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鋸山に行って来たよ-13

これまでのお話

歩きやすいふれあいの道をルンルン進んでいくと小屋があった。近づいてみるとトイレで、私が「使う」と言うと珍しくたぁも「使う」と言う。

トイレは(多分)ぼっとんだけどティッシュはあって、手もちゃんと洗えて清潔で良かった。

「トイレ綺麗だったね」

「嘘っ、すごく臭かった」

「えっ、女子トイレはそんなことなかったよ。小(便)の場所?」

「うん。すっごく臭かった。作りに失敗した感じ」

「こっちはすごい良い作りだった」

「えー」

もしかしたら男性の小トイレもぼっとんでも蓋とかなかったのかもしれない。外出先でトイレをほとんど使わないたぁだけに、外れくじを引いたことがちょっとかわいそう。

ならば外の空気で気持ちをリフレッシュだ。

再びルンルン歩いていくと先の道がちょっとわかりづらくなった。すると前の階段から人が下りてきて行くべき道を示してくれた。

ありがとう。

その傍には満開に近い桜が咲いている。

春はもうすぐそこまで来ている。

もしかしたらもう来ているのかもしれない。

寒い季節から暖かい季節へ変わる時、ウキウキする自分がなんだか好きだ。
本当は寒暖差や気圧変動で自律神経が乱れがちになって、疲れ気味になったり寝づらくなったりするのにね。

階段の上はちょっとした広場になっていて楕円形に囲まれて敷地の中がベンチになっている。

「なんだか大きなプールみたい」

たぁは嬉しそうに言う。

私はただの休憩所としか思えなかったので、『人の見方ってそれぞれだなぁ』と静かに思う。

14時48分、観月台に到着。

今までよりも海が近くに感じられて下ってきたことが分かる。
そこには老夫婦カップルがいて、私たちに気づいた彼らは階段へ向かい、手前の岩場で男性がこけた。海景色と奥さんに見惚れていたのかもしれないけど、苦笑いして足の状態を確認してから消えていった。
とりあえず大きな怪我ではなさそうだったので、私たちは余計なことはせずにただ見守っていた。

「山で会うカップルって仲がいいよね」

それを聞いたたぁは微笑む。

「趣味を分かち合うって大切なことだよね」

「うん」

だからこれからも私たちは一緒に旅してハイキングして、合気道して時間と人生をたくさん共有しようね。

脚が長い大きなベンチを見つけた。

「たぁ、おいで。子供になれるよ」

「本当?子供になりたーい」

人はいつだってピーターパンである。

深く腰掛ければ二人の足は宙に浮いて、ブラブラを楽しむ。
ベンチと言えば休憩するのにちょうど良いように脚が短いのが一般的。

「ニュージーランドのストリーベイのベンチ思い出さない?海が見える細い道に大きなベンチだけあったの」

「思い出す」

細い道の横は海へと続く鋭い崖。狭い場所にも関わらず、海景色が素晴らしいからか日除けのない場所にベンチは設置されている。座るのにもジャンプ力がいる脚長ベンチだ。

思い出に浸りながら座っていると椅子の上を歩いていた自由な毛虫さんが角度を変えて下り始めた。広い場所を独り占めしていたのにおっきなお尻が二つもやってきて場所を独占したことに憤慨したのかもしれない。

「横になっても落ちないんだね」

彼は地面と90度になっているとは思えないほど普通に下っている。

創造物、各々特性を持っている。

もうこの後は土道などなくただ階段を下っていくだけ。下れば下るほど荒い階段も補正されたものへと変わっていく。

「階段がどんどん歩きやすくなるね」

「本当、だからさっきの家族も『これなら大丈夫』だと思ってきちゃったんだんだろうね」

「奥さんの靴見た?」

「見たよ」

たぁもあのバレーシューズ風な靴を無言で気にしていたのだろう。昨日、雨が降った今日は少なからずぬかるみがあり、苔が生えた岩場階段も十分、すべりやすい。

今日二度目、彼女の綺麗なふわふわスカートが汚れませんようにと、勝手に祈る。

ずっと続く階段。整備されて歩きやすいんだけど左膝に痛みが響いて、明日のハイキングを不安にさせる。

いろいろと試してみると右足だけを曲げて左足を伸ばし気味で降りると痛みがないことに気づいた。そんな研究をしながら歩くもんだから進みがノロくなってしまう。幅が広くない階段で後ろから来た人を待たすのも申し訳ないので、痛みを誤魔化しながらソソソっと歩く。

「歩道が見えた」

「ここに出てきたんだね」

「えっ、ここどこだかわかるの?」

「わかるよ。最初に、二手に分かれた場所だよ」

そう言われても私はどこに辿り着いたかわからず、歩道に降りてやっとわかった。

あぁー、ここから車力道へと進んだね。

15時02分、今年初めての楽しいハイキングが終わった。

「膝が痛い。これだともうグレートウォーク行けないかも」

グレートウォークとはニュージーランド政府が推薦する10の連泊ハイキングコース。面白さにはまって3つクリアしている。全クリアが目標だけど、こんな激痛が走るようになった足でこれからも楽しめるか心配だ。

「大丈夫。今はマクマホンで歩きな」

アメリカプロレス、WWEのおえらいさんの特徴的な股を開いた歩き方をたぁがやったので真似してその後ろを歩く。

「膝の負担がとれて歩きやすい」

それよりも一緒に同じ動きしながら並んで歩くのが楽しかったよ。

二人とも飽きてしばらくしたら止めたけどね。


【無空真実よりお知らせ】

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

11月22日にAmazon Kindleより電子書籍を出版いたしました。

私のんとたぁが彼の母国であるニュージーランでハイキングやキャンピングカー旅を楽しんだ旅行記です。

日本とは異なる環境下で旅する二人。
今回も自然に触れながらゆっくりとした時間を過ごしていくことで頭の中のモヤモヤを解放へと導くことが出来ました。

夫婦喧嘩やとんだすったもんだ、瞑想での気づき、そして自然が与えてくれる豊かな時間まで、模索して生きる二人の旅をどうぞお楽しみください。

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