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朝陽広場の休日 (我々の偉大な旅路4-3)

↑こちらのシリーズの続きです

↑南寧中編(4-2) はこちら


摩的バイクタクシー


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 我々は南寧ナンニン駅から一駅先にある朝陽チャオヤン広場を目指すことにした。歩ける距離だが荷物も多いし暑いし地下鉄で行くことにした。

 鉄道の駅舎の目の前にある地下鉄駅を目指すと、駅前の広場にバイクに乗ったおじさんたちがこちらに向かって何か呼びかけている。バイクタクシーの客引きだ。私は過去に東莞ドングアン(広州編参照)でバイクタクシーを利用したことがある。日本ではまず見かけない交通手段で町中を駆けていく様子はなかなかに楽しいものであったと覚えている。

「バイクタクシーでもいいね」

「乗ったことあるの?」

「東莞で乗った。どれくらいだろう。到朝阳广场朝陽広場まで多少钱いくら?」

30块30元だよ

「少し高いな。地下鉄で行くよ」

「地下鉄だ?地下鉄なんかないぞ」

「いやいや。そこに地下鉄駅がある」

「南寧に地下鉄はない」

 なんと、我々が外国人だとわかってか”南寧には地下鉄はない”と言い張ってくる。目の前に地下鉄の駅がある広場で繰り広げられる客引きの文句に呆れて我々は広場を立ち去り地下鉄の駅へと入った。


朝陽チャオヤン広場


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 地下鉄の駅は外の熱気を忘れさせてくれる。やや薄暗い構内を進むと面白い自動販売機があった。ヤシの実の自動販売機だ。価格は15元。日本円にして250円ほどだ。記念に一個買ってみても良かったが、手持ちの人民元は限られている。飲み物ならペットボトルの飲み物で間に合っているし、おそらくこちらの方が美味しいので、今回は見送ることにした。

 南寧ナンニンの地下鉄も深センや広州と同じように、手荷物検査を受けたのち、改札を通りホームへと降りる構造だった。我々は慣れたようにトークンを購入しホームへと進んだ。目的地の朝陽チャオヤン広場へは一駅だ。土曜日の昼の地下鉄はさほど混雑しておらず、座って移動することができた。列車はすぐに朝陽広場へと到着した。

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 地下鉄の駅を抜けると大きな公園に出た。ここが「朝陽広場」なのだろう。都市の中で鬱蒼と茂る樹木が南方の雰囲気を醸し出している。地下鉄の駅を振り返ると駅名に漢字と拼音ピンイン以外に見慣れぬアルファベットの羅列があることに気づいた。チワン族の言葉なのだろう。"Camh Cauzyangz Gvangjcangz"と表記されている。

「カム カウツァン...」

「読めないね」

「ベトナム語かなって一瞬思ったけど、壮族の言葉っぽいね。」

「壮族自治区だからな」

 我々は日本から、以前はイギリス人が統治していた香港を通り、漢人が多くを占める広東省を通って南寧までやってきた。街で目にする言語は当然中国語と英語だけだった。しかし、ここにきてまだ知らないチワン語が書かれているのを目にした。徐々に、そして着実に自らの住む世界とは別の文化圏へと旅してる実感がこのとき改めて湧いてきた。

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 広場ではカラオケ大会が催されていた。人民がキーボードの伴奏に合わせてマイクを持ち気持ち良さそうに歌っている。歌の内容に耳をすましてみる。どうやら北京語ではないようだ。チワン語かどうかはわからないが状況から考えてチワン語だろう。民謡なのだろうか、どこか異国情緒の漂うメロディを奏でている。いや、異国なのだからそれは当然なのだが。周りの聴衆もみんな笑顔で楽しそうだ。

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 広場を抜けて外周の歩道へと出た。土曜日の南寧の街は非常に賑わっており、歩道はひっきりなしに人々が往来している。我々ははぐれないようにと適当にあたりを散策した。

