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『異常(アノマリー)』エルヴェ・ル・テリエ作【2月にして2023年1位を確信した作品】

こんにちは、初めましての人は初めまして。

今回は、2020年にフランスで最高峰の文学賞を受賞した小説、
『異常(アノマリー)』について書いていきます。

今回ネタバレ絶対NGな作品なので、あらすじを飛ばして、
オススメポイントから書いていきたいと思います。

後半に僕の感想を書いていくのですが、ネタバレを含みますので、
そこから先は作品をご自身で楽しんでから、読んでください!

【オススメ理由①ー理系の人でも抵抗無し、理路整然とした文章構成ー】


まるでアカデミックな論文の様に
格章の作品の中での役割がはっきりとしていて、
とても読みやすいです。

第一部、実験対象の置かれた環境、性質の説明。
第二部、これから行う実験の説明、実験本番。
第三部、実験の結果、そしてその結果から導き出される考察。

というような構成になっています。
小説の説明をしているのに一体どう言うことなんだろうと未読の方は思うと思いますが、本当にそんな感じなんです!!

しかも、ちゃんと小説としてのエンタメ性を損なわないために、
恋愛、殺人、昔の洋画の小ネタなどもふんだんに取り入れられています。

こんな形で論文の様な明快さと、創作としての面白さ、
その二つを兼ね備えているのが、本作の魅力の一つです!!

【オススメ理由②ー急転直下の展開ー】


この作品は、第一部は前述したように実験対象の説明に割かれます。

分量にして全407ページの小説の3分の1、130ページほどになるので、
読書慣れしていない人には、ちょっと我慢が必要になります。

また、読者自身も作品の登場人物たちと同様に、
自分がどんな状況に置かれているのか、
これから何が起こるのかがわからないので、すこし苛立ちます。

しかし、第一部のラスト数ページ以降の追い上げがとんでもないのです。
そこで作品のテーマが明かされ、今まで解説されてきたキャラクターたちはどうなるのか、読者の好奇心を刺激しまくります!!

僕自身、1部は少し退屈に感じてしまいましたが、
2部以降はノンストップで読み進めてしまいました!!

【オススメ理由③ー数学者が書いたのにとても哲学的ー】


僕の偏見なのですが、哲学と言う分野を理系の人は毛嫌いしているのではないかと思っていました。

でもこの小説を読むと数学者である筆者がどれだけ哲学、宗教に対して明るいかが分かります。

ある哲学的な問いに対する答えを自分だけでなく、
他の人ならどう考えるだろうと言うのを、老若男女、LGBTQ問わず、
それぞれの立場を思考して納得のいく答えを出しています。

一人の人間がこんなに多くの人間の立場に立って考えることができるのかと、作者の思考の深さに脱帽です。

【オススメ理由まとめ】

この作品は、一つの「ある仮説」をもとにそれによって世界規模でどんな事象が派生するかを細部まで考えた作者の「思考実験」をエンタメに昇華した小説です。

理系株でほとんど小説は読まないと言う人も、
文系株で多様なジャンルの小説を読んできた人も、
今まで触れたことがない様な小説です。

是非是非読んでみてください!!!


以下から、僕の感想になります。
ネタバレを含みますので、未読の人は絶対に読んでから画面をスクロールしてください!










【僕の感想ー非合理ってそんなに悪いこと?ー】

僕は、この作品を読んで一番印象に残ったのは、最後のフィロメデウスと、ヴィクトル=ミゼルのTVでの対話のシーンです。

この小説の構成上、シミュレーション理論についての作者の意見を二人が代弁しているシーンとなっていて、とても印象的でした。

特にここで、ヴィクトル=ミゼルが司会者から、
人々が自分たちの生きている世界がシミュレーションであると気づいてから人々はどう変わっていくか、という質問に回答するシーンは「人」の行動について鋭い考察をしています。

以下抜粋です。
「別になにも。なにも変わらないでしょう。朝起きて、働きにいく。家賃はこれかも支払わなければなりませんからね。
ー(中略)ー私たちは自分たちの間違いを証明しようとするすべてに目をつぶります。人間はそんなものです。合理的じゃないんですよ。」

この部分を読んだ時の僕はまさに「我が意を得たり」という気分でした。
この文章の後でフィロメデウスも発言しますが、環境問題をはじめとする種の存続に関わる様々な問題を無視して、個の欲望を満たしていく姿は「ヒトという種の存続」という観点からしたら合理的とは程遠い。

僕個人としては、一語一句違わず同意です。
しかし、彼らのようにネガティブには捉えていません。

合理的ではないということが無駄が多いということですが、
その無駄があるからこそ個人の人生は豊かになるのではないか、
と思うからです。

人生を豊かにするものは生存、増殖という生き物の観点から見たら大抵無駄なものばかりです。

音楽や映画、小説、スポーツ、ゲーム、その他あらゆる人生を彩るものは
生存においては全くの無駄です。

無駄を楽しむ暇があったら、食料でエネルギーを蓄え、
そのエネルギーで性交し、それ以外の時間はエネルギーを温存して寝るのが生物として「無駄のない合理的」な生活であると言えます。

そんな人生誰も望んでないですよね笑

というか、そんなつまらない生活を送ることしかできない種なら、
滅んでしまった方がマシです。

だから皆さん「無駄」をとことん楽しみましょう!!
それでこそ人生は豊かになります! 

筆が乗ってしまって長々となってしまいましたが、
僕の感想・主張はこんな単純なことでした笑
また、次回も読んでいただけますと幸いです!!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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今後の励みになりますので、是非ともよろしくお願いします!










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