子育ては「何の植物に育つかわからない種子」を育てるようなもの

子育てに失敗しないマニュアルが欲しい、という相談を受けた。結論から言えば、「そりゃ無茶や」になる。
子育てって、「何の植物か皆目見当がつかない種子」を扱うようなものだと思う。稲や蓮なら水辺でも育つけどサボテンは育たない。サボテンの育つ乾燥したところで蓮は育たない。

植物によって水がたっぷりほしい種類もあれば、乾燥気味でないとうまく育たないものがある。トマトのように肥料食いの作物があるかと思えば、ランのように肥料を上げると腐ってしまうようなものもある。強い光を求めるヒマワリもあれば、日陰でないとうまく育たない花もある。実に様々。

植物は、水と肥料と光を求める、という点ではどれも共通。共通した特徴を備えているのだけど、適切な加減は植物によって様々。これは子どもも同様。子どもの個性によって、干渉されることが嫌いな子もいれば、構ってほしい子もいる。大胆に挑戦する子もいれば、臆病な子もいる。個性は様々。

それでも、植物に水・肥料・光が必要という点では共通しているように、子どもも共通点はある。自分を好きでいてくれる存在が必要。言葉をかけてくれる存在が必要。自分の成長に驚き、喜んでくれる存在が必要。その加減やアプローチの仕方は様々でも、共通点はあるにはある。ただ、加減が必要。

では、どのくらいの加減が必要なのか。それはその子から教えてもらうしかない。
私が初めてトマトを育てることになったとき、どのくらいの水を上げたらよいのか、ベテランの人に聞いてみた。すると「トマトに聞きなさい」と言われた。

さすがにそれでは見当がつかなさすぎなので、コツを教えてもらった。
・朝と夕方の2回、様子を見に来ること。
・水やりは原則、朝行うこと。
・夕方に軽くしおれるくらいがちょうどよい。
・最初は1株500mLの水を目安に。
・天気を見ながら、「夕方軽くしおれる」くらいの水加減を探ること。

トマトを実際に育ててみることで、「トマトの声」が聞こえるようになってきた。今日は曇り空だから水を少し少なめにしようかな、今日はカンカン照りだから1日2回水を上げたほうがよさそう。夕方にしおれすぎたり、逆に水を上げ過ぎたりしながら、だんだん加減が分かってきた。

何の植物かわからない種子なら、水加減は種子そのものから教えてもらうしかないように、子育てもまた、子どもの反応を見て、どのくらいの加減が適切なのか、どんなアプローチが適切なのか、子どもの反応から学ぶしかない。それはマニュアル化しにくい部分。試行錯誤の中でつかむしかない。

試行錯誤の中で、子どもが見せる反応を見て、あれ?と思ったら軌道修正を図る。それの繰り返しが子育てなのだと思う。子育て本は、どんな試行錯誤を試してみることができるかの目安、参考にはなるけれど、加減は自分で調整するしかない。子育て本は、目の付け所を学ぶためだけ、くらいのほうがよい。

子どもとどう接したらよいかは、その子自身から教えてもらう、学ぶしかない。稲のマニュアルでサボテンを育ててはいけないし、サボテンのマニュアルで稲を育ててはいけない。どんな種子かわからないなら、マニュアルに頼ろうとするのはむしろ危険。なら、種子との試行錯誤のほうがかなりマシ。

子育てによく正解はないと言われるけれど、それは、その子との試行錯誤の関係性の中で育まれていくものだからだろう。親としては、その試行錯誤を楽しみながら取り組めばよいのだと思う。「そっちかあ!」と驚きながら。

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