すべての物語好きに贈るバイブル〜「物語のカギ」〜
こんにちは。桜小路いをりです。
先日、渡辺祐真さん(スケザネさん)の『物語のカギ 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』を読み終えました。
本書では、古今東西の文学作品の他、映画、マンガなどを幅広く取り上げながら、「物語」をより楽しむためのカギが紹介されています。
「読むこと」に慣れている方にも、「読むこと」のビギナーさんにも、色々な方に読んでいただきたい一冊です。
私が本書を手に取ったきっかけは、「読む力」を鍛えたいという想いはもちろんのこと、「書く力」も磨きたいと思ったからでした。
「読み手が持っていると、『読むこと』がより楽しくなる」という視点を紹介している本ならば、すなわち「書き手が知っていれば、より楽しく『読んでもらえる』」のではないかと。
今回は、読書大好き、「書くこと」大好きな私が、微力ながら本書の魅力をお伝えできるような記事にしていく予定です。
最後までお読みいただければ嬉しく思います。
『物語のカギ』の内容
本書のポイントは、「物語を読むこと(味わうこと)」に、ひたすら焦点を絞った本であること。
「物語」と聞くと、何を思い浮かべますか?
小説、という方が多いのではないでしょうか。
しかし、実際には、マンガ、映画、ゲームのシナリオ、ドラマなども、全部「物語」です。
本書では、どんな物語も存分に味わい尽くせるようになるポイントが、多数紹介されています。
構成はこんな感じ。
私なりに、ざっと章ごとの要点をまとめてみました。
第二章に関しては、「物語を書くこと」にも役立てられるところがいくつもあり、私のように「読み手の視点からより良い文章・物語のヒントを得たい」という方にもおすすめです。
『物語のカギ』の感想
親しみやすい語り口と、細やかな注釈、様々なジャンルを縦断する豊富な参考文献などなど。
本書は、読書の幅や興味の幅がより広がり、より深くなるような「バイブル」だと感じました。
また、色んな作品を通じて細やかに解説してくださっているところもポイントです。
ただ、一部ネタバレになりそうなほど作品の内容に深く突っ込んでいるところもあったので、もし「ネタバレなんぞ言語道断!」という方がいらっしゃったら、ある程度自衛しながら読む必要がありそうです。
私自身は、なかなか自分から触れない作品ばかりが紹介されていたので、とても新鮮でした。
個人的に印象に残ったのは、カギ6として紹介されている「焦点化」という手法についての解説です。
テレビドラマ「相棒」の右京さんが、なぜあれほどミステリアスに映るのか、その答えが書いてあります。
演出の仕方の素晴らしさなど、誰もが知る人気作品が人気たる所以を、いくつも吸収することができます。
印象的だったところ
次に、特に印象に残った部分を引用させていただきます。
物語にひたっているとき、たった一人で本を読んでいるはずなのに、不思議と孤独ではない。
本から溢れてくる温もりが、指先に伝わってくるような感覚の正体は、これだったのかもしれないと感じました。
私は、以前『サクラダリセット』や『いなくなれ、群青』(通称『階段島』シリーズ)などの河野裕さんの作品にハマっていた時期がありました。
河野さんの作品は、少し哲学的で、象徴的な比喩表現もたくさんあって、何より優しくも鋭い視点で切り取られる世界観が魅力的です。
読んでいて、よく分からないところが全くなかったわけではありませんでした。
でも、その「分からない」というふわふわとした感覚までもが、どこか心地よかったことを覚えています。
その感覚への言いようのない疑問が、この一節ですっとほどけた気がします。
上記の部分が、本書の「核」のように感じました。
誰にでも、「この人にしか感じ得ないこと」ってあると思います。
たぶん、みんなが同じ感想をもつような本だったら、人気にも有名にもなれないのではないかと思います。
そして、みんなが色んな感想をもつから、「書評ブログ」や「読書ブログ」が面白いし、「読書会」や「読書感想文」がなくならない。
考えること、感情を掬い上げることを、これからもあきらめずに続けていきたい。そう思える一節です。時折読み返していきたいと思います。
ひとりの創作が好きな書き手として、とても胸に響いた一節。
素敵な本、素敵な作家さん(書き手さん)の文章を読んでいると、もう天から降ってきた神様からの贈り物なんじゃないかと思うほど素晴らしい文章に出会うことがあります。
でもそれは、もちろん神様からの贈り物(才能)による部分もあるけれど、何よりその人自身の経験による部分、その経験によって磨かれた感性の賜物だと思います。
どんな文章も、その人の人生そのものから紡ぎ出されたものであることを忘れずに読んでいきたいです。
そして、私自身も、自分の経験や、自分の人となりが滲み出てくるような奥行きのある文章を書けるように精進していきたいと思います。
まとめ
「物語」って、「なくても困らないもの」の代表格のような気がします。
そういえば、そんなようなことを九段理江さんの『Schoolgirl』という芥川賞候補作の中でも論じられていました。
でも、それと同時に「物語」というものは、「なくても困ることはないかもしれないけれど、あるほうが圧倒的に素敵なもの」の代表格でもあると感じます。
場合によっては、「物語」によって人生が変わってしまったり、「物語」によって生かされているような状態になったり。
そして、「読む技術」、「味わうための鍵」を満足に持っていなかったせいで、「人生を変えるかもしれない物語」が、「ただの娯楽の物語」になってしまうこともあるのではないかな、と感じました。
『物語のカギ』に出会えたことは、これからの大きな財産になりそうです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『物語のカギ』、ぜひお手に取ってみてください。
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