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執筆秘話② 裏路地レトロ喫茶店~お食事おまかせにて承ります~


0. この記事の内容

私が文学フリマで頒布してきたオリジナル小説が生まれたきっかけやテーマなどを語っていきます。
第2回目の作品は、「裏路地レトロ喫茶店~お食事おまかせにて承ります~」です。Webサイトでは一切公開しておらず、完全書き下ろしです。

別の記事にあらすじを書いているので、よろしければそちらもどうぞ~。

1. 書いたきっかけ

1-1. 短編集を書きたかった

珍しいことかもしれないですが、私が物語を書くと、だいたい長編になってしまうのです。
(誰ですか、ダラダラ書いてるだけだろって言ったの! 泣くぞ)
長編ってキリよく読むのが難しいというか、電車の中で読んでたらいい所で駅に着いちゃったり、夜更かしするはめになったり、調節が難しいなと思うんですよね。
その点、短編なら区切りをつけやすい。最寄り駅に到着するまでまだ2駅あっても、キリよく中断できる。3話まで読んだら寝る、ができる。
ということで短編集を書きたくなりました。

1-2. バラバラだったアイデアが、ひとつの同じテーマでまとめられそうだった

書きたい話題やアイデアはぽろぽろ出ているものの、全部盛り込んだところでひとつの話には纏まらないので、長編作品にはならない。そんなアイデアたちをグループ分けして、別々の物語に仕上げたら……あら不思議。同じテーマで纏まっちゃったワ。
詳しくは後で述べますが、1つ1つは別の話でも"短編集"にすると綺麗にひとつになりそうだったので、こりゃ短編集にするっきゃないでしょうと。
そう思ったわけです。

2. テーマ

2-1. テーマは「過度な自己責任論」

今って、何か失敗したり、ちょっとでも愚痴を言ったりするとすぐに「自己責任」って言われちゃいますよね。
就職に失敗したのは、そんな会社を選んだお前の責任だ。
子育てが大変なのは、それを分かった上で産んだお前の責任だ。

ちょっと待ってよ、と。それ本当にその人だけの責任なの? と。

そりゃあ、100%他人のせいにするのは違うと思いますよ。
「最終的に自分で選んだのだから、自分の責任でしょう」という意見はごもっともです。

ですが、例えば選択肢の広さって外的要因もあると思うのです。
生まれた家が裕福で何不自由なく育った人と、その日の食事にすら困る貧困家庭で育った人。将来の選択肢って同じでしょうか。選択肢の幅って、育った環境や、受けた教育や、過去の経験の量が影響すると思うのです。

エスパーじゃないんだから未来予知などできないわけで、選択した結果、想定外の事態に見舞われることだってあるはずです。

そういった事情をいっさい勘定に入れずに自己責任を押し付けて、いったい誰が救われるのか。「お前の責任だ」と指をさして見下す人が気持ち良くなる以上の何があるのか。

100%他責ではないけれど、100%自責でもないんじゃない?
自己責任だと主張することで、何か問題が解決するの?

そんな問いをテーマにしてみました。

2-2. アイデアのグループ分け

偉そうにテーマを語ったわけですが、実は、最初にテーマがあって物語に派生させたわけではないんです。
以下に示すように、アイデアをグループ分けして、短編の構想にしてみたら、それぞれに共通事項があることに気づいたんです。自分ではどうにもできない悩みを抱えながら、世間の自己責任の風潮に晒され、閉塞感や生きづらさまでも抱えないといけない……という問題。
それに気づいた時、個々の物語がひとつに纏まりました。

アイデアグループ1 →第1話「無」
・一貫性がない親の教育方針に振り回された
・夢を持てなかった
・これといった特技や強みがない、ただ真面目なだけの人になってしまった

アイデアグループ2 →第2話「五体満足」
・どんなに努力をしても、せいぜい「普通」になるのが精いっぱいだった
・「あたりまえ」の感情を持つことができなかった
・体は五体満足だが、心はそうではなかった
・電車に乗っている時、体調不良で優先席に座っていたら注意された
・目に見える体の欠損は気づいてもらえるが、心の欠損は気づいてもらえない

