鈴木敏夫さんに、写真を語った日。
「カメラマンの意見が聞きたいな。この写真たちを見て、どう思う?」
とあるインタビュー中に発せられたひと言。
私を真っ直ぐな目で見つめて、そう尋ねてくれた人がいた。
スタジオジブリ プロデューサー 鈴木敏夫
日本を…いや、世界を代表する映画プロデューサー。
彼の手がけた作品に何度涙し、何度心揺さぶられたことか。
本来なら、世界が触れ合うことすらなかった人。
・・・
その鈴木さんが、私に問いかけてくれている。
しかも、1人の人間、1人の表現者として、対等に。
その事実を認識するのに、10秒はかかったように思う。
「…え?? 僕ですか???」
自分で分かるくらい過去最高に間抜けな声で返事をした。
この空間に”カメラマン”は私しかいないのに笑。
「そう、君の意見が聞きたいんだ。」
返ってきた言葉は、どこまでも優しく、深かった。
・・・
場所は鈴木さんの事務所の一室。
その一角に、現像して引き伸ばされた写真たちが並んでいた。
聞けば、鈴木さんの書いたノンフィクション小説『南の国のカンヤダ』のモデルとなった女性が撮った写真なのだという。
「これらの写真、君には何が見える…?」
改めて、鈴木さんが私に問いかけてくれた。
被写体は、何の変哲もない風景ばかりだった。
ただ、光がとても優しく、柔らかいように感じられた。
気づけば、思ったことが口から零れていた。
「光が…とても綺麗です。彼女は多分、光を線で捉えられる人なんだなぁと。」
「光を…線で?」
鈴木さんはとても不思議そうな、そして楽しそうな顔をしていた。
若造が何を言い出すんだと思われただろうか…
自分の言葉に怯えていると、鈴木さんは笑顔で「続けて」と言ってくれた。
「強い光は…『刺すような』なんて形容することがあるように、誰でも鋭いイメージを持てます。 ただ、柔らかい光になるほど光を明確に捉えるのは難しくて…
彼女は、柔らかい光の中にも輪郭を感じ取って、写真の中に収められる目を持ってるんだなぁと…」
自分の主観だらけの、その場で零れた感想を、鈴木さんは興味深そうに咀嚼してくれた。
「なるほど…そういう世界があるのか。この風景、彼女にはどう見えていたんだろうな…?」
「彼女の景色を見抜けなかった僕もまだまだだなぁ。」
思うところがあったのか、自問自答のようなことをしながら言葉と遊ぶ鈴木さん。その横顔はとても純粋に、僕の言葉を楽しんでくれていた。
「聞けてよかった。また新しい世界を知れたよ。ありがとう」
トトロの住む大木のように泰然としていて、
湯婆婆の湯屋のように賑やかで、
ハウルの動く城のように暖かな人。
画面の向こうでしかなかった”ジブリ”の世界は、ここにあった。
他でもない、この人の中に。
貴方の心に、一滴でも私の言葉を注げたのなら、
私が写真を撮ってきた意味はきっとあったのだろう。
鈴木敏夫さんに、写真を語った日。
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