「観光案内所みたいなのがある。なんか地図くらいもらえるかな。」

「ちょっと聞いてみたらいいんじゃない?」

 公園の脇に小さく構えている建物の観光案内所に寄ってみた。感じの良さそうなお姉さんが二人窓口に立っていた。

「你好」

「你好。你们是韩国人吗あなたたちは韓国人ですか?」

不是いいえ我们是日本人私たちは日本人です。」

 話を聞いてみると、どうやら南寧に来る外国人は韓国人が多いらしく、我々も韓国人だと思われたようだ。よくあることなので、特に気にはしない。

 肝心の地図はここには置いてないようだった。携帯の地図を見せながら、このあたりの大きな施設については教えてくれた。我々はこれを参考に街ブラを続けることにした。

 公園の周りを歩いていると、祭りの日の屋台で売られているような苺の飴を持って食べ歩きをしている人が多いことに気づいた。どんな味がするのか気になる。人々がやってくる方向を辿るとすぐに売っている場所を見つけた。

多少钱いくら?」

さっそく値段を聞いてみる。

5块5元

 さほど高くない。買ってみることにした。QRコード決済も対応しているようだが、私は現金しかないので小銭を渡して飴の串をいただいた。

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 食べてみると味は見た目通りの甘さ。予想通り縁日を思い出すような感触だった。地元の人々からすれば何もないただの土曜日なのだろうが、我々にとっては異文化を旅する非日常のハレの日だった。ハレの日気分を文字通り味わえてなんだか嬉しくなった。ただ、一つ失敗したことがあった。手がベタつくのだ。食べ終わったらバッグからウェットティッシュを出して手を拭いた。


南寧ナンニン百貨大楼デパート


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「あそこ百貨店かな?ちょっとあそこ寄ってもいい?」

「いいよ」

私は大きな通りの向かい側にある"南宁百货大楼南寧百貨大楼"と書かれた建物を指してワカナミに聞いた。快くOKをくれたので我々は通りの向かいの南寧百貨へと向かった。

 店に入ってみると、深圳の電子街のように家電が並び、立派な家電量販店のようなフロアが広がっていた。日本製品も数多くあるほか、韓国のサムスンなどの家電なども多い。

「日本と変わらないな」

「値段もそんなに変わらなそうだね」

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 家電なら前日の深セン華強路フアチャンルーでたくさん見たではないか。私は家電を見たいわけではなかった。本音はトイレに寄りたいだけだった。大きな店なら清潔なトイレがあるだろう。駅のトイレで出すものは出したがまだすっきりしていなかったので、綺麗なトイレで用を足したかった。

 これならトイレもきっときれいだろう。家電を一通り見た後、トイレの目印を見つけて私はトイレへと駆け込んだ。だが、私の期待は一瞬で裏切られた。店舗の家電を売っているエリアは確かに綺麗なのだが、階段などのある裏のエリアに出た途端に薄暗く陰鬱な空間が広がっていた。トイレの中を少し覗いてみたが、怪しい虫がたむろしていて、とても入る気にはなれなかった。海外のトイレ事情なんてこんなものだろうとは思うが、トイレ以外の部分が綺麗だったのでこの落差には大変驚いた。

「...やっぱやめるわ」

そう言って私は元のエリアへと戻った。


朝陽路チャオヤンルー


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 南寧ナンニン百貨デパートを出て大きな通りに出た。この"朝陽路チャオヤンルー"は広場の名前にもなってる通り、南寧のメインストリートであるようだ。先程の店の他にも大きなデパートが立ち並んでおり、人々がひっきりなしに通っている。通りに面した通りには我々日本人にもおなじみのマクドナルド、駅前で立ち寄った德克士ディコス、それからいま日本でも大人気の貢茶ゴンチャなどの定番ファストフード店が軒を連ねる。

 大きな通りから一本脇道に逸れてみる。人は相変わらず多いが、少し薄暗い雰囲気が漂っている。若者でにぎわう陰鬱なゲームセンターがあったので寄ってみる。日本のものとさほど変わらないゲーム機の筐体が並ぶ。中国語の音声がけたたましく鳴り響いていた。

