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過去と向き合う。 先生と私。

辛いがちゃんと思い出してみようか
5歳のあの日何をされたのかはよく分からないが出血していたと言うことはそういう事だろう。
あの人の死があり大人達に色々聞かれても何も喋れなかった。
怖かった。何をどう話していいのか分からずただ怖かった。



それから父と母の口論が続くようになり、耐えきれなくなった父は帰ってこなくなった。
ただ必ず毎日電話をくれていたから電話の前で待っていたのを覚えている。
父が出て行ったのは小学5年の時だがその電話は中学3年まで続いた。電話越しから聞こえてくる父の声は優しかったがどこか寂しそうで。電話を切った後、いつも何とも言えない感情に包まれていたが、猫達に救われていた。動物は愛情を注げば裏切らない。



だからか、小学生の頃にずっと飼育係をしてたのは。時系列や文章が支離滅裂になるがこれは日記だ。大丈夫。



田舎の小学校で私達の世代は今とは全く違うし、先生が家に送ってくれる事は度々あった。
引越した先は1学年1クラスしかなく先生も変わらない。

いつも通り、放課後飼育小屋の片付けをし、ニワトリやうさぎと触れ合ってた時、先生がきた。

「今日も頑張ってるなー」と。先生は学校の中でも1番若くいわいるイケメンで身長も高い。
先生でもあるがどこかお兄さん的存在で皆に好かれていた。

大人が大嫌いだったがその先生だけには心を開けて無邪気な子供でいれた。


「遅くなるし送って行くから車にのれ」といつものように言われ、走って車に乗った。
いつも後部座席に座って先生が水筒の麦茶をくれる。それを飲みながら喋るその時間が大好きだった。


けどその日は突然訪れた。
いつも通り麦茶を飲んで暫くしたら眠くてたまらなくなり意識を失った。
その時既に栄養失調だったのだ。身体は限界にきていたのかもしれない。
私が目を覚ました場所は家の前ではなかった。
車の中でもない。部屋だった。ソファーに寝かせられ先生はコーヒーを飲んでいた。


「ここどこ?」と寝ぼけながら起き上がった。
「起きたか?あやみが起きないから困ったよ」


いつもの笑顔だ。「ここは先生の部屋。ちゃんと送って帰るからまだ眠かったら寝てていいぞ。お家には連絡しといたから」と話しながら先生は冷蔵庫をあけオレンジジュースをコップに注ぎ出した。

家に連絡?あの母に何を言われるか分からない。けどあの母のいる家に帰りたくない。でも…。まだ若干眠い感覚のまま色々頭をよぎり、数分黙り込んでしまっていた。


「どうした?ほら、ジュース」とコップを渡されたが飲む気になれない。

すると先生は隣に座ってきた。別に驚きはしなかった。「なんかあったか?」と聞かれ…私は迷った。信頼している大人とはいえ、母の事を喋っていいのか。これでまた裏切られたら。母に何をされるか分からない。どうしよう…

黙って考えてたら、大きな温かい手が頭を撫でてくれていた。学校でよくワシャワシャっとされる事はあったがそれとは違う。

驚いて先生の方を見上げたら、優しい顔をしていた。
なぜかポロポロ泣いてしまった。

「どうした?えっ?」慌てる先生に、自然と笑いが出てしまった。
「なんだよー、もう。泣いたり笑ったりお前おかしいぞ」という言葉の後に「あやみさ、ちゃんと食べてるのか?」と突然真面目になった。


私は黙って頷く。「そうか…」それだけ言うと立ち上がって「なんか食べたいもんあるか!?」と勢いよく言われ、思わず「カレー!!」と言ってしまい、あっと口を閉じた。「カレーかー、材料あるっけなー?」

冷蔵庫を開けガサガサ探している。独り言をブツブツ言っている。かけてくれてたタオルケットは先生の匂いがする。それに包まりながらウロウロしている姿をずっと眺めていた。

「信じれる大人がいる」と。



「いただきます!」

お腹がペコペコだったからついガツガツ食べてしまったが、むせてしまった。

「あはは!辛いだろー!それな給食のカレーとは全然違うんぞ!」

先生もカレーをほうばりながら笑っていた。

こんな明るい食事はいつぶりだろう。また泣きそうになったから「辛くないっ!」と言って辛いカレーをほうばった。
辛かったけど凄く美味しくて凄く嬉しかったんだ。

おかわり!と言ったら一瞬驚いた顔をしてたがすぐにまたいつもの笑顔になって黙ってよそおってくれた。

後片付けを一緒にしてまたソファーに寝転がった。
うちにはソファーは無かったからふかふかしていて気持ちよかったし、何より怒鳴られる恐怖心がないからか安心できていた。

「さて!そろそろ送っていくか!」

恐れていた言葉がきた。帰りたくない。ずっとここにいたい。
あの時そう思ったことは強烈に覚えている。

「あやみさ、」
「うん」
「なんかあるんやったら先生に言えよ」
「うん」
「もし言えないなら手紙でもいいし、ほら、毎日だす日記帳に書いてもいいしな」


日記帳……そんなんに書いたらいつバレるか分からない。


「なんもない」と答えてしまっていた。

「そうか」先生から笑顔が消えた。
それを見て先生に迷惑をかけちゃいけないと思いランドセルをからおうとしたら、サッと持ってくれた。

そしてしゃがんで目線を合わせてくれ「今日の事は内緒だぞ?みんなが先生の家にカレー食べにきたら大変だからなー」と、また頭を撫でてくれた。

自分でも分からない。とっさに抱きついてしまっていた。
「おいおい、どうした」
先生が困っているのは分かっている。けど離れられない。だって涙がこぼれてたから。


何も言わない私、泣いている私を察したのか…暫くそのままでいてくれ…そして先生の片腕が私の体を包み込んでくれた。黙って頭を撫でながら。


帰りの車の中はシーンとしていた。

私はただただ外を見ていた。ここはどこだろう。家は遠いとは聞いてたけど全く知らない道だらけ。
けど夜のドライブみたいで沈黙の中でも楽しかった。

帰宅したのは21時を回っていて、出迎えた母に対して先生は謝りながら色々話していたが、私は直ぐに子供部屋に逃げ込んだ。
「おいっ」という先生に「また明日!」と言いながら。

その日の母は何も言ってこず、久しぶりに安眠できた。

あの日のカレーの見た目の悪さ、愛情ある味は忘れられない。

あの日は。


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