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藤野忍(ふじの)
2024年3月17日 17:11
こんなに広いお店、初めて見た。 田舎のスーパーで価値観がストップしている私にとって、そこは謎の組織のアジトかと錯覚しそうになった。「豊洲ってこんなところなんですね……」 あれから私は紫苑さんにメイクを施され、綺麗な白いワンピースを着せられ、髪を巻かれた。魔法にかかったかのように心がわくわくする。「うん。私は丸の内の方が好きだけどね。まああそこは千代田区だし」 ガラス張りの天井から差し込
2023年11月26日 23:17
目覚めた時には、既に空は赤く染っていた。 一瞬朝焼けなのかとも思ったか、iPhoneの待受がそうでは無いことを残酷に知らせる。「16時……」 紫苑さんは既にそこにはおらず、華やいだ匂いだけをそこに残していた。そういえば私は彼女の連絡先を知らない。後で聞いておこう。 リビングに出ると、紫苑さんがいた。「おはよう」 春の陽だまりのような笑顔の彼女に、私は微笑み返す。でも私が笑っても梅雨の
2023年11月19日 23:06
紫苑さんが眠りについた。か細い寝息がこちらに伝わる。 私は流石に申し訳なくなったので、彼女の腕枕から頭を外す。そして彼女の手を持ち上げて、腹の上に置く。彼女の寝息とともに上下する。ふくよかな胸の割には引き締まった腹部。 眠れないのでベッドから出て、大きな窓から外を見つめることにした。タワーマンションの乱立する港区。勝ち組たちの住まう場所。紫苑さんのような人々がたくさん住んでいて、彼ら彼女らが
2023年11月12日 18:56
紫苑さんがお風呂から上がった。 ほんのりと上気した肌は、かすかな赤みを帯びていた。かき上げられた髪はこの上なく美しく、すっぴんでも長い睫毛はしとやかにその瞳を覆う。 紫苑さんはその美しさにはどうやら自分では気づいてないらしい。 黒色のネグリジェに包まれた彼女の右手にはドライヤー。「使いな? 髪の毛傷んじゃう」「あ、ありがとうございます……」 乾かしてくれないんですね。とは言えない。言
2023年11月5日 14:42
ヘビースモーカーの家に着いた。港区の2LDKのタワマン。駅からは徒歩7分なので、相当な好立地と言えるだろう。玄関にはシューズインクローゼットまで付いている。「とりま、話そう?」 大きな窓のあるリビングに案内される。窓からはやはり東京の夜景と、黒々しい海が見えた。既に時刻は午前二時を回っている。 ヘビースモーカーは高そうな黒の鞄を床に置くと、キッチンに向かった。「紅茶でいい? 今お風呂沸か
2023年11月3日 17:24
首都高から見える東京の夜景は、どこか寂しげに見えた。隣県の郊外に住んでいた私にとってそこはまさしく都であったが、実際にこうして見てみるとこんなもんか、と落胆する。煌びやかな光からは、感情を感じることができない。 数少ない暖色の東京タワーでさえどこか冷たさを感じる。そう言えば、10年くらい前の地震のアニメであれが倒れていたっけ。今はあんなに、我こそが東京の象徴とでも言いたげに輝いて見えるのに。