順番で教える
 んですが、今日は特別にいいですよ」と僕は苦笑して言った。

   実際、僕はあまりそういうことはしたくなかったが、サービス精神が大切であるし、オープニングということもあるし、と自分自身を納得させた。もう一人の男の子にもそれでいいかと尋ねると、オーケーの返事が返ってきた。その後は他に誰も来ないようだったので、簡単に受付を済ませ、早速その状態で僕は護身術を教えることにした。2人とも着替えのジャージなどは持ってきていなかったのだった。取り敢えずいくつかの護身術(胸をつかまれた場合などに対する返し技)を丁寧に教えていくうちに1時間はあっという間に経ち、2人はそれぞれ満足して帰って行った。中年男性はこれでもう何があっても大丈夫、といった自信ありげな表情で道場を後にして行った。僕としてはそんな護身術だけで強くなれるわけないし、満足して欲しくはなかったが、予想通りその中年男性は2度と道場に姿を見せることはなかった。一方、若い男の子の方はライアンという名前で、この日以降も熱心に来てくれる真面目な少年だった。

   初日を終え、ジョージにそのことを伝えることにした。僕としてはオープニングで2人しか来なかったので、また不安が募ってきたからだ。しかし、サンドイッチ道場で誰も来なかった日に比べれば、そのショックは小さなものだった。ジョージも電話では、

 「2人来てくれただけでも取り敢えずは良かったんじゃないかい?」という、前向きな励ましをしてくれたので、僕も前向きになろうと思った。生徒集めには時間がかかるのは当たり前なのだから。ただ、なんとなくだが、たった2人だけの道場生でもサンドイッチの生徒の雰囲気とは少し違っていた。その理由は後でわかることになる。
(続く~)

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