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恋愛『先輩を好きになった話』


私のバイト先のひとつ上に美里みたいな先輩がいる。

先輩はバイト仲間から気難しい人として認識されていた。

私が初めてバイトで見たときの第一印象は「めっちゃ美里じゃん」だった。

ちなみに美里とは私の実家の近所に住む同級生の女の子である。

先輩は容姿の問題もそうだが、性格が美里に似ているのだ。

とても親近感が湧いて、どうにかして話がしたいと思っていた。

しかし、色々試行錯誤したもののシャイな私は自分から話し出すことができなかった。

先輩だけというよりバイト仲間と話すことさえも怖くてためらっていた。

会話をすると言ったら業務連絡ぐらいでなんともつまらないものだった。



そうして3ヶ月ほど過ぎ、ある転機が訪れる。

店長が退職し、新しい店長がやってきたのだ。

新しい店長はコミュ力が高いのか、遠慮がないのか私の心理的プライベート空間に土足で入り込んで来るような人だった。

初めの頃は話をしていて、話すことが億劫に感じていたが、だんだん私も別に遠慮せずに言ってもいいかという思考になり、今はお互い言いやすい関係を築けている。

なんなら今は一番仲がいい。

 下が上に言いやすい環境を作ることは上の者にとって非常に大切な要素である。

なぜなら、言いにくい空間を作ることは下は失敗を隠し大きな失敗につながるからだ。

その新しい店長がきてからこの店の雰囲気は変わることになる。


 店長の持ち前の明るさが私に影響したのか、一ヶ月二ヶ月と月日がたつにつれ口数が増え、いろんな人と話すようになり私は職場にいることが楽しくなった。

人と話せるようになるでけで幸福度が高まる私の幸せは結構コスパがいいのかもしれない。

あるとき、店長が先輩に話しかける。

私はナイスゥ!と言わんばかりにその空間に近づいた。

店長ならなにか私達がつながる会話を出してくれるのではないのかと思ったのだ。

案の定、店長はいつものように話題を振って私達に話を持ちかけた。

そう。私は店長の話題振りの流れに乗じ、ついに先輩と話すことができたのだった。

この間、実に約4ヶ月である。

先輩がコミュ障であることと私もコミュ障であることも折り重なっての結果である。

コミュ障同士の会話をするまでの期間は掛け算である。

コミュ障であるほど会話するまでの期間は季節を跨ぐほどに長い。

関数のグラフを用いたら図表なんてものはとうに壁を突き抜けてるだろう。

さらに、問題はそれだけではない。

ずっと同じ空間で無言で居続けた私たちは「今更何話せばいいんだ」という話である。

そうなってくるとお互いが話せるきっかけなど自分からは生み出せない。何なら今まで話さなかったものだから気まずさすらででくる。

コミュ障同士をつなぐには他者の手助けが必要なのである。


さて、これを機に私は先輩と仲良くなることになる。

冗談ながら失敗した料理を押し付けてみたり、先輩をいじるようになったりと


てあれ?私ひどいことばっかしてないか?


いやいや、先輩も大概である。


私は背が低いから上の棚の荷物が届かない。


先輩に取って欲しいとお願いしたら取れないの〜?とニヤニヤしながらいってくる。

私は数少ない口数を私に対し発してくれることの嬉しさと、笑顔を見たことで何も言えなくなるのである。




身長にコンプレックスはある。



人生を重ねるにつれ、当時の好きな人に

「身長があったらよかったのにね」と毎回言われ続けてきたものだから自信を失うには十分な重みがあるだろう。

言葉のミルフィーユと言わんばかりに何層も同じ言葉が重なって行く様を経験していく私の立場に立たされた時、誰が落ち込まないと言えるだろうか?

