「失敗する恐怖」を解除すると観察力を取り戻し、結果として失敗しなくなる

人材育成に力を入れるゆとりなど現場にない、という声をよく聞く。どこも人手不足で、実際、余裕のある現場はなくなってきているように思う。しかし中途半端な人材を現場に入れたら大混乱、余計にゆとりを失いかねない。だから私は新人研修に一切手抜きをせず、一ヶ月の余裕をこじ開けるようにしてる。

一ヶ月の間、なるべくたくさんの失敗を重ねてもらい、
・「失敗したらどうしよう」と硬直し、萎縮する「呪い」を解除する。
・ともかく「観察する」クセをつける。
を意識する。ただし、失敗は深刻な問題にならないものでたくさん経験してもらう。それでも新人さんは「失敗しちゃった!どうしよう!」

私は「せっかく失敗したので、どうせだから何が起きたのか観察して楽しみましょう。ここはどうなっていますかね?」と問いかけ、見た通りを答えてもらう。こうして着眼点を示しながらどうなってるかを答えてもらうと、観察するクセがついてくる。その時、軽く驚く様子を見せるとよい。

「よく気がつきましたね」その一言があると、もっと観察して驚かせてやろうという気持ちが現れるらしい。「他にも気づいたことがあったらどんどん言ってください」と言うと、気づいたことをどんどん言ってくれるようになる。

たとえ失敗の原因から外れたものでも、そうして積極的に答えてくれる様子に変化したことに驚くと、ますます積極的になってくれる。驚いてくれると楽しくなるのか、どんどん観察眼が鋭くなってきて、気づきをどんどん得るように変わっていく。

一ヶ月の新人研修の間に、失敗したら観察を楽しむ、ということを繰り返すと、次第に新しい作業に取り掛かる前から観察が始まり、これはどうするとよいのか見当がつくようになる。そう、失敗する恐怖を解除するのは、観察眼を取り戻すため。観察眼を取り戻せば失敗がものすごく減る。

どうやら、観察力を奪うのに最も効果的なのが「失敗する恐怖」。失敗してはならぬ、という「呪い」は、「失敗したらどうしよう」と不安でいっぱいになり、手元が見えなくなる。観察どころか、不安な気持ちを持て余すことでパニックに。もし失敗したら「叱られる!早く謝罪して許してもらわねば!」になる。

私は、失敗したときのそうしたお約束の行為、どうでもいいと考えている。謝罪をするよりも、指導者に従順な姿勢を見せることよりも、観察することが大切。観察することで仕組みを読み取り、何をどうしたらよいのか見当をつける力の方が大切。だから新人研修の間に「失敗しましたね。では楽しみましょう」。

あ、失敗しても叱られるんじゃないんだ、と安心してもらい、こちらの示す着眼点に引き寄せられるように観察するようになり、気づきを言うと驚かせられるという楽しみを味わってもらってる間に、「失敗したらどうしよう」というパニックが起きなくなり、ともかく観察するというクセがついてくる。

観察するクセさえつけば、ほぼ即戦力に変わる。新しい仕事をお願いしても「これはどういう仕組みなんだろう?」と観察するクセがついてるから、見当をつけられるようになり、すんなり新しい仕事にも馴染める。新人研修での、小さな失敗の積み重ねで、観察眼を取り戻せる。すると。

もう滅多なことで失敗しなくなる。
昔は新人をその状態に持っていくのに3ヶ月かかっていたが、次第に一ヶ月でてきるようになり、最近は2週間もするとその状態に持っていける。一つには、他のスタッフが「篠原は本当に失敗という現象の観察を楽しんでる」と伝えてくれるから、安心しやすいのかも。

医療の現場や営業の現場は失敗するわけにいかない、とよくお声を聞く。失敗できないというのでは、実のところ、研究もそう。実験が失敗に終わるのは構わないが、機械の操作を誤ると一千万円以上がオジャンになる。やはり許容できない失敗というのはある。

そうした失敗をせずに済むように、手軽な実験器具の取り扱いなどでわざと失敗しやすくしておく。「いま、泡が弾けましたね。すると器具の内部が汚染されます。どうしたらよいでしよう?」大した実害のない失敗をしてもらって、さてどうすればよいかを考えてもらう。そのために観察をしてもらう。

「いま、この操作をしたらこうなりましたね。ということは?」と、着眼点を示しながら、一緒に現象を観察する。気づきをそのつど口にしてもらう。そうして、許容できる失敗を新人研修の間にたくさん重ねて、パニックの原因である「失敗したらどうしよう」の呪いを解除しつつ、観察眼を磨く。

新人研修で手を抜かず、観察眼をしっかり磨けば、後はとてもラクになる。簡単な指示を出すだけで、自律的に動いてくれるようになるから。私は後でラクになるために、新人研修では余裕をこじ開けて、失敗という現象を観察し、楽しむことを怠らないようにしている。

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