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 冷房もさほど効いていないゲーセンをあとにして裏路地に再び出た。大手チェーンではなさそうな中華料理店が美味しそうな匂いを漂わせており、店の前では昼過ぎなのにもうすでに多くの人々が食事をしていた。

 大きな通りに戻り、通りの歩道の角に腰掛けた。南方の暑さを歩き彷徨った我々は徐々に疲労を溜めていた。

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「アイス食べていい?」

角のマクドナルドを見て私が言う。節約バックパッカー旅行ではあるが、これほどの暑さではアイスくらい食べないとやっていけない。2個目が半額になるとのことで、ワカナミも一緒にアイスを買った。我々はバニラのアイスを手に歩道の脇で涼んだ。

「何時になったら駅に戻る?」

ワカナミが私に問う。

「もうそろそろ駅に向かったほうがいいかも」

「ご飯は駅で食べればいいか」

「軽く食べて列車で夕食にする」

「列車出るの6時だからな」

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南寧ナンニン地下街


 南寧の街を短時間で見物した我々は再び地下鉄で南寧駅へと戻った。地下鉄を降り、駅へと向かおうとすると、地下街に出た。大きなフードコートもある。

「ここで少し食べてく?」

「そうするか。小腹も空いたしな」

先程のソフトクリームを忘れた私が言う。我々はこのフードコートで列車出発前の中国最後の晩餐もとい軽食を探すことにした。

 フードコートには各種中華料理、西洋料理のお店が軒を連ねている。ガッツリ食べるのは昨日の広州で満足しているし、列車でも食べることを考えるとあまり多くは食べる気分にはならない。

「ここは?」

「うーん、ちょっと量多いよな」

そんなやり取りを数回繰り返しながらフードコートを散策した。

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「你好〜」

感じの良さそうなおばちゃんが店の中から声をかけてきた。軽食を扱っているお店だった。カウンターの上に掲げられたメニューを見ると、吃货之家吃貨之家というお店のようだ。

「せっかくだしここにするか?」

「いいよ」

ワカナミの承諾を得て我々は「吃货之家」へ入り椅子に腰を下ろした。それほど長くはないが、暑さの中、朝陽チャオヤン広場を散策し続けた我々は疲れていた。先ほどのおばちゃんが注文を聞きに来たので、メニューから軽食になりそうな甜品を注文してみた。ワカナミは肉料理の小皿を注文した。

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 程なくして注文した食事が出てきた。私の頼んだ西米露には芋が入っているミルクのデザートスープだ。暑い南方の気候に合う冷たいデザートだった。ワカナミの肉も美味しそうだ。私は一口だけ肉料理をいただいた。

「これお昼ごはんってことでいいかな」

「ちょっと遅すぎるだろ」

そりゃそうか。国際列車の出発時刻はもう30分後に迫っていた。我々は地下街をあとにして地上に出た。夕方とはいえ南方の熱気は未だに健在であった。


最後晚餐


「飲み物とか買っておかないとな」

「水一本あればいいか?」

「一本あれば十分だな。あと酒か?」

我々は車内で過ごすのに必要な食糧を補給することにした。

「そこの売店で売ってそう」

駅前のキオスクを指して私が言う。

「あれ?夕飯は?夕飯も買う?」

「ああ、ちゃんとした夕飯まだだったな。」

軽食で満たされたばかりだったので忘れていたが、車内で食べるための晩餐を用意していなかった。ちょうどそのとき、切符を買ったあとにお茶を飲むために入った德克士ディコスが横にあった。

「ここにする?」

そう私が言うと、二人は自然に駅前のバーガーショップへと吸い込まれていった。
テイクアウトで二人分のハンバーガーを買う。

 あとはお酒などの飲み物があればいい。夕方でいくらかマシになったとはいえ、外はまだ華南の熱気に包まれていた。キオスクに立ち寄り、冷蔵庫を漁り中国のビールを手に取る。それからノンアルコールのコーラもあれば十分だろう。あとは飲み水だ。外国では不用意に水道の水を飲めないのでコンビニなどで売っているミネラルウォーターが頼りになる。私は小麦王啤酒ビール百事可乐ペプシコーラ、それから"WAHAHA"という怪しげなミネラルウォーターを購入し、キオスクをあとにした。ワカナミも小麦王啤酒を買っていた。

