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中学生を理解する2

闘争か逃走か

 「闘争か逃走か反応」とは、外敵に襲われるような緊急事態が起きたときの生理的・心理的な反応を意味する。動物は非常事態になると、命を守るために戦うか逃げるかによって生き残ろうとする。例えば、暴力を受けそうになった時、災害にあったとき、自尊心を傷つけられるとき、わたしたちの体のシステムは戦う準備、もしくは逃げるための準備をする。血圧・心拍数を上げ、呼吸を早くし、筋肉に力をいれて、早く走ったり、敵の攻撃に備える機能を向上させ、より多くの情報を得るために瞳孔を広げる。
 反対に、感情をコントロールして理性的な言動を保ったり、論理的に思考を整理したり、想像力を働かせてアイディアを出したりする「脳の司令塔」である前頭葉の働きは数時間にわたって抑えられる。
 つまり、人が感情的になっているときは、体に非常事態アラートが発令されているので、しばらくの間は、理性的な言動ができない、論理的に考えることができない状態になっている。そして、これらの体験は大きく情動を揺さぶられるので長く記憶にとどめられることになる。恐怖体験がトラウマになるのはこのためである。
 また、人の脳は現実と仮想を区別することができないので、誰かの体験を目撃しても、映像をとおして体験しても同じようにドキドキ・ハラハラして呼吸が荒くなったり、体に力が入ったり、手に汗を握るのである。映画を見たときに起きる体の反応を思い出すと分かりやすいのではないだろうか。

トラブルを起こした子に向き合う

 トラブルを起こして闘争か逃走か反応が起きている場合、まずは落ち着いてもらう必要がある。どのように声をかけ、近づいて「敵」と認知させない状況をつくるか考えていく。

①角度・距離
 やってはいけないことは、背後から生徒のパーソナルエリアに入ることである。相手に脅威を与えるこの行為は、更なる闘争反応、逃走反応を引き起こす。
 まずは、生徒の視界に入る角度から、生徒の表情や反応を見ながら徐々に近づいていく。他の生徒や先生への暴力行為や生徒自身の自傷行為を止めるといった緊急事態を除いて、手が届くエリアは家族の距離なので、この距離には入らない。

②表情・声
 安心できる相手なのか、脅威を与える相手なのかどうかを判断するとき、人はまず相手の表情を見る。穏やかな表情をつくり、敵対する者ではないことを示したうえで、ゆっくり、まずは小さな声で話しかける。興奮した生徒が大きな声や険しい表情をしても、こちらの表情と声は崩さない。そうすれば、生徒はこちらが脅威を与えるものではないことを感じて、徐々にこちらのペースに合わせてくれる。

③人数
 できたら複数が好ましいが、多すぎると相手に脅威を与えてしまう。状況にもよるが、一人の生徒に対応する場合は、2人、多くても3人までで対応するのが良い。生徒が複数人の場合は、もう少し多くの教職員で対応するのが良い。

④場所
 他の生徒から見える場所で事態が起きている場合は、他の生徒への影響を避けるため、見えない場所に移動する。
 移動する場所としては、刺激が少なく、風通しの良い場所が望ましい。雑然とした場所は視覚的刺激が多いので落ち着きにくく、苛立ちをモノにぶつける可能性があるので、モノが少なく、整っている部屋や場所が良い。相談室や生徒指導室にモノが少なく、整然としているのはそのためである。
 風通しの良い場所は、興奮を冷ましてくれる。窓やドアを開けて風を入れることができる場合は、開けるようにする。 
 生徒が座る位置は、圧迫を感じないように入り口付近に座らせるなど配慮する。教員は正面を避け、斜め前や横に座ることで威圧的な雰囲気を与えない。
 部屋に入るように促しても応じない場合は、生徒自身が落ち着ける場所に自ら動こうとするので、無理に部屋に入れようとしない。体に触れる行為は更なる闘争行為を引き起こす。
 生徒が落ち着く場所にたどり着いたら、授業中の場合であれば、しばらくその場所で話を聞く。しかし、休憩時間になると他の生徒の目につくので、授業時間中に相談室や生徒指導室等に移動できるように促す。

 子どもが脅威を感じたら、世界をどのように認知するのか、教員がこのことを少しでも理解できると、「話が通じない子どもたち」ではなく、「話が上手に聞くことができない教員たち」の側面も見えてくるのではないでしょうか。学校は子どもの未来をつくる場所です。教員は子どもの話を聞くことのできる未来志向のコーチでありたいと願っています。だから、人について学ぶことは大切ですよね。

前回は、中学生を理解する1でした!

次回は、中学生を理解する3です!


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