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物語綴り

91
考えたショートショートを投稿していきます。
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#詩

街の音を聞く

街の音を聞く

車の音
誰かの話し声
風の音

生活をしている音の中を歩く

黙々とただ歩く

どこかのお家で料理をしているにほひ
いつかきっとこの何気ない日が
人生を彩る1ページとなる

何度忘れようとも
私はきっと想いだす

それが刻まれたものだとするならば

消えないなにか

消えないなにか

風にはためく洗濯物が
誰かを想起させる

それは想い人かもしれないし
古い記憶の中の誰かかも
もしくはどこかで印象に残った
名前を知らない人かもしれない

いつからか特別感は無くなっていて
だけれどもなんだかその言葉を聞くと
特別を演出したくって
ひとときの演出がとても心を躍らせる

BGMのように耳をくすぐる生活音

それは生きている音

存在

存在

いつも私の前を歩いていた君が
いなくなった

最初は大きく広がる視界が
寂しくて仕方がなかった

それが時が経ち
今の私は
胸を張って前を見つめて

目の前に広がる日常という景色が
愛おしくてたまらなくなった

君といた日々が
過去となって“現在(いま)”となる

まるでぬるま湯にいるかのような
穏やかな幸せ
だけどどこかに潜む
小さくも不穏な気配

目を向けないように
向けさせないように
幸せを守るための努力も虚しく

目の前に広がるは
赤、あか、アカ

聞こえる声は誰のものか

ふわふわととんでいくわた毛

軽やかでかわいらしいそれは

遠くへタネを運んでいく

運ばれた先で芽吹く姿は見えないけれど

きっとそれは逞しいのだろう

私が蒔いたタネたちも

いつかそんなふうに芽吹くのだろうか

「好き」
「好きよ」
眠りについたあなたに
ひっそりとささやく

歌うように
祈るように

ひと目見て涙を流した瞬間が
いつしかセピア色に溺れるなんて

涼やかな風に心をのせて
あなたの元へ届ける歌

俯いてばかりの自分に
空の青さを教えてくれた言葉たち

言葉の粒が瞬く間に弾けていく。