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もちろんカネに糸目をつけなければ話は別だったのだろうが、深圳では欲しいと思う服が皆無だった。
「さすがに香港であれば」
と思ったその旅行先の香港でも、サイズはともかくデザインの点で買う気がせず、けっきょく滞在中は手持ちの衣服で乗り切るしかなかった。

さらに、中国の洗濯機は力がすさまじく、Tシャツたちはネットに入れても蹂躙されてヨレてしまい、主力パンツたちはすべて前止めのボタンが引きちぎられてしまった。裁縫道具も気力も無かった私はそれをベルトでごまかして履いていたのだが、不格好さはごまかしきれなかった。

まあ、厄年野郎のファッションなど誰も気にしないのだろうが、やはり自分の気分がよろしくなかった。

だから日本で買いなおしを図り、ボカスカボカスカと買いまくった。帰国して最初にしたことは、重いスーツケース2個を引きずりながら秋葉原のユニクロで黒の綿パンツを5本まとめ買いしたことだ。日本国内でもWeChatペイが使えるか試してみたところ(わたしは『外国人』だから使えなかった)、店員さんから「ものすごく日本語がお上手ですね!」とほめられてしまった。

ともかく私は買いまくった。

物持ちが良い+貧乏性+流浪の身なので荷物は少ないほうが良い=次にいつ買えるかわからないし、それにどうせ長く用いるから、しっかりした作りで気に入ったものを買う。

というわけで、さすがに値札を見ずにとはいかないが、基本的に欲しいと思って納得がいったものについては買うという方向性で突き進んだ。

そうしてカードの請求額がなかなか爽やかなことになった先日の酷暑のおり——

立ち上げていたパソコンに、『夏物処分バーゲン絶賛開催中!』的な煽り文句が浮かんだ。

そうするべきではないと頭ではわかりつつ、マウスをクリックする右手を止められなかった。

飛んだ先のウェブサイトでは、私がほぼ定価で買ったTシャツたちが20~80%OFFで売られていた。

サマージャケットのコーナーに進む前に、かろうじて私はネットを遮断できた。

実に厄年の服買いであり…いや、本当のことを言おう。
私は心底から嫌な気分になり、ベッドに大の字になった。

で、思った。

円=USドルの両替時期をミスるとか、投資で失敗するなどしたら、こんなものではなく嫌な気分になるのだろう。

また、こう痛感した。

需要と供給がどうしたこうしたとはいえ、「服」という実体がある物でさえ定価というやつは有って無いようなものなのだ。では、その実体さえもなければ(中略)GhostGoldではないか。


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