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キンダーカウンセラーや巡回相談ってどんな仕事?

私は講演会などでお話しするとき、「この中で、キンダーカウンセラーを知っているひとー!」と尋ねて手をあげていただくことがあります。手があがるのは、参加者が100人いたら10人、いるかいないか。

続いて「スクールカウンセラーを知っている人」にも手をあげていただきますが、こちらはほぼ100%手があがります。

・・・そうなんです。
それほど知名度が低い「キンダーカウンセラー」という仕事を、私はしています。

キンダーカウンセラー|巡回相談|仕事

…悲しい…


Kinder(garten)のCounselor?幼稚園児にカウンセリング???
と思われる方も多いわけですが、果たして幼稚園で、誰を相手に、何のカウンセリングをする人なのでしょうか。

なお、私が活動する自治体では、

・ 私立幼稚園(Kindergarten)が、個人のカウンセラー(臨床心理士。公認心理師資格ができてからは、両方を持っている人も多い)と直接契約し、訪問相談をする場合は「キンダーカウンセラー」。契約したカウンセラーが定期的に園を訪問する。

・ 自治体と雇用契約を結んだカウンセラーが、保育園や子ども園(公立や半官半民の認可園)を訪問相談する場合は「巡回相談員」 。相談員は基本、固定だが、訪問日によって変わる自治体も(相談員が不足しているところに多いかも?)。

と呼ばれていて、報酬をいただく先や活動の形態、活動時間の長さなどに違いはあるものの「子どもを観察し、見立てや関り方について助言する」という点では同じ仕事です。

【余 談】
沖縄県は、幼稚園事情が本土とは全く違います!小学校のプレスクール的な位置づけになっているため、4歳までは保育園、5歳児から公立小学校に併設されている幼稚園に入園する子どもが多いのです。ここ数年で幼稚園からこども園に名前が変わっている幼稚園が多いので「巡回相談」のシステムを使っている幼稚園が多いと思います。

◇ 相談の対象は?

「スクールカウンセラー」は学校の児童生徒さんの悩みを聞く仕事だから、「キンダーカウンセラー」は幼稚園児のカウンセリングをするのでは?

と思われがちですが、「キンダーカウンセリング」「巡回相談」の直接の対象は、幼稚園児や保育園児ではありません。園の先生方です。

先生が「気になっている子」「どう関わってあげたらいいかわからない子」を、私達のような心理や発達の専門家(※)が観察し、見立てや関り方について、アドバイスをしたり一緒に考えたりします。

先生は、私達のアドバイスを受けて(これを「コンサルテーション」と言います)、先生方は、それをどんな風に日常の保育に取り入れたり生かしたりできるかを、保育や教育のプロとしての視点から考えて、活用して下さるイメージです。

「保育」と「心理・発達」、異なる専門領域のプロが、時にはコラボレーションしながら、子ども達一人一人を大切にしながら、よりよく育てて行こうという取り組みです。


(※)自治体が実施している巡回相談は、心理や発達の専門家だけでなく、言語聴覚士さん、作業療法士さん、保育士さんなどが活動されている自治体もあります。中には、心理士と保育士さん、心理士と作業療法士さんなどグループで訪問されているところもあります。

◇ どんな活動をしているの?

〇 巡回相談 〇 

巡回相談は、自治体で活動の内容が決められていることが多く、私が経験したところでは、

・ 子ども達を観察した後、先生方へのコンサルテーションを実施
・ 子ども達を観察した後、保護者相談を実施
・ 上の両方を実施

といったところでしょうか。

活動時間は、これも自治体によって大きく異なります。
私の経験の範囲内ですが「発達支援が充実している!」と思った自治体は、朝10時から午後3時まで、相談員が一つの保育園に滞在します。

園によって相談員の使い方は様々ですが、午前中で年少、年中、年長(または0歳児、1歳児、2歳児クラス)を各数名ずつ見て、午後から各クラスの担任とのコンサルテーションや、保護者相談を実施という感じです。

