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業歴130年の調査機関で働くリサーチャーが伝えたいこと

◆それ、調査ではありません

 意思決定をする様々な場面で、どの程度の情報を集めて判断していますか?ググって終わりにしていませんか?断片的な情報だけしか集まらず「エイヤッ」と勘・経験・度胸(いわゆるKKD)で決めてしまった経験はないでしょうか。

 あらゆる意思決定の前に存在し身近であるはずの調査ですが、不十分な調査、やったつもりの“なんちゃって”調査しかしていないケースが多いのではないでしょうか。Googleで検索して、検索結果のうち、情報がありそうなサイトにアクセスして戻り、別のサイトにアクセスしては戻りを繰り返して、10ページ程度でタイムオーバー。精根尽きて「調べられるのはこんなものか」とリサーチを終える。このような調査は残念というしかありません。

 調査のプロは、いきなりググることはせず、目的や定義を明確にし、調査課題と仮説を整理し、詳細な項目に落とし込んで初めて、調査に着手します。情報源に直接アクセスし、最短距離で情報をつかみます。ネットなどの文献調査で情報が得られなければ、ヒアリングやアンケートにも取り組むことで、真実に近づいていきます。

◆正しく調査を行うことがなぜ重要なのか

 正しく調査を行うことがなぜ重要なのでしょうか?調査方法がまずいと、極端に少ない情報にとどまってしまったり、誤った情報を集めてしまいかねません。真実を知らずに、誤った情報をもとに判断すれば、意思決定の失敗、中途半場な質の低い意思決定、必要な意思決定が先送りされ機会を逃すことに繋がります。例えば、M&Aで高値掴みをしてしまう、顧客のニーズに合わない商品を提供する、安すぎる価格で利益率を下げる、時機をとらえた参入ができず利幅の低い案件しか取得できない、などは正しく調査を行わなかったことによる失敗といえるでしょう。

 調査によって得た情報は、意思決定やその後の活動の土台となるものです。その調査が中途半端で十分な情報がなければ、土台がぐらついており、自信をもった意思決定や、先手を打つような大胆な行動に出れるはずはありません。

 様々な現場で、不十分な調査による情報不足が、無為無策の経営やビジネス機会の逸失をもたらしているのではないでしょうか。そのことが企業や個人にとって成長や競争力向上の阻害要因の一つになっているのではないか、と私は思っています。

 なぜ正しい調査ができていないのでしょうか?「話しベタ」や「聞きベタ」があるように、調査にも「調査ベタ」の人は少なくありません。ただ、考えてみると、私たちは当たり前のように調べることはしていますが、小学校での調べ学習の後は、高等教育や社員研修で調査を教えられたことはありません。上司や先輩からアドバイスを受けることはあっても断片的でしかありません。「なんちゃって調査」が多いのは、あくまで自己流であるためであり、調査の仕方を知らないのですから、無理もありません。

◆こんな人に伝えたい

 正しく調査を行い十分な情報を得たい人や、調べることに苦労した経験を持つ人に伝えていきたいと考えています。調査は、仕事や生活のなかにある様々な意思決定の前に必ず行われます。その意味では、広い読者を対象となりえますが、主に仕事において調査が必要なケースの多い方を想定しています。

 例えば「この商品は国内でどれぐらい売れているのか」を知りたい商品企画やマーケティング担当者の方、「この市場は今後成長するのか」を見通したい経営者や経営企画の方、「住民や企業の意識やニーズ」を調べて政策を検討する行政機関の方、上司から「これを調べて」と指示された若手社員の方、「この会社大丈夫だろうか」と心配している就職活動中の方、などを想定しています。

◆noteを書く意義

 世の中には、マーケティングリサーチの教本、株式投資のリサーチ本、学問としての社会調査の教科書は多く存在しますが、様々な場面で必要とされる汎用的なリサーチのスキルを正面から捉えている本はほとんど見られません。また、意思決定までに、仮説→調査→解釈・分析というプロセスを経ます。仮説はコンサルタントのスキルを紹介した「仮説思考」、解釈は「FACTFULLNESS」、分析は「統計が最強の学問である」がいずれもベストセラーになりました。しかし、中間にある調査にフォーカスした本はほとんどありません。

 昨今は統計やデータ分析といったスキルが花盛りですが、そもそも手元に十分なデータがあるケースは多くないため、そのスキルを活かす機会が少ないのが実情でしょう。むしろ、データを収集し真実を探索することが必要な場面は頻繁に発生します。事実を明らかするための調査スキルこそ、データ分析以上に身近であり、不確実性の高い現代において求められているスキルなのではないでしょうか。

 私が所属している調査機関は、130年という長い年月で培ったリサーチ技術を活かし、分野や手法を限定せずに様々な調査を行ってきました。ここで20年の経験を有するリサーチの専門家が、自らの実務を通じて得た知見を多くの人に伝えることで、「なんちゃって調査」ではなく、「正しい調査」が行われることを願って筆を取りました。

◆筆者のプロフィール

 1999年日本最古の民間調査機関に入社。市場調査部に配属、民間・官公庁から様々な調査依頼を受けて、取材、アンケート調査、データ分析に、年間約100件、10年間従事する。その間、慶應義塾大学大学院経営管理研究科にて経営学を学び2011年MBAを取得。2012年経営企画室課長。調査の経験と経営学の知見を活かし、5年間、経営者の意思決定の現場を経験。2015年市場調査部部長。年間約2,000件の調査案件を差配。事業は毎年16%の成長を続け、5年間で売上高は3倍となる。2019 年よりデータ分析事業を開始。リサーチやデータ分析の力を広く社会に認知してもらい、多くの人に知識やスキルを身に着けてもらうための活動に取り組んでいます!

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