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社会起業家と政策起業家 〜社会変革の主体とは?〜


SDGsやESGが注目されるなど、ビジネスの世界においても『ソーシャル(=社会課題)』とどのように向き合うかが議論されるようになってきました。東北で社会起業家の育成支援を行うINTILAQ(運営:一般社団法人IMPACT Foundation Japan)において『ソーシャル』に触れてきた経験を踏まえながら、近年、目にすることが増えてきた"社会起業家"と"政策起業家"の2つの主体から社会課題解決に向かう主体のあり方を考えてみます。


1. なぜ、今、『ソーシャル』なのか

1-1. 全国の潮流

日本の総人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じ、以来年々人口減少が進んできています。(今から、約30年後の2050年には1億192万人、約40年後の2060年には9,284万人と予測。(内閣府:令和3年版少子化社会対策白書))

社会全体としての人口減少社会の影響は、単に人口が減るだけではありません。

<行 政>
生産年齢人口減や地域経済衰退による税収減とそれに伴うサービスの低下。

<民 間>
地域経済衰退(不採算化)による事業整理(統廃合)とそれに伴う民間サービスの低下。

<地 域>
担い手の減少による地域コミュニティの衰退。

などなど。
行政・民間・地域とさまざまな社会セクターにおいて影響が生じてきています。

「公助(行政)」、「共助(地域)」の力が弱まるとともに、地域経済の担い手である「民間の力」が弱まることで、必然的に「自助(個人)」が負わなくてはならない部分が増える時代情勢にあるのだといえます。

この現状の中、「マイノリティ領域」「地域の困りごと領域」の2領域における課題が顕在化してきています。

▷社会全体として当事者が少ない「マイノリティ領域」
(例:障がい者、外国人、LGBTQ+)

▷市場規模が小さい&地域性の考慮が必要な「地域の困りごと領域」
(例:交通、商店街、空き家)

SDGs・ESGなど世界的な潮流も相俟って、社会共通の問題として各種の地域・社会課題を包括するワードとして『ソーシャル』に焦点が当てられるようになってきたというのが、『ソーシャル』を取り巻く全国の潮流といえそうです。


1-2. 東北の潮流

このような、全国の潮流がある中での、東北の潮流についても見ていきます。

2011年3月に東日本を襲った「東日本大震災」。
この震災によって、多くの尊い命が失われ、社会システムが壊滅的なダメージを受けました。

震災からの復旧⇨復興に際しては、国内・国外のさまざまなリソース(人的・資金的)が東北に集まりました。

そして、この状況下、"地域のため・社会のため"と『ソーシャル』の文脈での多くのチャレンジが生まれてきました。"地域のため・社会のため"という思考性は、震災直後の一過性のムーブメントで終わることなく、その後も生き続け、昨今のコロナ禍においても、『ソーシャル』の文脈での新しいチャレンジが生まれてきています。

震災以前においても、人口減少や地域経済の縮小などの社会課題が存在していたものの、多くの人の意識の面では潜在化しており、震災を契機とした大きな揺らぎの中で顕在化してきたというのが、『ソーシャル』を取り巻く東北の潮流といえそうです。


2. 「社会起業家」とは /「政策起業家」とは

全国、そして、東北における『ソーシャル(=社会課題)』に係る潮流について考察してきました。

前章でも触れてきましたが、社会的な議論として『ソーシャル』が命題となり盛り上がったというのみならず、『ソーシャル』の文脈でのさまざまなチャレンジが生まれてきました。

このチャレンジの主体として、近年注目が集まるワードに「社会起業家」と「政策起業家」があります。「社会起業家」と「政策起業家」とはどのような主体なのでしょうか。本章では、両者の日本における定義について、見ていきます。


2-1. 「社会起業家」とは

ソーシャルビジネスは、社会的課題を解決するために、ビジネスの手法を用いて取り組 むものであり、そのためには新しいビジネス手法を考案し、適用していくことが必要である。このため、本研究会では、以下の①〜③の要件を満たす主体を、ソーシャルビジネスとして捉える。なお、組織形態としては、株式会社、NPO 法人、中間法人など、多様なスタイルが想定される。

*****

① 社会性
現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
*解決すべき社会的課題の内容により、活動範囲に地域性が生じる場合もあるが、地域性の有無はソーシャルビジネスの基準には含めない。

② 事業性
①のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。

③ 革新性
新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出 すること。

*****

*ここでは、このソーシャルビジネスを行う主体を「社会起業家」と定義します。

出典:経済産業省(ソーシャルビジネス研究会報告書、2008年)


2-2. 「政策起業家」とは

「政策起業家」とは、

1. 社会課題等の解決手段となる特定政策を実現するために、情熱・時間・資金・人脈、そして革新的なアイデアと専門性といった自らの資源を注ぎ込み、

2. 多様な利害関心層の議論を主宰し、その力や利害を糾合することで、

3. 当該政策の実現に対し影響力を与える意思を持つ個人(または集団)

出典:政策起業家プラットフォームPEP HP(https://peplatform.org/point/)


「社会起業家」「政策起業家」についての定義について、見てきました。
どちらの主体においても共通しているのは「社会課題の解決を目指しアクションをする主体」であるということです。その上で、「社会起業家」は、ビジネスの面からアクションをする主体「政策起業家」は、政策(実現)の面からアクションをする主体と定義づけをして話を進めていきます。


3. 書籍からみる、「社会起業家」と「政策起業家」

「社会課題の解決」という共通目標に向け、アクションする「社会起業家」と「政策起業家」。それぞれの主体に係る書籍から、理解を深めていこうと思います。
*「社会起業家」は「東北」に絞って見ていきます。

