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物語の魔力に想う〜住野よるさん『腹を割ったら血が出るだけさ』〜

こんにちは。桜小路いをりです。

先日、住野よるさんの『腹を割ったら血が出るだけさ』を読み終えました。

残酷で、痛くて、切実で。
でも、行間がすごく優しくて。

私は、こんなふうに真っ直ぐに小説そのものを捉えたことがあっただろうか。

私は、この物語の誰に似ているだろうか。

そんなふうに、読んでいる最中はもちろんのこと、読んだ後も、ずっと逡巡し続けています。

この本の登場人物たちは、それぞれが「どんなものよりも大切にしていること」を持っています。

そして、それは、人間なら誰もが(多かれ少なかれ)いだいているような、「憧れ」だったり「理想」です。

全員、完璧なようでいて人間臭かったり、不完全さが逆に愛おしく感じたり。

感情移入とか、同情だけではとても読めないような。
共感ともまた違う、もっと深いところで登場人物と共鳴できるような、そんな読書体験ができたような気がします。

(語り手が細かく変わっていく構成になっているからこそ、かもしれませんが)そこに書かれている人物の目と心を借りて、実際にその状況を体験させてもらっているような臨場感がありました。

さすが、住野よるさん。人間の魅力溢れるお話で、痛みの中に温かさがあって、私にとって大切な一冊になりました。
『腹を割ったら血が出るだけさ』という、思わずドキッとするようなタイトルも含めて、住野作品らしい痛みと温かさがあります。

この物語は、『少女のマーチ』という、ひとつの小説を主軸にして回っていきます。

あらすじをご紹介したい気持ちもあるのですが……個人的には、まっさらな状態で読んだからこその感動もたくさんあったので、できるだけネタバレをしないように感想だけ。
あらすじが気になる方は、ぜひ他の方のサイトや記事をご参照ください。

私がこの小説から感じたのは、「小説」というものの魔性の魅力、いわば「魔力」でした。

この作品には、「その魔力に魅入られた人」がいて、「その魔力をかけられても魅入られなかった人」がいて、「その魔力を器用に使っている人」がいます。

そして、「小説」というものの主人公になりたくて、なれなかった人がいて。
本人は気づかないうちに、「小説」の主人公のようになっている人がいて。
かつて、本当の意味で「小説」の中の主人公だった人がいます。

ひとりの小説好きとして、小説を書いている人間として、興味深い文章がいくつもありました。

そして、この作品の中で、ちょっと捻くれているけれど優しくて温かくて愛され上手な、「あの人」と再会できたことも、とても嬉しかったです。(名言はされていませんが……少なくとも私は、「あの人」だと思っています。)

住野よるさんの『腹を割ったら血が出るだけさ』、ぜひお手に取ってみてください。

個人的には、「住野よるさんの第二作品『また、同じ夢を見ていた』が気になっているけれど未読」という方は、そちらから読むのがいいのかなと思います。

物語がもつ魔力を、その残酷さと温かさを、ぜひ体感してみてください。

今回お借りした見出し画像は、カラフルでファンタジーな雰囲気のイラストです。「表紙の雰囲気に合わせてカラフルな画像がいいな」と、みんなのフォトギャラリーを眺めていたときに見つけました。見た瞬間、「あ、これにしよう」と即決でした。「たくさんの画像の中のうちのひとつと、不意に目が合う」ようなこの感じ、noteの醍醐味です。

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