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プラハまでの軌跡

リンツを抜け出して


5日前の水曜日。私は2週間ほどお世話になったリンツの街を離れ、チェコの首都プラハへと向かっていた。リンツからプラハまでは電車で4時間ちょっと、EC(ユーロシティ:国際特急列車)を使えば電車一本で行くことができる。プラハに行くのは今回が初めてだったが、チェコ語が話せないこと以外特に不安はなく、むしろ早くあの可愛いおとぎ話のような街に行きたい!とワクワクしていた。

乗車してから30分後、車内の遠くの方から、検札官らしきおじさんの声が聞こえてきた。スマホで電子チケットを表示し、念のためリュックからパスポートも取り出して、おじさんをじっと待つ。

それから10分後、ようやくそのおじさんがやってきて、チケットの検札タイム。よし、これで一安心と思いきや、おじさんが私に向けて訛りの強いドイツ語で何か言ってきた。聞き取れた単語は、「14:38」と「バス」のみ。嫌な予感がした。これはもしや「14:38になったら電車を降りてバスに乗り換えろ」ということではないだろうか。焦った私はすぐさまÖBB(オーストリア連邦鉄道)のアプリを開き、今乗っている電車の運行状況を調べた。しかし、乗り換えに関する情報はない。とりあえず14:38になったら周りの人の様子を見て判断しようと思い、なんとか自分を落ち着かせる。

ついにチェコへ


チェコに入り、数駅過ぎた後、ひとりのおばあさんが私の席のある個室*に入ってきた。Dobrý den(こんにちは)と挨拶されたので、Dobrý den! と元気よく返す。私の唯一のチェコ語ボキャブラリーが役立った瞬間だった。その後、とある駅でマッチョ軍団が登場し、個室は満杯に。ここまで来るともう不安感はなく、この人たちにたちついていけば大丈夫だ、と勝手に思っていた。

*個室とはコンパートメント席のこと。一つの個室に6つ座席があり、3席ずつ向かい合うように設置されている。なお、誰かと相席になるととても気まづい。

そして、時刻はいよいよ14:38。電車はTaborという駅に停車した。そこでなんと、同じ個室にいたおばあさんが電車を降りてしまった。どうしよう、私も降りるべきかな...と一瞬考えたが、周りのマッチョ軍団が席を立つ気配はなく、窓の外を見てもそのおばあさん以外に電車を降りた人はいなかったため、降りないことを決意。神様に、どうかこのままプラハまで行ってくださいと必死に頼み込む。

しかし15分後、事件は起きた。電車がChotovinyという田舎の小さな駅に停車すると、同じ個室に座っていたマッチョ軍団が席を立って電車を降りてしまったのである。さらに、窓の外を見ると、同じ電車に乗っていた人が次々と電車を降りていくのが見えた。まずいまずいまずい。どうすればいいのか分からず、数分車内で固まっていると、マッチョ軍団のひとりが去り際に英語で「プラハまで行くなら乗り換えですよ」と教えてくれた。ああ、世の中にはなんて親切な人がいるんだろう。この時点ですでに泣きそうだったが、とりあえずマッチョなお兄さんに心からのありがとうを伝え、電車を降りる。

バスに乗ったはいいけれど


電車を降りて周りの人たちについていくと、バス停にバスが5台ほど停車していた。一体どのバスがプラハ行きなのだろうか。チェコ語が読めない私は、バスの表示が理解できず、ひとりウロウロ歩き回っていた。とりあえず誰かに聞こうと思い、近くにいたバス会社の従業員らしき女の人に尋ねると、すぐの横のバスを指差し「ここのバスは全部プラハ行きよ、さあこのバスに乗って!」と教えてくれた。バスの中は外から見ても満杯だったため、急いでトランクにスーツケースを放り込み、車内に乗り込む。

車内は想像以上に人で溢れかえっており、見たところ空いている席は2席しかなかった。その2席のうち入り口に近い席まで行き、おばあさんに「すみません、ここ座っていいですか?」と英語で尋ねた。そのおばあさんはとても親切な人で、笑顔で「もちろん!」と言ってくれた。

バスは見たこともないチェコの田舎道をどんどん進んでいく。チェコの田舎道は車幅が狭く、途中バスが他の車に当たらないかとヒヤヒヤしていた。そしてバスが走り始めて30分後、再び事件は起きた。なんと、車両事故により、バスが渋滞に巻き込まれてしまったのである。前に止まっていた車は次々と道を引き返し、その度に乗客の不安は煽られる。隣の親切なおばあさんもチェコ語でぶつぶつと文句を言い始め、乗客の中にはバスを降りて我が道を行く者も現れた。そんなカオスな状況のなか、約1時間が経過。バスはついに渋滞を抜け出したかと思いきや、道は通行止めで通れず、結局私たちは近くのOlbramoviceという駅で再び降ろされたのだった。

トラブルの果てに


Olbramovice駅につく頃には、私はすでに冷静を取り戻しつつあり、電光掲示版を見てどのホームなのかを素早く確認し、誰よりも早く電車に乗り込んだ。予約されていない席を発見し、優雅に発車を待つ。その後、電車は無事にプラハへと向かい、当初の予定よりも1時間ほど遅れて、私はプラハ中央駅に着いた。

電車を降りて、駅のプラットホームに立った時。無事にプラハに着いた安堵感と、新しい生活が始まるワクワク感で胸がいっぱいになった。旅にトラブルはつきもの、すべては経験、なんて心に余裕ができた今だから言えることだけど、トラブルに遭遇し、それを乗り越える度に、人の温かみに触れ、なんとなく自分も成長できた気がする。この先も一生、トラブルを楽しむことなんて出来そうにもないけれど、いつか笑い話になることを信じて、前向きに乗り越えていきたい。

プラハ中央駅

おまけ


実はこの日の夜、早速またトラブルに遭遇した。お風呂場の鍵が開かなくなり、誰にも助けを呼べず、深夜3時までお風呂場に閉じ込められた。なんとか自力で脱出したものの、このヨーロッパの鍵の開け方についてはぜひとも注意喚起したいため、いつか記事にしようと思う。

次回は #あの街 を歩いてみた〜プラハ編〜 をお届け予定です。ぜひお楽しみに!

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