アイデアグループ3 →第3話「居場所」
・都会にも田舎にも馴染めなかった
・都会と田舎のちょうど中間のような街の生活に出会えた
休日に公園のベンチで休んでいただけなのに、通報されて職務質問された
・居場所のない「おじさん」になってしまったのだと感じた

※短編集に収録した全5話のうち、1~3話を例示しました

3. 執筆で得られたもの

3-1. 短編集ができた!

短編集を作りたい! から始まっているので、形にできて本当によかった。

しかし、道のりは平坦ではなかった……。第5話の「ビューティフル・ヒューマン」を書くために、英語の論文まで読みましたからね。ユニバース25なんていう動物実験を題材にしてしまったがために……!
グー〇ル翻訳様様。大変だったけど、でも楽しかった笑

3-2. 「当たり前」に問題提起できた

以前から何となく感じてはいたけれど、うまく言語化できずにいたテーマを形にできました。

この作品テーマには賛否両論あると思ってます。否の方が多いかもしれない。だって、見ようによっては、自分の問題を自分で解決できなかった人が「ただ言い訳している」と映るわけですから。
それはそれで構わないと思います。私は個々の価値観にケチをつけたいわけではありません。ただ、一度胸に問いかけてほしいのです。

その自己責任論は、本当にあなた自身の意見ですか?

3-3. 絵師様と交流できた

前作の表紙はCanvaというソフトを使って私が作ったものなのですが、本作は絵師様に依頼して素敵な表紙をつくっていただきました。

表紙作成を担当してくださったのは、海村佳世さまです!

知り合いに絵師様がおらず、SKIMAというサイトから依頼させていただきました。依頼の仕方も、納品までの流れも分からず、おっかなびっくり注文させていただいたのですが、とても丁寧かつ親切にご教示くださいました。

3-4. 理想を形にできた

生きづらさを抱えた人たちが集う場所として、そして疲れた人を癒す場所として、ロマンスグレーのマスターが切り盛りするレトロな喫茶店を描きました。
なんと食事は「マスターが食べてほしいと思ったもの」しか出てこない!
でも、その食事は、心にぽっかり空いた隙間を埋めてくれる。体に必要な栄養はどの食べ物からでもいいけれど、心に必要な栄養が摂れる食事はなんでもいいわけじゃない。ベテランのマスターが、あなたに今必要なものを的確に用意してくれる――。

作者の理想の休憩所です、はい。酸いも甘いも嚙み分けて、ある意味で悟りの境地に達した年配の方の包容力ったらもう……。

人に優しくできる人は、人の痛みが分かる人。マスターも、つらい経験をしています。でも、その経験があったから、人に寄り添うことができる。マスターのような人がいてくれたら、悩みが解決しないまでも、勇気を出して1歩進めそう。

実現性の低い、共感されない理想論かもしれないけれど、必死に生きる人が馬鹿を見ない優しい世界になってほしい。そして、いま悩んでいる方、生きづらさを抱えている方に、心を休める「居場所」ができますように。

4. 最後に一言

取材と称した喫茶店巡り、楽しかった。

この記事を書いたひとの紹介

エブリスタNOVEL DAYSカクヨムで作品を公開している野良物書き。
2020年にエブリスタで公開した「転職先は『うらめし屋』」が新作セレクション10月22号に選出される。
2023年、同作品を自費出版し、文学フリマにて販売を始める。
吃音症で、緊張したり急な質問を受けると症状が出る。
「心を擦り減らした誰かに寄り添う」物語を書いていきたいと思っている。

◆作品
2023年9月10日発行「転職先は『うらめし屋』」
2024年5月19日発行「裏路地レトロ喫茶店~お食事おまかせにて承ります~」
2024年9月8日発行予定「みあれ! 神ガチャ」


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