我々の偉大な旅路 第1章 香港 ~後編~
↑ こちらのシリーズの続きです
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兌換
重慶大厦が無数の安宿が入居している雑居ビルでありバックパッカーから絶大な支持を受けていることは最初に述べたが、重慶大厦には安宿だけでなくレートの良い両替屋の多く存在している。通りに面したグランドフロアとその上のファーストフロアに点在しているのだが、レートがそれぞれ微妙に違っており、どこの両替屋で両替するのが一番得なのかを見極めながら建物の中をうろつきまわるのは案外楽しい。
いつもであれば手持ちの日本円から現地通貨である香港ドルや本土で使える人民元に替えるだけなのでJPYとHKDもしくはRMBのレートだけ見て一番良いところで両替するだけなのだが、今回はインドシナ方面へと向かうのでそれ以外の通貨も必要になる。重慶大厦で今回使うすべての通貨を揃えることも可能だったが、ベトナムドンやラオスキープ、ミャンマーチャットなどはあまりレートが良くないらしいという話を聞いていたので、ここでは中国人民元と東南アジアで広く流通しているタイバーツのみを入手することにした。我々は各両替屋のレートを吟味して、アラブ系の両替屋で手持ちの日本円を人民元とタイバーツに両替してもらいマニラホテルの部屋に戻った。
マニラホテルの硬いベッドの上に両替した紙幣を並べてみる。おなじみの毛沢東の人民元はもう十分見慣れていたので物珍しさはないが、このとき初めて手にしたタイバーツに描かれた国王の肖像を見つめてみると、真面目そうな表情が毛沢東とは違う威厳を放っている。まだ見ぬタイの土地に想いを馳せながらタイバーツ紙幣を財布へしまい、マニラホテルを後にした。
港式奶茶
香港での朝はあっという間に過ぎてしまい、我々は本土へ向かわなければならない時間になった。重慶大厦から深圳のチェックポイントまでは地下鉄で約1時間。香港と深圳はわずか30kmのみを隔てた隣町でありながら、その歴史的経緯から市街地は連続しておらず、維多利亞港を囲んだ超高層ビルが立ち並ぶ香港の中心地から深圳まではそれなりの時間を要する。この二卵性の双子都市の間をわずか15分ほどで結ぶ高速鉄道が当時建設中であったが、ちょうど我々が香港を離れている間に開業するとのことで、今回の滞在中には乗る機会に恵まれなかった。
重慶大厦から出ると昼前ということもあって、もうかなり暑くなっていた。重慶大厦の近くにあるセブンイレブンで港式奶茶を手に入れて喉を潤した。この港式奶茶は私が香港に来るたびに必ず買っているほど、愛飲している香港オリジナルの飲料である。香港島の景色が浮かぶカップをあしらったラベルのデザインも可愛らしい。このお気に入りのペットボトルをお守りのようにバックパックの横のドリンク入れにしまい、駅へと向かった。重慶大厦からMTR尖沙咀駅まではすぐである。香港のICカード・オクトパスカードを改札にかざし地下鉄に乗り込んだ。
「これ見て」
地下鉄のドア上に描かれた路線図を指差して私はワカナミに話しかけた。
「香港西九龍駅、来週開業らしいね。9月23日。」
「ちょうど香港に帰って来る前日か」
「バンコクにいる頃やね」
「無事にバンコクまでたどり着ければ良いけどね」
二回ほど地下鉄を乗り換えて列車は上水駅に着いた。
「ここで一回降りる」
「なんで?チェックポイントはもう一個先じゃない?」
「ここで一回降りると2.5ドル運賃が安くなる」
「それだけかよ…」
バックパッカーたるもの、たった2.5ドル(=日本円で35円くらい)であっても節約できる運賃は節約したいもの。上水で一旦降車したのち一本後の電車を待ち、羅湖のチェックポイントへと向かった。
離港
羅湖駅は制限エリアになっており、この駅から外に出ることは基本的にできないようになっているため、この駅で降りる乗客は皆中国本土へ向かって歩いて行くことになる。列車を降りて人の波に乗り、改札を抜け、本土を目指す。駅構内の案内板にも「深圳」の文字が見えてきたので、深圳はもう目と鼻の先。途中免税店などもあるが人々のほとんどは一目散に香港出境のレーンに向かって早足にコンコースを歩いて行く。
中華人民共和国香港特別行政区。1997年の返還以降、香港は高度の自治が一応保証されて中国本土とは異なる経済体制が採られている。これは出入国に関しても同じで、香港から中国本土へ行く場合は一度イミグレーションを通過して香港を出境し、本土側で再びイミグレーションを通り中国大陸地区に入境するということになる。我々は前日に香港空港のイミグレーションから香港に入境したが、本土の深圳へと行くためには、またイミグレーションを通過しなければならない。
列車を降りて数分歩くと香港の出境ゲートが見えてきた。香港の出境は入境で数十分ほど並ぶのとは対照的にあっけないほどすぐに済む。改札のようなゲートにパスポートを通すだけで出境完了である。香港は入境時にもスタンプはないので、出入境のデータが当局側に残るだけで手続きが済むようだ。
ゲートを過ぎると深圳河に架かるコンコースのような長い通路に出る。この橋を抜けると大陸地区である。「撮影禁止」の案内が至る所にあり、警備の人もちらほら見かける少し異様な光景を香港もしくは深圳の住人たちが無言のままそそくさと過ぎ去って行く。国境(厳密には違うが便宜上香港・深圳のボーダーを国境とする)を日常的に行き来する生活は島国人の我々には想像がつかないが、彼らにとってこうした国境を跨ぐことは生活の一部なのである。こうしたこの地にある日常を非日常と感じながら我々は大陸へと歩みを進めた。
("第1章 香港"おわり 第2章へ続く)
旅程表
2018年9月14日 "我々の偉大な旅路" 1日目 香港
午前11時01分 MTR尖沙咀駅にて荃灣線 荃灣行きに乗車
午前11時10分 MTR太子駅にて観塘線 調景嶺行きに乗車
午前11時20分 MTR九龍塘駅にて東鐡線 羅湖行きに乗車
午前11時51分 MTR上水駅で地下鉄下車 すぐ羅湖行きに再乗車
正午 MTR羅湖駅に到着
午後0時04分 羅湖管制站にて中華人民共和国香港特別行政区 出境
(時刻はすべて香港時間)
主な出費
両替
3000 円 → 201.6 HKドル
25000 円 → 1745 HKドル
970 HKドル → 4000 タイバーツ
243.8 HKドル → 1000 タイバーツ
電車賃(オクトパスカードで支払い)
尖沙咀→上水 14.2 HKドル
上水→羅湖 25.1 HKドル
飲み物 12 HKドル (セブンイレブンにて)
↑第2章 深圳 ~前編~ はこちらから
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