しかし、スケジュールがとてもタイトな自治体もあります。朝9時から12時までの3時間で数名、かつ2園をかけもち。園児さん一人当たりの観察時間は10分、保護者相談は30分。それが終わったら次の園へ移動して子どもの観察と保護者相談、というような巡回相談を経験したこともあります。


体制が充実している自治体のスケジュールはこんな感じです。

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〇 キンダーカウンセラー 〇

一方、私立幼稚園に雇用されるキンダーカウンセラーは、各々の幼稚園の方針に準じて仕事をすることになりますが、私が活動している地域では朝10時~夕方4時まで、6時間。
6時間あれば、子どもにも先生にも、じっくり関わることができます。

訪問回数も、園の方針によるので、毎週のところもあれば、月1回のところ、年数回のところもあります。

ここはお財布事情も影響してくる部分ですが、自治体からの補助金で年○回までは園の負担がゼロといったシステムになっています(〇回以上の訪問を希望する場合は、園が負担されます)。

園によっては、先生方への助言、アドバイスは不要ということで、保護者相談のためだけに年に数回だけ雇用しているところもあるようです。(でも、これではただの子育て相談です。せっかくなので、キンダーカウンセラーの強みである、心理・発達の視点からの子どもの見立てや、コンサルテーションも活用していただきたいなと、個人的には思います。)

反対に、「保護者相談の時間を設けたら、先生がコンサルテーションを受ける時間が減る」ということで、「保護者相談は受けつけていない」という園のあります。「とにかく、まずは園の先生方に力をつけてほしい」という方針なのでしょう。

◇ 園での保護者相談について

キンダーカウンセラーや巡回相談員に、保護者が直接子どものことを相談できる「保護者相談」の枠があるところがあります。
これは、園の方針(キンダーカウンセリング)、自治体の方針(巡回相談)によります。

保護者の希望、または了解があれば、先生とカウンセラー(相談員)の三者で面接相談をすることもあります。

◇ 行動観察が全て!

先生からその子の「気になる」点を聞くことはできますが、当の園児さんは、自分の困り感や悩みごとがあったとしてもまだ言葉で表現することができません。

「わからへん!」「これ、どうすんの?」「〇〇ちゃんが、いじわるしはるー!」など言葉にして伝えててくれる子はまだいいのですが、ただうつ向いたり、泣いたり、部屋の隅に一人でいたり、みんなと違う遊びや取り組みをしたり、楽しそうじゃなかったり。

あるいは、集団活動について行けていないのに、「困り感」を感じることもなく、園生活を送っている子もいます(当然ですが、本人からは何も発信がないので保護者も気づきません。「うちの子は毎日楽しく通っている」という認識をされていたりします)。

あとは、私のような珍しい人間が来たら、ずっとおしゃべりしてくれたり抱っこを求めたりしたり、反対に突然、後ろから蹴ってきたり、「おばはん、何しに来てん!」と罵声を浴びせたり。そんな行動で表現してくれます。

そんな園児さんの姿を見たり(ただ見るのでなく、発達心理学や臨床心理学といった学術的な理論を背景に見ることを「行動観察」と言います)、一緒に遊んだりしながら、なぜそういう行動になるのかな、とその子の困り感を把握したり推測したりします。

このように、私達が使う技法は、多くの場合「行動観察」ですが、自治体によっては先生や保護者の同席のもとで「新版K式発達検査」という、子どもが遊び感覚で取り組める発達検査を実施して、その子の発達の特徴を先生や保護者と共有しながら、相談を進める所もあります。

というわけで、園児さんの悩みごとや困り感は、園児さん本人の努力で何とかしようとするのではありません。
キンダーカウンセラーや巡回相談員が間に入り、その困り感の原因となっていることを探って代弁し、それを受けた周囲の大人が、対応を変えたり環境を整えるたりすることで解決を目指します。


〇 より詳しく知りたい方へ 〇

 ◇ 単行本のご案内


◇ 記事:キンダーカウンセラーの観察ポイント


* 見出し画像は、たくあんとくもりさんによる写真ACからの写真

* 泣いてる熊さんは、だる猫さんによる写真ACからの写真 です。


 

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