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ピアノを拭く人 [長編小説] (完結)

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彩子が出会った素敵なピアノを奏でる男性は、些細なことが気になって居ても立ってもいられなくなる病に悩まされていた。
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ピアノを拭く人 第2章 (7)

 エアコンが温風を送り出す音と、冷蔵庫の低くうなる音が、夜の静寂に溶けていく。  彩子は…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (8)

To  Saiko MIZUSAWA From Toru Yoshii Title 歌・ピアノ トオル 彩子へ  忙しいのに…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (9)

To Saiko MIZUSAWA From Toru Yoshii Title 印象深かったエクスポージャー 彩子へ  ここ…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章(10)

To  Saiko MIZUSAWA From Toru Yoshii Title 最後のエクスポージャー 彩子へ  ようやく…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (4)

 彩子は、勤務の終わった透を拾うために、フェルセンの駐車場に車を入れた。木の間にのぞく冴…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (5)

 月は川面に映りそうなほど、煌々と輝いている。彩子は、信号待ちをしながら、買い物を繰り返…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (6)

「何?」  彩子は透の目を見るのが怖く、彼の黒いセーターの胸元に視線を固定して尋ねた。外の静けさが、部屋に漂う緊迫した空気に拍車をかける。 「彩子の年齢だと、結婚して、子供がほしいと思うだろう?」  彩子は、透の質問の意図がわからず、自分の答えが彼を遠ざけてしまうことが恐かった。だが、彼が何かしらの決意を胸に、切り出している以上、自分もそれに答えねばと思った。 「私は、あくまでも、その人との関係のなかで大切な選択をしたい。恋人と時間を重ねて、この人と人生を共に歩みたいと思っ

ピアノを拭く人 第3章 (7)

 彩子はソファから立ち上がり、真っ直ぐバスルームに向かった。  ピンクグレープフルーツの…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (8)

 年の瀬が迫っているが、車は思ったよりスムーズに流れている。新型コロナウイルスの感染者数…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第3章 (9)

 桐生のカウンセリング室の『睡蓮』は、今日も優しく2人を迎えてくれる。 「お店でのお客様へ…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第4章 (1)

 遮光カーテンの隙間から、金色のヴェールが差していた。彩子は、エアコンを点けずにベッドか…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第4章(2)

 透の交友関係は、知らないに等しい。誰に紹介されるのか考えても、何も浮かばない。過去に関…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第4章 (3)

 彩子は、緊張と名状しがたい重苦しさを振り払うため、マウスを握る右手に力を込め、動画の編…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第4章 (4)

   強風で、車まで揺らされる昼下がりだった。どこからか飛んできた白いレジ袋が、彩子の運転するブルーのマーチのボンネット上を勢いよく滑っていった。 「透さん、フェルセンのInstagramとTwitterの更新、年明けから滞ってるでしょ? フォロワーも伸び悩んでる。強迫症の方を励ます配信に熱心なのはいいけど、お店のことも忘れないでね」  彩子は愛車を右折車線に入れながら言った。 「すまない。今夜あたり、更新するよ。写真撮らないとだな……」  透は肩を竦め、見ていたスマホを