私の自信を失わせる大きな要因として心の鎖を引っ張るのは同情して欲しい。

みなさんもぜひ想像してほしい。

身長にせよ顔にせよ自分のコンプレックスを好きな人から指摘された時を。

恐らく心に深い傷を負うに違いない。

ひとつの大きな劣等感というものはひと括りでつなぎ置いておくには事足りず、たくさんの鎖でつないで置かなければ私のコンプレックスの釣り合いは保たれず、そこから連鎖していくように自分の嫌なところを見つけ、生み出され、そして増えていく。

憂鬱に苛まれる人は、沢山の苦しみが覆い重なるのではなく親元の苦しみが強すぎて複数に見えるだけであり、一つの根本的な苦しみが原因ではないかとすら考えてしまう。



しかしまぁ、

それぐらい悩み続けていたものではあったけれど

いまはこうして先輩と話すきっかけができるから嬉しいと思えるようになった。




先輩はきれいな人である。

美里に似ているから当然だ。

そして先輩は頭もいい。

物理が好きで数字にめっぽう強い。

私はもっと近づくために色んな知識を蓄えようとさらにたくさんの本を読み始める。

今までに比べ、人生をより深く。加速せんとばかりのペースで本を読み始める。

全ては色んな引き出しを用意して楽しませるためである。

先輩はときおり家族に大切に育てられたのだろうという情景が映る笑顔をみせる。

私はその顔が好きだから笑わしてやりたくなり、毎日いろんな事を考えている。

そんなやりとりばかりを考えている頃、先輩の誕生日がきた。

私はこの機を逃さまいと、お祝いのメッセージをもとにLINEのやり取りを始めることにした。

するとどうしたものか、

やり取りをしていくとイカれた会話が続くでわないか。

はじめは機械の故障か公安特務課に所属し、デビルハンターをしているものと思っていたがやりとりを続けていくと、どうやらそうではないらしい。

そのいかれた文面に先輩の素を感じ、そこから先輩に好意を抱くようになる。

私はイカれた部分を隠して生きるような人が好きだと気づく。



私はもっと話したくなった。





クリスマスの日、私と先輩は一緒にアルバイトをしていた。

ちなみに、私たちは居酒屋のアルバイトをしている。


クリスマスは、人が来るものと思っていたが、居酒屋はそうではないらしい。

あまりにも人が来ず、時間を持て余した私達は店長の粋な計らいで先輩と一緒に休憩に入ることとなり、まかないをたべることとなる。

先輩は僕がここで働いてからバイト仲間と食事をする風景を見たことがない。

バイトを上がるとすぐ帰宅が今までみてきた先輩の姿である。

必然と私は優越感に浸ることとなる。

そこで私は先輩の恋愛話を切り出すことにした。

すると、私も先輩も同様の経験を重ね、恋愛に対し恐怖を持っていた。


そこで私の感情に一つ疑問が生じた。

私の好意は同類愛なのでわないかという点である。

男女の愛とは変わり、
類似による自分の投影を先輩に重ねることで惹かれたのかも知れない。

そんな事を考えながらも、やはり先輩が誰かと生きていくことを想像したらと

もやもやを抱えながら過ごすことになる。


私は先輩を一番楽しませることに置いては自信がある。なんなら私以外に先輩の笑顔を引き出せるやつなんかいるのか?とすら思う程である。

だが、他に自信を持つものを持ち合わせていない。

では、後天的に伸ばせるものは何かと必然的な問いに至る。

それは学歴である。

学歴があれば選択肢は増える。可能性が増える。

それは何も私の人生においての話だけではない。

私が進学して、より濃密な知識を持つことは巡って先輩を楽しませる選択肢が増えることをも意味している。

その日、私は大学院に行くことを決意した。

誰かに譲りたくなかったのだ。他の何を捨てても

そのとき、

人は誰かに見合う人になりたくて行動するものだと知った。


先輩はもうじきいなくなる。

恋愛はタイミングと言うが本当にそうだ。

私はもっと早く先輩に出会いたかった。


私は恋愛は諦めている。
というより怖いだけなのだが

いまさらと自分から何かアクションを起こすような真似はしないだろう。




朝、カーテンの隙間から光が差し込む。瞼が私の目を引っ張る。

朧気な表情で卓上のマグカップを手に取った。

先輩との情景に目を見やり、1杯の冷えきったコーヒーを飲んだ。






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