 南寧ナンニンの駅の手荷物検査は駅舎の建物からやや離れたところで行っていた。東京ディズニーランドのエントランスのようないくつものレーンに屋根がついた造りになっている。我々は例によって手荷物検査のX線にバックパックを放り投げ、駅舎へと入った。我々の列車は右側の待合室のようだ。我々は右側に進み多くの乗客たちとともに改札の時を待った。


国際列車


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 人混みに紛れて改札の時を待つ。南寧駅の改札前は我々と同様に国際列車でベトナムを目指す人々だけでなく、中国国内の各地へと行く人々も多く、狭い駅舎に人々がごった返していた。

 まもなくするとT8701次の改札が始まった。改札の上には「红票排队处赤きっぷの列」との表示がある。我々の切符は冊子のようなもので赤色ではなかったが、これは国際列車の特別仕様なのだろう。特に気にせず列に並んだ。切符とパスポートを提示し駅のコンコースへと出た。多くの人々とともに何本かの線路の上空を渡り12番ホームを目指す。ホームに降りるとそこには中国の鈍行列車「緑皮車」が停まっていた。我々が緑皮車に乗るのはこれが初めてだった。

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 旅情を掻き立てる渋い緑の色と遠い街の行き先が書かれたプレートが我々を迎えてくれた。

「河内(嘉林)、ハノイのことですね」

「ついに出国ですな」

「国際列車ってワクワクするな。島国の人間だからね。」

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 列車のプレートの前で記念撮影をした。交互に入れ替わり、お互いの姿を列車のプレートとともに記録に残したのち、列車の中へと進んでいった。

 列車に入り、窓に面した廊下を進む。我々の席は2号車の4号室だった。自室を発見し部屋の中へと入った。左右に2段ベッドがあり、4つのベッドがある。切符によれば私は上の寝台、ワカナミは下の寝台だった。切符に記載された通りに私は梯子を上り上の寝台に荷物を置き腰掛けた。上段の寝台には足元に棚のようなスペースがあり、そこに大きな荷物をまとめて置いた。ここからベトナム・ハノイまで一晩の列車の旅。ベッドはそれなりに柔らかく、これならゆったり過ごせそうだ。十数年ぶりの夜行列車の旅に心が躍る。我々はお互いや寝台の様子を写真に収めた。

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 南寧発、ハノイ・ザーラム行き。T8701便の列車はやがて国境へ向けてゆっくりと動き出した。

(続く)


旅程表

2018年9月15日 "我々の偉大な旅路" 2日目 南寧ナンニン

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午後3時15分頃 火車站南寧駅駅 にて 南寧軌道交通2号線 玉洞ユートン 行きに乗車

午後3時20分頃 朝陽チャオヤン広場駅 に到着

午前3時30分頃〜 朝陽広場 附近を散策

午後4時頃 マクドナルド にて休憩

午後4時50分頃 朝陽広場駅 にて 南寧軌道交通1号線 石埠シーブー 行きに乗車

午後5時頃 火車站駅(南寧駅) に到着

午後5時10分頃 南寧駅の地下街にて食事

午後5時40分頃 南寧駅前の売店で買い物

午後6時 南寧駅 にて 中国鉄路 T8701次 河内ハノイ嘉林ザーラム 行きに乗車

(時刻はすべて北京時間)


主な出費

電車賃

 地下鉄 火車站南寧駅朝陽チャオヤン広場 2元

 地下鉄 朝陽広場 → 火車站 2元

 国際列車 南寧駅 → 河内ハノイ嘉林ザーラム硬卧一等寝台 215元

食事など

 いちご飴 5元 (朝陽広場 にて)

 ソフトクリーム 4.5元 (マクドナルド にて)

 香芋西米露 10元 (南寧駅地下街 にて)

 ハンバーガーなど ??元 (德克士ディコス にて)

 ビール・ミネラルウォーターなど 12元 (南寧駅キヨスクにて)


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