【ショート小説】もっとこうして欲しかった。~Twitter詩を小説化してみた~
1
「ずっと一緒にいよう」彼はそう言った。
あのとき、彼は夏服の制服を着ていた。ワイシャツをズボンから出し、第二ボタンまで開け、鍛えられた胸元が見えていた。とても涼しげに見えた。
人気のないビルの外階段はコンクリート造りで、階段の踊り場から青空と狭く灰色の街が見える。彼と横並びで冷たい階段に座り、ぼんやり街と空を眺めていた。
そう彼に言われたあと、私は彼の右手に左手をそっと乗せた。そして、時折通る車の音や、遠くで鳴っている救急車のサイレン、弱く鳴くセミの声を聴いていた。時間は無限に思えた。
「ねぇ、私のこと好き?」私は彼に聞いてみた。
「そんなの当たり前でしょ」彼はそう言ったあと、セブンスターを口に咥え、火をつけた。そして、大きく吸いこんだあと、白く吐き出した。
2
だけど、その約束は1年半くらいで終わった。高校を卒業したあと、彼と私はそれぞれ別の街に住み、遠く離れることになった。
私は私なりに彼は彼なりに過ごしていたら、連絡はすれ違い、連絡は途切れ、やがて関係性に意味を見出すことができなくなった。それは次の飛来地に行くことを諦め、留まることにした白鳥と飛んでいった白鳥との違いのようなものだ。私は留まっただけだった。
大学で身近な彼らと知り合い、身近な彼らと打ち解けようとしたけど、すべて上手くいかなかった。
私はこうして大学を卒業し、新卒で事務職に就いた。
3
毎日働いて、色んな人と話しているけど、ひとりぼっちなのはなんでだろう。ひどく疲れる毎日だった。何年も同じことをして、気が休まらない休日を過ごし、あるはずもない出会いに淡い期待をした。東京での一人暮らしはきつかった。仕事をする代わりに何かを失ったような気がした。
ローソンの牛乳瓶が白く濁る夜。あの日、あの灰色の階段に座っている彼のことを思い出した。残業が終わって、ヘトヘトな状態で家まで歩いていた。パンプスの裏は痛く、歩くのすら面倒だった。バッグからiPhoneを取り出し、LINEの友達リストから、彼のアイコンを見つけ出した。
彼のアイコンはすでに知らない乳児の顔になっていた。
なにか揺れたような気がしたけど、電柱も車も道路もなにも揺れていなかった。ただ、もう永遠に戻らないなって思った。
元ネタの詩
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