4冊の書籍から、「社会起業家」と「政策起業家」の存在を読み解いてきました。

ここから見えてきたことは、「社会起業家」と「政策起業家」は異なる主体であるように見えながらもAかつBの領域があることです。さらには、地域・社会の課題解決に向けてのアプローチは、必ずしも、行政・政治が担うものではなく、「普通のあなた」が、「社会起業家」と「政策起業家」として、もしくは彼らを支えるサポーターとして担う可能性が大いにあるのだということです。


4. 実例からみる、社会起業家と政策起業家

「社会課題の解決」という共通目標に向け、アクションする「社会起業家」と「政策起業家」。それぞれの主体に係る実際の取り組み事例から、理解を深めていくべく、下記、4者の取り組みをご紹介します。

<社会起業家>
(世界)ムハマド・ユヌス氏(グラミン銀行創設者)
(日本)川口加奈氏(認定NPO法人Homedoor 理事長)
(東北)SOCIAL INNOVATION Accelerator 卒業生 4者

<政策起業家>
(世界)ケン・リビングストン氏(元ロンドン市長)
(日本)駒崎弘樹氏(NPO法人フローレンス代表理事)


5. 社会課題を解決する! 〜社会起業家輩出に向けた取り組み〜

本章では、社会課題を解決する主体をいかに育んでいくかという点について、行政・支援組織の取り組みから見ていきたいと思います。

その取り組みとして、神尾が参画する、東北の社会起業家育成・支援を行う中間支援組織「一般社団法人 IMPACT Foundation Japan(以下、「INTILAQ」)」の実例をご紹介します。


5-1. 一般社団法人 IMPACT Foundation Japan(INTILAQ)について

一般社団法人 IMPACT Foundation Japan は、次世代グローバルリーダーの育成を目指し、2010年に設立された法人です。これまでに TEDxTokyo や H-Lab のような革新的なプログラムの企画、運営を展開してきました。

東日本大震災後の2013年カタール国の基金「カタールフレンド基金」より、起業家支援プロジェクト「INTILAQ」への支援を受け、東北地方の沿岸被災3県(宮城、岩手、福島)にて、「Catalyze the venture ecosystem」、つまり新しいビジネスやサービスが生まれ育って行くエコシステムを創造することを目標に、その「場」となる「INTILAQ東北イノベーションセンター」の運営と、「コンテンツ」となる様々なイベント、ワークショップ、メンタリングサービスなどの企画・提供を行なってきました。現在では、東北地方に活動の領域を広げ、様々な行政機関や金融機関、中間支援組織などと連携・協働しながら、社会起業家の育成・支援に係る各種プログラムの企画・運営や、次世代起業人材育成に係るアントレプレナーシップ教育プログラムを小中高大生を対象に実施しています。

INTILAQ web:https://intilaq.jp


5-2. 東北社会起業家育成プログラム「TOHOKU SOCIAL INNOVATION Accelerator」

東北において社会課題解決に取り組む社会起業家の育成を行うことを目的に、仙台市とINTILAQが2017年から実施するアクセラレータープログラム(以下、「SIA」)です。(主催:仙台市、企画・運営:INTILAQ)

引用:https://www.social-ignition.net/sia

これまでに60者を超える社会起業家を輩出してきており、彼らの活動領域は、1次産業・教育・医療介護福祉などと多岐に渡ります。

SIAでは、下記のようにその内容を説明しています。

SIAは、社会を少しでも良くしていきたいというあなたの想いを、Vision/Missionという形で言語化し、メンターが伴走しながら持続可能な形で事業計画に落とし込み、各事業計画の実現可能性を高めていくプログラムです。

引用:https://www.social-ignition.net/sia

そして、SIAは、単体の取り組みではなく、仙台市をハブに社会起業家が持続的に生まれ育つエコシステム創出に向けた大きな取り組み(SOCIAL IGNITION事業)の中の1つの施策として行われているという特徴もあります。SOCIAL IGNITION事業では、このほか、次世代起業家人材育成のための小中高校生向け起業体験ワークショップや、大学生向けアントレプレナーシップ醸成プログラム「Social Innovation Accelerator College(SIAC)」。社会人潜在層に向けた、各種イベントの開催。SIA卒業生をはじめ東北の社会起業家と首都圏人材とのプロボノマッチング事業の実施。などを実施しています。


6. 社会変革の主体とは

ここまで、社会課題を解決する主体として、「社会起業家」と「政策起業家」を取り上げ、両者を取り巻く社会の潮流や定義、これまでの学問議論、実例(主体&支援者)を見てきました。

本章では、『社会変革の主体とは?』との問いに立ち帰り、考察をしていきたいと思います。

『社会変革の主体とは?』との問いに対する答えは、

私たち1人1人がその主体である

に帰結するというのが神尾の現在の考えです。

「社会起業家」と「政策起業家」。いずれの主体も最初から、社会課題解決に向けて動いてきたというわけではなく、1人の社会人として社会を生きる中で、社会課題に触れ、それがきっかけとなり行動をはじめ「社会起業家」と「政策起業家」となってきたわけです。

そして、「社会起業家」と「政策起業家」。彼らだけでは社会課題解決は成し得ないのだという点も重要な点です。彼らの行動に対して、共感をし、プロボノ・寄付・ネットワーキング等様々な形で協力をする個人・企業の協力者の存在はなくてはならないものです。
*こうした議論をする際に「社会起業家を育て、社会課題を解決していくことが日本社会を良くする唯一の方策だ」などある種の信仰が生まれてしまうことがあるように感じますが、それは、注意しなくてはいけません。自戒をこめて。


ー「ソーシャル」に係る業界も2年目に突入。
これからも地域・社会のあり方を思考し続けます。ー


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